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96.災い

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 その瞬間、上空の雨雲から唐突に稲光が天空を裂く勢いで落ちた。

「ぎゃぁぁあああああーーっ!!」

 まるで天が狙いを定めたようにリリアの脳天にだけ直撃する。凄まじい落雷音と共に。

 突然の落雷に一同は絶句した。
 リリアは衝撃の断末魔をあげ、バチバチと放電させて肉体を滅ぼしていく。


 自然に落ちた落雷とは違い、数秒間ずっと放電し続けて、まるで意図的に落ちたもののように感じられてしばらく消えない。

「ぁああああぁああ…………」

 金切り声が途絶えた末に影がしぼんで消える。すると放電現象がやっと収まり、そこにいたリリアの存在は跡形もなく消えてなくなっていた。存在すら焼け焦げて灰すらも残らなかった。一瞬、あたりはしんと静まり返る。

「運命の番の災い……かもしれない」

 ぽつりと、メルが放心しながらそう呟いた。

「あ……」
「昔の文献の一つに、落雷で命を落とす災いもあったって見たことがあるんだ……」

 そういえば、このゲームのバットエンドの一つにも落雷があった気がする。攻略キャラに運命の番が出来てしまい、それをヒロインが引き離そうとして訪れる落雷破滅エンドというものが。それと同じパターンに陥って、ヒロインは本当に落雷破滅エンドを迎えてしまったようだ。



「それにしてもよかった……。祐希が無事で、本当にっ」

 メルが泣きそうな顔で抱き着いてきた。安心したせいで脱力してしまっている。

「っ……それはこっちの台詞でもあるよ……恭太さんっ」

 パスカルも抱きしめ返す。

「あの時と同じ事がまた起こるかもって背筋がぞっとした……生きた心地がしなかった」
「俺も……恭太さんがやられちゃうんじゃないかって不安だった……怖かった」

 改めてぎゅっと抱きしめあって、お互いに無事を喜び合った。


 *

 
「いやはや、無事でよかった」
「本当、一時はどうなるかと思ったわ」

 数日後、メルの脇腹の怪我がだいぶよくなってきたので、改めて陛下と妃殿下にジェイコブを斃した事と、リリアが雷に打たれて災いによって亡くなったことを報告した。リリアの事は驚いていたが、ジェイコブの事は手に余ると暗澹たる思いを抱いていたようで、ホッとした様子であった。

「運命の番の災いか。言い伝えや文献通りだったという事だな」

 やはり運命の番による災いは紛れもなく本当だという事。

「災いばかり目立っているけど、祝福したりすれば逆に幸せを呼び寄せてくれるのよ。運命の番って」

 災いの文献が多すぎて災いにのみ注目されがちだが、祝福すればその分その人物に幸運が訪れたり、国の平和にも大いに繋がる。私利私欲で引き離そうとする貴族共にとっては痛い話だ。

「そういえばヴァユ国のレナードが城下で平民暮らしを頑張っておるようだぞ」
「リリアと出会わなければ、あの男は元々まともな方ではあったからな」

 それでも攻略キャラなのでどこか抜けている事には違いないが。

「リリアが亡くなったって知って災いにビビっておったが、やはりそれなりにショックは受けていたようだ。他の子息の連中もな」
「……まあ、なんだかんだ言って婚約破棄までしたくらい好きな相手だったわけですからね」
「他の子息も一報を聞いた後は抜け殻のような顔をしていたようだ。だが、その翌日は憑き物が落ちたように普通に戻ったらしい」
「いろいろと狂わせる存在ね、そのリリアって子」
「トランプでいうジョーカーみたいなもんですよ、きっと」

 ヒロインをバットエンドにさせる。それがヒロインにヘイトをため過ぎた製作者や数多のプレイヤー達が望んだエンディング。そのヒロインがいなくなったこの世界はハッピーエンドゲームクリアだ。

「そういえば結婚式の準備、進んでる?」
「ええと……男でも着られるウエディングドレスモドキのようなのを作ってもらってます」

 デザインはトマスらしい。なんでも前世では凄腕デザイナーとして働いていたらしく、裁縫が得意なのだとか。今世では男として生まれたせいで針子やデザイナーとしての道は潰えたが、趣味としてはやり続けているそうでたまに自作の服を作っているらしい。

 そんなトマスに男がドレスなんて着れないよなーとぼやいていたら、男でも変に思われないウエディングドレスを作ってあげると言われて頼んだ。もちろん、女装しているように見えずに綺麗になれるようなデザインを。



 
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