上 下
33 / 51

33.女嫌い

しおりを挟む
「俺はお前が考えているほどいい男でもないし、紳士的でも誠実でもない。仮に結婚した所で俺はお前と一生同衾するつもりもない。女に触られるだけで気持ちが悪くなってしまう男なんだ、俺は」
「え……」

 やはり驚きを隠せない様子。そりゃあそうだろう。一切肉体関係を持たないと言っているのだから、子無し宣告も同然だ。あと、気持ち悪くなるのは本当の事。

 ついこの間まで俺の部屋を担当していたメイドや図書館にいた女に何度も迫られて、無理やり既成事実を作ろうと襲い掛かられた。それ以来女という女が苦手になってしまったのだ。カーリィ以外に体を触られると下手をすれば吐くほどに。

 だからそれらの女は強引に裏から手をまわしてクビにしてやった。あの図書館の女も僻地送りにしてな。今までそうやって俺を色目で見てくる痴女共を排除してきたが、この苦手意識はここまでくると一生治りそうもない。やはり俺にはカーリィしかダメだという事。


「お前を含めた女に今まで近寄られたり触られたりして気持ちが悪かったって言いたいんだ。となると、俺とお前の間にこれ以上の関係は望めないし、俺とお前の間に子供も永久に望めない。跡取りなんてのもお前と取る予定もない。こんなうだつの上がらない男と結婚してお前は幸せにはなれないだろう。だから、大事になる前に今のうちにお前からあれは間違いだったと国民に向けて謝罪しろ。新聞各社に己の虚言だったと書かせてな」
「そんな事っ……」

 令嬢の女はいろんなショックを受けていて動けない。元はと言えばそっちがデマを流すからこういう事になるんだ。

「で、でも……あなたは小さい頃、私を嫁にと言ってくださりました。あの約束はどうなさるのですか!?」
「幼少の頃の約束なんぞ時が過ぎれば変わる事もあるだろうが。政略的な婚約に本気で恋慕を抱かれても困るんだよ。それに事情が事情だ。お前も立場上わかるだろう?ガキができないイコール肩身の狭い思いをする事になる。つまり、跡取りのできない女なんぞ側近共から白い眼を向けられて針の筵。三年子無きは~って言うだろ。ガキのできない俺と結婚してもお前になんのメリットも意味もない。あるとすれば飾り物の皇妃の座くらいか……って言ってもそんなお飾り椅子は重荷にしかならないだろう。という事でもう俺に余計な期待をするな。関わるな」
「それでも……わたくしはアラン様をっ……アラン様をお慕い申しております!子供がいなくてもわたくしはあなたと添い遂げたいのですっ。どうかおそばに……」

 令嬢は泣きながら俺に手を伸ばし、縋り付こうとする。俺はパシリとその手を払いのけた。ここまで言ってまだ引き下がらないとか空気が読めないメンヘラ女だな。俺も人の事言えないが。

「気安く俺に触るなよ。どの女に触られても反吐が出るんだ。これ以上近寄らないでいただきたい」
「アラン様っ!!」

 令嬢を無視して側近のジャレットに目配せする。

「後日、私が他にいい男性を紹介させましょう。帝国軍人の爵位を持つ有能な殿方を。貴女にとって決して悪くない男性だ。これからはその殿方相手に愛でもなんでも囁いてもらうといいでしょう。それでは失礼。まだ公務が残っておりますので」
「アラン様っ!いや……待って!」
「ジャレッド、ファンティーヌ嬢のお帰りだ。お見送りの準備を」

 俺は言い終わる前に背中を向けてバラ園を出て行こうとする。背後から「御意」と首を垂れる有能な腹心のジャレットは、早々に部下に指示を出している。

「いや……!アラン様!アラン様ぁ!」

 令嬢は立ち去ろうとする俺の名を叫んでいる。それに対してやっぱりなんの感慨もわかなかった。女なんてカーリィ以外はどれも同じだ。身を着飾るばかりで、中身の良さを磨こうとしない我儘で喚く女ばかり。大嫌いだ。


 *

「ふう……終わった」

 一階の廊下の掃除と客間の清掃が完了し、私は流れる汗を拭った。あとはノア君がよくいる古い図書館前の廊下で今日の業務は完了だ。

 働き始めて半年が経ち、以前よりかは仕事のスピードが速くなった事に嬉しくなる。メイド長や執事長も褒めてくれて充実している毎日。

 明日もがんばろうとぐっと背伸びをすると、向こうの柱からしくしくとすすり泣く声が聞こえてきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件

百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。 そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。 いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。) それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる! いいんだけど触りすぎ。 お母様も呆れからの憎しみも・・・ 溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。 デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。 アリサはの気持ちは・・・。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

処理中です...