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眼鏡の中の秘密4
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再び図書館での勉強会を再開させた。
勉強を教える時の彼は学校での態度と一緒だけれど、素の彼を知ってしまった自分にもう苦痛は感じない。
あれほど億劫だった勉強会も、なんだか楽しく感じてしまえる余裕すら出てきた。
先ほどの手の握り合いのせいだろうか。だいぶ互いの距離が縮まった気がする。
俺はうれしくなった。
それと同時に、成績の方にも変化があった。
たった一日という時間でさえも、三隅のおかげで簡単な小テストは楽勝にクリアできた程だ。
「今日はここまで。また明日だ」
「あれ、明日は日曜だから図書館あいてないよ?」
「オレの家でするんだよ」
「え」
俺はきょとんとした。
次の日、その言葉通りに俺は三隅の家の超豪邸を訪れた。
すげぇでっけえ家。
玄関では使用人が出迎え、畏まり、俺を中へ入れる。
メイドなんか「おかえりなさいませ」とか言ってて、一斉にお辞儀をするのだ。
まるで漫画やドラマみたいな世界である。こんな世界が実際にあるなんて貧乏人からは信じられない光景だ。
でもこういう気分は滅多に味わえないから、悪くない。
とりあえず三隅の豪華な部屋のテーブルについた俺は、参考書やらノートを出してキョロキョロしながら待っていた。あまりに豪華で煌びやかな部屋に落ち着かない。目のやり場が多い。
リアルにこんな豪華絢爛な部屋にいる自分も不思議な気分だよ。
「広いよなぁ。まるで架空の世界のお屋敷だよ」
「そのうち慣れるよ」
三隅が返答しながら部屋に入ってきた。
「今、茶菓子でも用意させる」
「あ、ありがとう。でも……別に」
「いいんだよ。茶菓子くらいで遠慮すんな」
テスト勉強一つで、こんなに待遇を良くしてもらえるなんて悪いな。
すごくおいしそうなケーキやら、甘い香りがする紅茶を執事が部屋まで運んできてくれるもんだから驚きだ。この紅茶のカップや皿なんかも高いんだろうな。
大金持ちからすればこれくらいの世話なんか当たり前の事なんだろうけど。
「三隅ってこんな大金持ちでそんな容姿だと、いやでも女が寄ってきそうだよな」
俺が何気なくそう言うと、その通りだと言わんばかりに三隅は深く息を吐いた。
「……でも、そうなりたくないから学校では隠してるんだよ」
「ふーん……だからわざとあんな牛乳瓶底の眼鏡かけてたんだ。じゃあ、好きな人とかいるのか?」
「いるよ」
三隅は小さく答えた。
「あ、いるんだ。そう、か」
「………ああ」
俺はなぜか、少し胸が痛くなった気がした。
「ど……どんな人なんだよ?」
動揺を隠しきれないまま、俺は訊いてはだめだとわかっていても知りたい欲求が抑えきれなかった。
「さあ。どこにでもいるような奴じゃね?」
なぜか微笑みを浮かべている彼は、曰くありげだった。
「どこにでもいそうな奴?なんだそれ」
「その言葉通り、どこにでもいそうな奴だ。普通すぎて笑えるくらい」
「そうなんだ。なんで、そんな普通な奴を好きなんだ?」
ますます気になった俺は、さらに訊ねた。
「小さい頃、一緒に遊んだ事があるからだな」
小さい頃、か。
「そ、そっか。幼馴染ってやつか」
聞いていられなくなり、その話題を引きずるのをやめた。
「あの、俺ちょっとトイレ行ってくるよ」
同時に三隅の顔すら見ていられなくなり、俺は逃げるように部屋を出たくなった。
どうしてこんなモヤモヤした気持ちになっているんだろう。
どうしていきなりつまらなくなるんだろう。
なんか胸が痛い。三隅に好きな人がいて、それでなんで自分がいらつく必要があるのか。
三隅がどんな子と付き合おうが、どんな女の子に惹かれようが自分に関係ないじゃないか。別に特別な関係でもないのに。
なのに……溜息がとまらない。
「はぁ…」
大理石のトイレに案内され、一人何度も鏡を見てはため息を吐いた途端、
「何、してんだよ」
「ッうわあぁああ!!」
背後からの不意打ち声に盛大に驚いた。
三隅が知らないうちに来ていたらしい。
「あまりに遅いから様子見に来たんだ。そんなびっくりすんなよ」
「ご、ごめ……ちょっと空気を吸いに……」
「具合悪いのかよ?」
三隅が心配そうに一歩近づいた。
近づかれて、見つめられるだけで緊張してしまう。
まともに顔を見れない。
できれば近寄ってこないでほしいのに。
勉強を教える時の彼は学校での態度と一緒だけれど、素の彼を知ってしまった自分にもう苦痛は感じない。
あれほど億劫だった勉強会も、なんだか楽しく感じてしまえる余裕すら出てきた。
先ほどの手の握り合いのせいだろうか。だいぶ互いの距離が縮まった気がする。
俺はうれしくなった。
それと同時に、成績の方にも変化があった。
たった一日という時間でさえも、三隅のおかげで簡単な小テストは楽勝にクリアできた程だ。
「今日はここまで。また明日だ」
「あれ、明日は日曜だから図書館あいてないよ?」
「オレの家でするんだよ」
「え」
俺はきょとんとした。
次の日、その言葉通りに俺は三隅の家の超豪邸を訪れた。
すげぇでっけえ家。
玄関では使用人が出迎え、畏まり、俺を中へ入れる。
メイドなんか「おかえりなさいませ」とか言ってて、一斉にお辞儀をするのだ。
まるで漫画やドラマみたいな世界である。こんな世界が実際にあるなんて貧乏人からは信じられない光景だ。
でもこういう気分は滅多に味わえないから、悪くない。
とりあえず三隅の豪華な部屋のテーブルについた俺は、参考書やらノートを出してキョロキョロしながら待っていた。あまりに豪華で煌びやかな部屋に落ち着かない。目のやり場が多い。
リアルにこんな豪華絢爛な部屋にいる自分も不思議な気分だよ。
「広いよなぁ。まるで架空の世界のお屋敷だよ」
「そのうち慣れるよ」
三隅が返答しながら部屋に入ってきた。
「今、茶菓子でも用意させる」
「あ、ありがとう。でも……別に」
「いいんだよ。茶菓子くらいで遠慮すんな」
テスト勉強一つで、こんなに待遇を良くしてもらえるなんて悪いな。
すごくおいしそうなケーキやら、甘い香りがする紅茶を執事が部屋まで運んできてくれるもんだから驚きだ。この紅茶のカップや皿なんかも高いんだろうな。
大金持ちからすればこれくらいの世話なんか当たり前の事なんだろうけど。
「三隅ってこんな大金持ちでそんな容姿だと、いやでも女が寄ってきそうだよな」
俺が何気なくそう言うと、その通りだと言わんばかりに三隅は深く息を吐いた。
「……でも、そうなりたくないから学校では隠してるんだよ」
「ふーん……だからわざとあんな牛乳瓶底の眼鏡かけてたんだ。じゃあ、好きな人とかいるのか?」
「いるよ」
三隅は小さく答えた。
「あ、いるんだ。そう、か」
「………ああ」
俺はなぜか、少し胸が痛くなった気がした。
「ど……どんな人なんだよ?」
動揺を隠しきれないまま、俺は訊いてはだめだとわかっていても知りたい欲求が抑えきれなかった。
「さあ。どこにでもいるような奴じゃね?」
なぜか微笑みを浮かべている彼は、曰くありげだった。
「どこにでもいそうな奴?なんだそれ」
「その言葉通り、どこにでもいそうな奴だ。普通すぎて笑えるくらい」
「そうなんだ。なんで、そんな普通な奴を好きなんだ?」
ますます気になった俺は、さらに訊ねた。
「小さい頃、一緒に遊んだ事があるからだな」
小さい頃、か。
「そ、そっか。幼馴染ってやつか」
聞いていられなくなり、その話題を引きずるのをやめた。
「あの、俺ちょっとトイレ行ってくるよ」
同時に三隅の顔すら見ていられなくなり、俺は逃げるように部屋を出たくなった。
どうしてこんなモヤモヤした気持ちになっているんだろう。
どうしていきなりつまらなくなるんだろう。
なんか胸が痛い。三隅に好きな人がいて、それでなんで自分がいらつく必要があるのか。
三隅がどんな子と付き合おうが、どんな女の子に惹かれようが自分に関係ないじゃないか。別に特別な関係でもないのに。
なのに……溜息がとまらない。
「はぁ…」
大理石のトイレに案内され、一人何度も鏡を見てはため息を吐いた途端、
「何、してんだよ」
「ッうわあぁああ!!」
背後からの不意打ち声に盛大に驚いた。
三隅が知らないうちに来ていたらしい。
「あまりに遅いから様子見に来たんだ。そんなびっくりすんなよ」
「ご、ごめ……ちょっと空気を吸いに……」
「具合悪いのかよ?」
三隅が心配そうに一歩近づいた。
近づかれて、見つめられるだけで緊張してしまう。
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できれば近寄ってこないでほしいのに。
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