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11.月夜の再会

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 それだけ言って、フレッドさんは名残惜しそうに行ってしまった。あの人の言う通り、今だけはお姫様気分になってもいいのだろうか。だけどこんな敵地にいるような場所で一人はとても不安だ。

 フレッドさんがいなくなった後、どうすればいいのやらと一人ぽつんと取り残されて居た堪れない。

 周りは次々と男性達が女性達にダンスの申し込みをしている最中、私はあきらかに異質で浮いている気がしてならない。雰囲気がもう田舎者臭がしているのかこちらに話しかけてこようとする者はいないし……。

 一曲くらいはって思っても、礼儀も作法も知らない私に何ができるのか。やっぱり恥をかくだけじゃないのか。

 踊れない私がこの場にいてもしょうがないし、やっぱり戻ろう。フレッドさんには悪いけど、ここにいちゃいけない気がする。田舎者にはひどく場違いだ。綺麗な格好ができたのでもう十分。

 そうして引き上げようと出口へ向かうと、誰かから声を掛けられた。

「綺麗な人、どうか私と一曲踊って頂けませんか?」

 仮面をつけているので顔の中身はわからない。が、見るからに成金貴族のような胡散臭そうな雰囲気を漂わせる男だった。

 綺麗な人って……私の事?いやいやいや。きっと私の事じゃないよね。私は今から帰るし、ダンスなんてやっぱり無理。ごめんなさい。他を当たってくださいと意思表示をする。

「わ、わたくしなどと踊ってはあなた様のひ、品位を落とすと思いますゆえに……」
「謙遜する所が変わっておりますね。でもそういう所が逆に気になりました。どうかわたくしと……」
「いえいえ、謙遜も何も本当の事でして……あとダンスはほとんど踊ったことがなくて無理でして……」
「そうおっしゃらずに。リードはいたしますので」

 予想に反して引かない男。断り続ける私に対して後に引けなくなったのか、いきなりガシリと手首を掴んできた。吃驚して反射的に腕を振り払う。強引なのが悪い。

「ですからご遠慮します!すいません!」

 私は怖くなって早々にその場から逃げ出した。必殺のまわし蹴りをしないだけよく我慢したものだよ。


 ドレスの裾を持ち上げながら、歩きづらいガラスのハイヒールで駆けて何度も躓きそうになる。だけどあの場にいたら、先ほどのような男に声を掛けられると思うと居たくなかった。

 やはり自分には場違いな場所だ。早く着替えて仕事に戻ろう。そしたら誰にも声を掛けられずに仕事に没頭できる。あとこのドレスが非常に動きづらいし早く脱ぎたい。だから出口を探しているのだが……ここ、どこだよ。

 来たことがないフロアに出ちまった。完全に迷いましたおつかれさまです。

 この宮殿の中はとても広い。三か月住んでいる私でさえ未だに迷う。ここが出口かなと思って扉を開けてみれば広いバルコニー。静かで穏やかな風が頬を掠めていく。かれこれ出口を探して何度も扉を開けまくっているが不正解ばかり。

 一体会場の出口はどこなんだよおぉお。誰か教えてちょーよ。

 疲れた足で引き返そうとすると、バルコニーから見える月と星空の明るさに目移りした。

 綺麗だなあ。そういえばこんなに綺麗な月や星空を見るの久しぶりかも……。

 山では毎晩のように見ていたあの頃が懐かしい。ここは夜も明るい都会だからたまにしか見えないんだよな。

 出口を探すのに疲れたので、一先ず夜空の景色を眺めて休憩しよう。慣れないハイヒールのせいで足が痛くて疲れた。近くのベンチに腰かけようとしたら、すぐ近くの柱で気づかなかったが先客がいた。


「チッ」

 先客は盛大に舌打ちをして不機嫌さを孕んだ顔を月明かりで覗かせた。

「あー……こ、こーたいしさま」

 つい動揺した声が出てしまった。性悪皇子だ――。

 今は皇太子らしい白い軍服の宮廷衣裳を纏っている。いつものプラチナゴールドの髪はくしで撫でつけられており、美形な顔がより男前で美しさに磨きがかかっていた。

 はっきり言えばとても似合っている。女性以上に綺麗な顔立ちだ。かの皇太子ファンクラブの皆さんが見れば黄色い悲鳴を上げて卒倒するかもしれない。

 顔だけはいいんだよ。顔・だ・け・は!


 そんな皇太子サマはせっかくの自分の時間を邪魔されたと言わんばかりの顔で睨んできた。無言の圧力というか、眉間に皺が寄っているので確実に怒っているだろう。こちらの領域に踏み込んでくるなと、まるで壁を作って威嚇しているようだ。

 私に対してブス呼ばわりするくらいだから、基本的に誰に対してもこうなんだろう。

 彼が仮面をつけていないのは、ここには誰も来ないからと安心しきっていたからなのかな。皇子という立場上女性は引く手あまた。ミーハーな女達から逃げ込んで休息している所、お邪魔虫な私が来ちゃって警戒しているって所か。これは悪い事をしちゃった。

 だから休憩中失礼しましたとすぐに出て行こうとすると、懐に入れていた自室の鍵が音を立てて転がってしまった。しかもへたくそな自作のマスコット付き。大昔に作ったあまりに下手くそな出来のものだ。なんでこんなのまだ付けてたんだろ、恥ずかしい。慌てて拾おうとすると、

「それ、お前が作ったのか?」
「………………え」

 まさか話しかけられるとは思っていなくて、一瞬空耳かと思った。

「お前が作ったのかと訊いてんだ」
「へ、へいッ!そうですます!わたくしめが作りましたですます!」

 目上の人から威圧的に返事を促されたので、つい元気よく返事をしてしまった。性悪皇子とはいえ、下手な対応をすると不敬扱いとみなされて仕事がクビになるので仕方なくだ。でなければこんな性悪男など今頃ぶん殴っていただろう。

「……ヘッタクソ……」
「―――っ」

 悪かったな。と、青筋が額に浮き出た。

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