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 ティオを屋敷に連れ帰り、フラヴィオの部屋でレオと共に早急に治療に当たった。

「ひどく衰弱している。まともなモノを食べさせてなかったようだな。それに体の打撲痕も想像以上だった。あの時見つけていなかったら本当に危なかった」

 体中の青あざや怪我などの手当てを順に行い、感染症がないかなどの体内の状態も確認。骨は折れていないし、病気や薬物による異変もなくてホッとする。

 しかし、臀部の裂肛による傷を見てフラヴィオは感情を抑えきれなかった。無理やりねじ込まれたような痕は豚との行為を嫌でも思わせられて、怒りがぶり返しそうになるがレオに叱咤されて事なきを得る。

「熱が高いな。下がるまで静かに見守るしかない」

 傷自体は大したことがなかったが、怪我による熱発が出ている。そのせいか深夜になってもティオは目覚める気配がなかった。

 なかなか熱も下がらず、目を覚まさないティオに不安で心配でたまらないフラヴィオは、本来の公爵の仕事どころではなく、真夜中でありながら一時間に一回は様子を見に来てしまっていた。書類に目を通して判子を押す事も面倒くさがった。

 明けた翌日も、仕事の合間に様子を見に来ては依然と目覚めないティオに肩を落とし続ける。悪夢でも見ているのか、時々うなされた様子で呻き声をあげ、それが悲鳴に変わる。その苦しみを何度自分が変わってやりたいと思った事か。

 何もしてあげられない自分がもどかしくて、無力で、惨めとすら思える。

「や……いや、だ……やめ、て……やあああああっ!!」
「ティオ!ティオ!」

 うなされている。またあの豚に犯されている悪夢を見ているのか。夢の中でさえティオをまだ蝕み続けるあいつが心底憎らしくてたまらない。

「ここにはあいつはいない。いないから……俺がいるから……」

 そのたびにティオの手を握りしめて、大丈夫、大丈夫と、ひたすら声を掛け続ける。やがては落ち着くが、時間が空いた頃にまた同じようにうなされる。ほぼ毎日何回か。

「く、そ……」

 ティオの体中の殴られた暴行痕を見るだけで、吐き気がするほど豚への憎しみが炎上する。できる事なら、もっと地獄を見せてやりたかった。あれだけではまだ生ぬるかったと思う。

 昨夜の事だ。レオと部下達はグレイソンの身柄を近くのある場所へ移した。そこは凶悪犯罪を起こした下手人などの尋問や拷問をするための収容所。長年働いている使用人ですら存在を知らない隠し施設で、グレイソン以外にも何人か収容されている。

 陛下にはグレイソンの死亡報告は済んでいるが、まだかろうじて生かしている。動く事すらままならないグレイソンを死なない程度にレオが治療を施し、ティオの看病の合間にフラヴィオもそれに加担する。屠殺場での豚の解体ショーの始まりというべきか。

 そしてその晩、


「ほら、食え。お前の好きな奴隷の睾丸の一部だ。好きだろ?可愛らしい稚児の下半身を貪るのが。大層悪趣味だな」

 フラヴィオは手袋越しにその一部を、椅子に座らせて拘束しているグレイソンの目の前に差し出した。

 本宅と秘密のアジトの家宅捜索を行っていた際に発見した遺体の一部だ。遺体の状態からしてまだ新しい。殺されてそう時間は経っていないだろう。

 しかし、性別や顔が判別不能なほど損傷が激しく、バラバラにされて氷箱に保存されていたので、イーサンの仕業ではなくこの豚の犯行シュミだろうと察した。

 どうして殺害したか説明を求めると、豚はたどたどしい言葉で、この子供に飽きたので性交渉をしながら殺し、死姦しながら斧で遺体をばらして、あとでその一部を反社組織に売りつけるつもりだったのだと言う。

 呆れた理由だ。殺された子供にひどく同情する。その一部を拷問のタネとして使用している己もどうかしているが。

「じゃあ、ちゃんと食わないとな。好きなものほど残すなんて勿体ない」

 それを無理やりグレイソンの口をこじ開けてねじ込んだ。

「んっ、んーーーぅおげっえぇぇ!!」

 涙目のグレイソンは次第に吐き気を抑えきれずにその場で嘔吐した。びちゃびちゃと酸っぱいものが床を汚す。

「チッ……汚ない。好きなものを食べて吐くなよ。下衆が」

 苛立つように腹を軽く蹴りつけた。

「おい、フラヴィオ。そこまでにしとけ。ゲロ臭くてかなわん。あまりやると取り調べの前に死んじまうだろ」

 狂気の目を宿しているフラヴィオに怯みながらもレオは普段の態度でなだめる。姉も蹂躙されて殺され、愛するティオでさえ同じように失う所だった。気持ちは痛いほどわかるからこそ、こうしてこの場を設けた。思う存分恨みを晴らしてほしいという幼馴染の計らいだ。

「レオ。湯浴みの準備をしておけ。こんな汚い格好でティオの元へは帰れない」
「はいはい。部下に頼んでおくよ」

 そこで今までの自らの罪をうまく誘導尋問して暴かせた。自分のした事や罪を認めれば楽にしてやるという甘言を持ちかけて、全てを吐かせた。もちろん楽にしてやるなんて全くのデタラメである。

 この程度で溜まりに溜まった憎しみと憎悪が消えるはずもない。今までしてきた行いがどれだけ非道で汚らしい行為かと、悍ましい拷問で身に染みてわからせてやった。それでも足りはしなかったが。

「豚。最期に、言いたいことはあるか?」

 返り血だらけの顔でフラヴィオは無表情で訊ねた。グレイソンの両手足は全て欠損し、暴れに暴れまくった自慢の下半身もフラヴィオによって失っている。豚の解体ショーはそろそろフィニッシュにさしかかる所。

「た、だすげ、で」
「死ね」

 フラヴィオの持つ斧がグレイソンの頸をはねた。生首は床にバウンドして転がる。その表情はフラヴィオに恐怖と絶望を抱いたままで止まっている。

 犯した罪を懺悔するわけでもなく命乞いか。つまらん。最後まで保身を口にするばかりなクズだった。

 そして、その臓器をバラバラにし、その足で反社に売りつけに行ったとレオが言っていた。本当の豚のように他所へ流通していった事に笑えるが、あんな不健康な臓器でさえもこの世に存在している事が腹立しく思う。獣にでも食わせればよかった。

 幼気なティオを見て触って堪能した挙句に激しい暴力を働いたのだ。嫌がるティオの意思などお構いなしに、何度も何度も胎内に汚い子種を注ぎ、姉にも同じことをしたと思うとこの上なく怒りでまた我を失いそうになる。

 あんな汚物のような存在など、生きているだけで、いや、この世に存在するだけで許されない事。今更ではあるが、存在すらも抹殺してやりたいと思った。

 考えれば考えるほど自分の中にいるもう一人の自分がいて、醜い憎悪の炎を滾らせようとする。それでもティオの頬を撫でたり、手を握っているだけでこの憎悪の炎がわずかに半減する。眠っている中でも、ティオは自分の心を守ってくれているのだと、愛おしさがよりこみ上げてきた。

「ティオ……お前の笑顔が見たい」

 太陽のような純粋な笑顔が。もじもじして恥じらう可愛らしい仕草が見たい。

「愛してる……ティオ」

 そっと唇に口づけて、またくるよ……と耳元で囁いて、気が乗らないながらも仕事に戻った。

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