6 / 17
6.
しおりを挟む
不安そうな直の表情に対し、自分の顔は茹蛸のように真っ赤になっているのが手に取るようにわかる。それだけ熱烈に想われていた事を知れば、躊躇う必要なんてない。
「こ、こんな年上の行き遅れ確実の私でいいなら……」
「自信がなさすぎるのも考え物だけど……でも、甲斐の良さがわかるのはオレだけで十分。モテられても困るし、オレが心配で夜も眠れなくなりそうだから」
「そこまで心配するもんなの?」
「するよ。オレの原動力は甲斐がいるかどうかにかかってるんだ」
直の大きな手が頬に寄せられて、気が付けば優しいキスをされていた。
夢じゃないよね……。
仕事中に昨日の直とのひと時を思いだして一人悶絶していると、見知った顔が来客した。妹の婚約者であり、一応自分の元彼であった男だった。
私は主に厨房担当なのだが、手が離せない店長に接客をお願いされて仕方なく対応する事になった。
「いらっしゃいませ、お席はこちらになります」
妹の婚約者といえど、今は仕事中なので接客モードに徹する事にする。
「甲斐、聞いてくれよ!お前の妹が最近電話に出てくれなくて、会ってもくれなくて……」
「今は仕事中ですので、私情でのご用件は後でにお願い致します。それでご注文は?」
「だから、お前の妹が最近電話にも出てくれねーし、家に行っても無視されてしまいには暴言吐かれたんだよ。婚約者なのにひどくないか?プロポーションよくてセックスも気持ちいいから付き合ってやったのに間違いだったよ。甲斐の方がよかったって今更ながら気づくなんて」
元彼の自分勝手な台詞に開いた口が塞がらなかった。
何を今更……と、言い返しそうになったが自制心を働かせた。そもそも、お客さん達の前でなんて下世話な話をするものだとドン引きだ。
「お客様、大声での会話は他のお客様のご迷惑になりますので慎んで「なんだよ!!」
「お前元俺の女だろ!?俺を慰めてくれよ!たしかに快楽に負けてお前の妹に走ってしまったのは悪いと思ってるよ!だけどお前も俺の元女なんだしさ、まだ時効過ぎてないよな?元鞘に戻れよ。俺、やっと真実の愛に気付いたんだ。お前の方が地味だけど優しくて料理も上手で空気も読める女だって事。ビッチな妹より中身が大事なんだってわかったんだ!」
元彼は私の手首を掴んで尚も大声で話すのを止めない。周りのお客さんからこちらを困惑した様な目で見る者や好奇で見る者等様々で、こちらとしても周りの視線が我慢ならない。大迷惑だ。
そもそも何が真実の愛だ。都合が悪くなったから戻って来いって虫がよすぎる。こちらを舐めるのもいい加減にしろと思う。
「あの、離してください。他のお客様のご迷惑になります。騒ぎ立てないでください。これ以上騒ぐようなら警察を呼びます。威力業務妨害ですよ」
「ちっ……待ってるからな!仕事終わった頃にまた来る」
警察と聞いてさすがに部が悪くなったのか、元彼はそう言い残して去って行った。
先ほどのやりとりのせいで、あらぬ噂を立てられてこのお店にいずらくなってしまうかもしれない。
「さっきの事だけど、いきなり店に来るのはやめてほしい。あんな大勢の場で話す事じゃないでしょう!」
仕事が終わった後、やはり元彼は店の外で待ち構えていた。この際なのでしっかりケリをつける事にする。婚約している立場の妹といい、この元彼といい、こちらは第三者としてかなり迷惑しているのだ。
「悪かったと思ってる。でもお前の妹が非常識だからだろ。婚約者を放っておいてどうなってんだよお前の家族」
妹はともかく、お宅も相当非常識だろうと特大ブーメランをかましたいが、あえて突っ込まない。
「妹や家族とはほとんど連絡をとってないから知らない」
ぶっちゃけ縁を切りたい。それほどまでに嫌悪している。両親は妹の味方ばかりで私をほぼ空気扱い。暴力はそこまでないにしろ虐待レベルな事はよくされた。そんな両親にここまで育ててくれた感謝はあれど、情なんてこれっぽっちもない。
「とにかく、私は妹の事は知らないし関わりたくもない。か、彼氏だっているのであんたと付き合う事もないから放っておいてください!」
それだけ言い放ち、元彼の様子を見ないでその場を大股で後にした。
これから直と食事デートの約束をしているので、急いで自宅に帰って身支度を整えなければ。煩わしい元彼と妹の事なんてさっさと忘れて楽しもう。
「こ、こんな年上の行き遅れ確実の私でいいなら……」
「自信がなさすぎるのも考え物だけど……でも、甲斐の良さがわかるのはオレだけで十分。モテられても困るし、オレが心配で夜も眠れなくなりそうだから」
「そこまで心配するもんなの?」
「するよ。オレの原動力は甲斐がいるかどうかにかかってるんだ」
直の大きな手が頬に寄せられて、気が付けば優しいキスをされていた。
夢じゃないよね……。
仕事中に昨日の直とのひと時を思いだして一人悶絶していると、見知った顔が来客した。妹の婚約者であり、一応自分の元彼であった男だった。
私は主に厨房担当なのだが、手が離せない店長に接客をお願いされて仕方なく対応する事になった。
「いらっしゃいませ、お席はこちらになります」
妹の婚約者といえど、今は仕事中なので接客モードに徹する事にする。
「甲斐、聞いてくれよ!お前の妹が最近電話に出てくれなくて、会ってもくれなくて……」
「今は仕事中ですので、私情でのご用件は後でにお願い致します。それでご注文は?」
「だから、お前の妹が最近電話にも出てくれねーし、家に行っても無視されてしまいには暴言吐かれたんだよ。婚約者なのにひどくないか?プロポーションよくてセックスも気持ちいいから付き合ってやったのに間違いだったよ。甲斐の方がよかったって今更ながら気づくなんて」
元彼の自分勝手な台詞に開いた口が塞がらなかった。
何を今更……と、言い返しそうになったが自制心を働かせた。そもそも、お客さん達の前でなんて下世話な話をするものだとドン引きだ。
「お客様、大声での会話は他のお客様のご迷惑になりますので慎んで「なんだよ!!」
「お前元俺の女だろ!?俺を慰めてくれよ!たしかに快楽に負けてお前の妹に走ってしまったのは悪いと思ってるよ!だけどお前も俺の元女なんだしさ、まだ時効過ぎてないよな?元鞘に戻れよ。俺、やっと真実の愛に気付いたんだ。お前の方が地味だけど優しくて料理も上手で空気も読める女だって事。ビッチな妹より中身が大事なんだってわかったんだ!」
元彼は私の手首を掴んで尚も大声で話すのを止めない。周りのお客さんからこちらを困惑した様な目で見る者や好奇で見る者等様々で、こちらとしても周りの視線が我慢ならない。大迷惑だ。
そもそも何が真実の愛だ。都合が悪くなったから戻って来いって虫がよすぎる。こちらを舐めるのもいい加減にしろと思う。
「あの、離してください。他のお客様のご迷惑になります。騒ぎ立てないでください。これ以上騒ぐようなら警察を呼びます。威力業務妨害ですよ」
「ちっ……待ってるからな!仕事終わった頃にまた来る」
警察と聞いてさすがに部が悪くなったのか、元彼はそう言い残して去って行った。
先ほどのやりとりのせいで、あらぬ噂を立てられてこのお店にいずらくなってしまうかもしれない。
「さっきの事だけど、いきなり店に来るのはやめてほしい。あんな大勢の場で話す事じゃないでしょう!」
仕事が終わった後、やはり元彼は店の外で待ち構えていた。この際なのでしっかりケリをつける事にする。婚約している立場の妹といい、この元彼といい、こちらは第三者としてかなり迷惑しているのだ。
「悪かったと思ってる。でもお前の妹が非常識だからだろ。婚約者を放っておいてどうなってんだよお前の家族」
妹はともかく、お宅も相当非常識だろうと特大ブーメランをかましたいが、あえて突っ込まない。
「妹や家族とはほとんど連絡をとってないから知らない」
ぶっちゃけ縁を切りたい。それほどまでに嫌悪している。両親は妹の味方ばかりで私をほぼ空気扱い。暴力はそこまでないにしろ虐待レベルな事はよくされた。そんな両親にここまで育ててくれた感謝はあれど、情なんてこれっぽっちもない。
「とにかく、私は妹の事は知らないし関わりたくもない。か、彼氏だっているのであんたと付き合う事もないから放っておいてください!」
それだけ言い放ち、元彼の様子を見ないでその場を大股で後にした。
これから直と食事デートの約束をしているので、急いで自宅に帰って身支度を整えなければ。煩わしい元彼と妹の事なんてさっさと忘れて楽しもう。
1
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?
曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」
エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。
最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。
(王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様)
しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……?
小説家になろう様でも更新中
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる