8 / 17
8.
しおりを挟む
その夜、いつも通りに仕事を終えて帰り道を警戒しながら歩いた。
最近この辺りは何かと物騒らしいので、周りを注視しながら歩を進める。知り合いはこの辺で痴漢に遭ったらしい。だから少し怖くなって歩くスピードもいつもより早めだ。
周りの気配に神経を研ぎ澄ませていると、背後から人の気配がする。それだけなら同じ方向へ向かうただの通行人だと思えるが、足音や歩くペースがまんま自分と同じだった。
ゆっくり歩けば背後の者もゆっくり歩き、小走りすれば背後の者も小走りする。なんだか付けられている気がしてひどく不気味に思えた。
もしかして痴漢か――!?
私は意を決して振り返った。が、相手はいきなり振り返った私に驚いたのか脱兎のごとく走り去る。ニット帽をかぶってマスクをしているので顔はよくわからなかった。体格的に成人男性だ。逃げる時点でやましい事目的だろう。
自分のようなブスを狙う物好きもいるものだな。と、この時は大して気にもしなかった。
それから何事もなく自宅に帰って疲れた顔でベットにダイブ。仕事の疲労と精神的なものに脱力する。
「直君……」
ぼそっと好きな人の名前を呟きながらスマホのトーク画面を開く。何かを打ち込もうとしたがすぐやめる。
彼はいつでも送ってきていいと言ってくれたが、妹と今頃デート中だと思うと送っても意味がない気がする。むしろ、送ってなんの意味があるんだろう。
どうせ妹と直君は――……
だけど、妹がただ出まかせを言っただけかもしれないし……と、そう考えていると妹からメッセージが届いた。嫌な予感がして開くと、Vサインをしている妹とこちらを見つめている直君の画像だった。
やっぱり……デートだったんだ……。
二人して会っていたんだ……。
嫉妬と悲しさに乾いた笑いがこみあげてくる。彼から妹の方に乗り換えたと言われるのも時間の問題だ。
もう……どうでもいいや……。
フラフラと立ち上がったその時、玄関の戸からコンコンと誰かがノックをする音がした。
こんな時間に誰……?
夜更けにチャイムじゃなくてノックをするあたり怪しさ倍増だ。やっぱり巷で有名な痴漢かもしれない。
どうしよう。怖いな。
居留守を使おうかと考えたが、何度もノックをしてくるのでいるのがわかっているのだろう。放置ができず、音を立てずにそっと玄関へ向かう。
痴漢だったらとりあえず傘で殴って対処しよう。それからすぐに警察に……
そうして緊張しながら玄関ののぞき穴を覗くと、誰もいなかった。いつの間にかノックも止んでいた。それに少しほっとして脱力しそうになる。
アパートの住人が部屋を間違えたのかな。
怪訝に思いながら寝室へ戻ろうとする。と、突然扉が開いて、さっき遭遇した痴漢男が立っていた。私は言葉にならない悲鳴をあげそうになり、後ずさった。
しまった。鍵をかけ忘れた。
「おい、なんで怖がるんだよ」
え、え、その声は……元彼?
痴漢男は帽子とマスクを徐にとって正体を見せた。やはり元彼だった。
「せっかく逢いにきてやったのによ、彼氏様にビビるなんてひどくね?」
「あんた……っ」
そりゃあビビるだろうよ。こんな時間だ。何時だと思っている。そもそも彼氏様ってなんだ。
「お前の妹と彼氏をとっかえる条件をのんでやったのに」
「はい……?」
何を言っている。彼氏をとっかえる条件?なんだそれ。妹とグルだったという事?
「何を……言っているの。ていうかさっき怪しさ満載でこちらに近づいて来たくせになんなの。痴漢かと思ったじゃない。突然逃げたりもしてさ。そりゃあ怖がるに決まってるでしょ」
「怪しく近づいたのは悪かったよ。時間も時間だから警察呼ばれると思ってよ、つい逃げちまった」
「そもそもこんな時間に来るのが悪いんでしょ。あんた妹とグルだったの?」
「あー妹ちゃんはどうしてもお前のイケメン彼氏と付き合いたいみたいでな、婚約破棄する代わりにお前をあげるって押し付けてきたんだ。これが彼氏とっかえの約束。まあ、これで元鞘に戻ってめでたしめでたしって事なんだよ」
「何それ。勝手に決めたそんな約束は無効だよ。私はOKしてないし……大体、こんな時間に言いに来る事じゃないでしょ。とりあえず帰ってよ!」
帰れと促しているのに、元彼はなぜか私に近寄ってきた。
「帰るわけないだろ。お前なんかの元鞘に戻ると言ってんのに言う事きけよ。手間取らせんな地味ブスが」
「ッ――だから勝手に決めないでよ!虫がよすぎるでしょ!妹にホイホイ乗り換えたあんたなんて願い下げ!死んでも嫌だねっ!」
「なんだとっ!」
元彼の目が据わる。私との距離を縮めるようにどんどん近づいてくる。気持ちが悪くて後ずさるが、なおも元彼は近づいてきて、逃げ腰の私の両肩を掴んでその場で押し倒した。
「いやだっ!」
最近この辺りは何かと物騒らしいので、周りを注視しながら歩を進める。知り合いはこの辺で痴漢に遭ったらしい。だから少し怖くなって歩くスピードもいつもより早めだ。
周りの気配に神経を研ぎ澄ませていると、背後から人の気配がする。それだけなら同じ方向へ向かうただの通行人だと思えるが、足音や歩くペースがまんま自分と同じだった。
ゆっくり歩けば背後の者もゆっくり歩き、小走りすれば背後の者も小走りする。なんだか付けられている気がしてひどく不気味に思えた。
もしかして痴漢か――!?
私は意を決して振り返った。が、相手はいきなり振り返った私に驚いたのか脱兎のごとく走り去る。ニット帽をかぶってマスクをしているので顔はよくわからなかった。体格的に成人男性だ。逃げる時点でやましい事目的だろう。
自分のようなブスを狙う物好きもいるものだな。と、この時は大して気にもしなかった。
それから何事もなく自宅に帰って疲れた顔でベットにダイブ。仕事の疲労と精神的なものに脱力する。
「直君……」
ぼそっと好きな人の名前を呟きながらスマホのトーク画面を開く。何かを打ち込もうとしたがすぐやめる。
彼はいつでも送ってきていいと言ってくれたが、妹と今頃デート中だと思うと送っても意味がない気がする。むしろ、送ってなんの意味があるんだろう。
どうせ妹と直君は――……
だけど、妹がただ出まかせを言っただけかもしれないし……と、そう考えていると妹からメッセージが届いた。嫌な予感がして開くと、Vサインをしている妹とこちらを見つめている直君の画像だった。
やっぱり……デートだったんだ……。
二人して会っていたんだ……。
嫉妬と悲しさに乾いた笑いがこみあげてくる。彼から妹の方に乗り換えたと言われるのも時間の問題だ。
もう……どうでもいいや……。
フラフラと立ち上がったその時、玄関の戸からコンコンと誰かがノックをする音がした。
こんな時間に誰……?
夜更けにチャイムじゃなくてノックをするあたり怪しさ倍増だ。やっぱり巷で有名な痴漢かもしれない。
どうしよう。怖いな。
居留守を使おうかと考えたが、何度もノックをしてくるのでいるのがわかっているのだろう。放置ができず、音を立てずにそっと玄関へ向かう。
痴漢だったらとりあえず傘で殴って対処しよう。それからすぐに警察に……
そうして緊張しながら玄関ののぞき穴を覗くと、誰もいなかった。いつの間にかノックも止んでいた。それに少しほっとして脱力しそうになる。
アパートの住人が部屋を間違えたのかな。
怪訝に思いながら寝室へ戻ろうとする。と、突然扉が開いて、さっき遭遇した痴漢男が立っていた。私は言葉にならない悲鳴をあげそうになり、後ずさった。
しまった。鍵をかけ忘れた。
「おい、なんで怖がるんだよ」
え、え、その声は……元彼?
痴漢男は帽子とマスクを徐にとって正体を見せた。やはり元彼だった。
「せっかく逢いにきてやったのによ、彼氏様にビビるなんてひどくね?」
「あんた……っ」
そりゃあビビるだろうよ。こんな時間だ。何時だと思っている。そもそも彼氏様ってなんだ。
「お前の妹と彼氏をとっかえる条件をのんでやったのに」
「はい……?」
何を言っている。彼氏をとっかえる条件?なんだそれ。妹とグルだったという事?
「何を……言っているの。ていうかさっき怪しさ満載でこちらに近づいて来たくせになんなの。痴漢かと思ったじゃない。突然逃げたりもしてさ。そりゃあ怖がるに決まってるでしょ」
「怪しく近づいたのは悪かったよ。時間も時間だから警察呼ばれると思ってよ、つい逃げちまった」
「そもそもこんな時間に来るのが悪いんでしょ。あんた妹とグルだったの?」
「あー妹ちゃんはどうしてもお前のイケメン彼氏と付き合いたいみたいでな、婚約破棄する代わりにお前をあげるって押し付けてきたんだ。これが彼氏とっかえの約束。まあ、これで元鞘に戻ってめでたしめでたしって事なんだよ」
「何それ。勝手に決めたそんな約束は無効だよ。私はOKしてないし……大体、こんな時間に言いに来る事じゃないでしょ。とりあえず帰ってよ!」
帰れと促しているのに、元彼はなぜか私に近寄ってきた。
「帰るわけないだろ。お前なんかの元鞘に戻ると言ってんのに言う事きけよ。手間取らせんな地味ブスが」
「ッ――だから勝手に決めないでよ!虫がよすぎるでしょ!妹にホイホイ乗り換えたあんたなんて願い下げ!死んでも嫌だねっ!」
「なんだとっ!」
元彼の目が据わる。私との距離を縮めるようにどんどん近づいてくる。気持ちが悪くて後ずさるが、なおも元彼は近づいてきて、逃げ腰の私の両肩を掴んでその場で押し倒した。
「いやだっ!」
1
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
旦那様が不倫をしていますので
杉本凪咲
恋愛
隣の部屋から音がした。
男女がベッドの上で乱れるような音。
耳を澄ますと、愉し気な声まで聞こえてくる。
私は咄嗟に両手を耳に当てた。
この世界の全ての音を拒否するように。
しかし音は一向に消えない。
私の体を蝕むように、脳裏に永遠と響いていた。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?
真理亜
恋愛
「アリン! 貴様! サーシャを階段から突き落としたと言うのは本当か!?」王太子である婚約者のカインからそう詰問された公爵令嬢のアリンは「えぇ、死ねばいいのにと思ってやりました。それが何か?」とサラッと答えた。その答えにカインは呆然とするが、やがてカインの取り巻き連中の婚約者達も揃ってサーシャを糾弾し始めたことにより、サーシャの本性が暴かれるのだった。
〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····
藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」
……これは一体、どういう事でしょう?
いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。
ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した……
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全6話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる