上 下
89 / 98

89.リリアの正体とは

しおりを挟む
「ああっ、メルキオール君!来てくれたんだね!私のためにっ!もうこんな暗い中に閉じ込めておくなんてひどいと思わない?か弱い女の子をさっ。ぷんぷん」
「相変わらずお前は懲りない女だな……」


 メルが姿を見せた途端にぱあっと顔を明るくさせる女。昨日の事などなかったかのような態度で牢屋の入口前まで寄ってくる。学習力がないのか、それとも……いや、何も考えていないだけだろう。

 硫酸をかぶった顔は包帯が巻かれ、目だけが見える状態になっている。結構な量をかぶったのだ。ただ傷が残るレベルではないだろうと思う。時間経過した今もそれなりにヒリヒリして痛いはずだ。それでも痛がらずに呑気に声を掛けてくるこの女の精神の図太さだけは尊敬に値するものだ。

「だって恋する乙女はなんだってがんばれちゃうんだからっ。メルキオール君のためなら私っ、どんな事も耐えられるわっ」
「悲劇のヒロインぶって自分に酔ってるな。そんな姿になってまでよくオレにすり寄ろうとするな。執着されてマジうぜぇんだけど」
「うぜぇって……やっぱりメルキオール君は意地悪だよっ。そんな意地悪な所もひねくれてて好きだけどぉっ」
「お前に好かれてオレは世界一不幸だね。あーやんなっちゃう」
「私は世界一幸せだもんっ!運命の番はパスカル君じゃなくて私になってるんだからっ。夢の中で白馬に乗ったメルキオール君が迎えに来てくれてぇ、花束持って優しい言葉を掛けてくれるんだからっ。それでね、お花畑できゃっきゃして初キッスしてぇ、お花畑で初めてのエッチしちゃうの。そこでね、妖精さん達が祝福してくれてね、みんなに見守られながらいっぱいまた愛されるんだぁ。きゃっ、祝福されながらのえっちとか恥ずかしい」
「…………きっしょ。妖精に見られながら青姦とかどんな罰ゲームだよ。羞恥プレイとかオレ趣味じゃねーし。ステレオタイプの少女趣味もここまでくると鳥肌立つわ。まじきんも。おえっ。吐きそう」
「ううう、吐きそうとかひどぉおおい!恋する乙女の願望なのにっ」
「恋する乙女どころか股開きのビッチだろうが。キショい妄想暴露すんなや」

 ああ、どんな姿になってもこの女は典型的なヒロイン像なのだ。昔ながらの王道な少女漫画のヒロイン脳で、天然無自覚の男誑し。どんな男も惚れさせてしまうゲームの強制力という力を持っているので、きっと強制力魅了は死なない限り永遠に男を誘惑し続けるのだろう。無自覚に、無意識に。

「まあ、好き勝手妄想の中で白馬に跨る偽物なオレに愛されてなよ、夢見る夢子の阿婆擦れちゃん。明日の深夜にお前はどうせ処刑だろうけどな」
「ええっ、処刑?処刑って何?処刑ってうそでしょぉ!?私、何も悪い事してないもんっ!なんで?なんで?」
「お前はバカだからわかりやすくゆっく~り説明してあげると、お前の仲間に国家転覆を企む男が複数いたわけ」
「え、こっかてんぷく?」
「この帝国を滅ぼそうとする奴らって事。それにお前は知らずに加担してたの。仲間にしてた。わかる?わかるよね?それわかんないともうお前生きてる意味ないよ。死んで赤ちゃんからやり直した方がいいね、阿婆擦れちゃん」
「ぶうううう!バカにしないでよっ!さすがにそれはわかるもん!ぷんぷんっ!」
「ならこの状況の深刻さは理解してる?知らなかったじゃ済まないし、げんにお前はオレをおびき出すためにパスカルとキャロライン嬢を誘拐した首謀者だ。知らなかったとか、そんなつもりなかったじゃ済まされない。それ以外でもお前はヴァユ国でレナードを筆頭とする王侯貴族を引っ掻き回し、国の税金で豪遊して好き勝手してた。これ以上お前の所業は見過ごせないわけ。てことで、さっきお前の処刑が決まった。お前の両親は泣いてたけど、処刑には納得してたよ」
「っ……し、信じられないモン!私悪い事してないのにっ!そ、そりゃあパスカル君とかを誘拐はしちゃったけど、こうでもしないとメルキオール君は私を見てくれないじゃないっ!」

 見てくれない、か。

 そう言えば前世の元嫁もそんな事を言っていた。前世で結婚前の女遊びがひどかった頃や、パスカルユウキと仲良くするようになった時に。

『恭太さんはあの男の子ばかり構って私を見てくれようとしないじゃない!』って――。

 やっぱり、この女のモデルは元嫁にしか思えない。どれもこれもそっくりすぎるのだ。

「オレが見てくれないからって誘拐にまで走るとか、マジドン引きだから」
「でも、でもっ……メルキオール君が好きだからっ」
「デモダッテとか、好きだからとか、大した言い訳なさすぎて聞くのも嫌になってくるな」
「だってぇ……好きになったら止まらないんだもんっ!恋する乙女なんだもんっ!」

 そうしてすぐ涙目になって感情的なるのも元嫁そっくりだ。

「あーもうどうでもいい。オレが一番怒ってるのはパスカルを誘拐して汚い奴らに凌辱させようとした事だ」
「それは……別に殺そうとしたわけじゃないし、ちょっとちがう男の子とスルだけなんだから。大した事ないじゃんっ!」
「セックス大好きなお前からすれば大した事はないだろうな。誰構わず股を開くなんて普通は嫌だから。不快で不潔だから。倫理観がズレてんだよお前。普通じゃないの。わかる?」
「そうなの?あんなにも気持ちいい事なのに嫌がるなんて変なのぉ。ていうか不潔だなんてひどいっ!」

 ああ、やっぱりこの女に何を言っても無駄だなと察する。所詮は元嫁の亡霊のようなものだ。人間相手と話していると思わない方がいいだろう。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

ざまぁされる廃嫡王子がいい男なのだが?

あさいゆめ
BL
11.10 45話にてやっと【R18】らしくなりました。 11.08 どうやら廃嫡予定の王子は廃嫡はされなかったけど、王子ではなくなった模様です。 タイトルと主要人物の設定だけ決めて書き始めましたのでちょっとあらぬ方向に向かっています。 主人公のジュリアスってば総受けらしいです。 どうやら僕は婚約破棄された令嬢をいただく隣国のスパダリ皇子らしい。 だけど廃嫡予定の王子がいい男なのだが? R18指定となっておりますが、なかなかエロいところまでいけないかもしれません。作者としてはなんとかやらせたいのですが、そこは本人達のがんばり次第なので、エロが無いじゃないか!とお怒りになられる方がいらっしゃるかもしれませんので、最初に謝っておきます。誠に申し訳ございません!

【完結】役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ

鏑木 うりこ
BL
僕は王宮で能無しの役立たずと全員から疎まれていた。そしてとうとう大失敗をやらかす。 「カイ!お前とは婚約破棄だ!二度と顔を出すんじゃない!」  ビクビクと小さくなる僕に手を差し伸べてくれたのは隣の隣の国の王子様だった。 「では、私がいただいても?」  僕はどうしたら良いんだろう?え?僕は一体?!  役立たずの僕がとても可愛がられています!  BLですが、R指定がありません! 色々緩いです。 1万字程度の短編です。若干のざまぁ要素がありますが、令嬢ものではございせん。 本編は完結済みです。 小話も完結致しました。  土日のお供になれば嬉しいです(*'▽'*)  小話の方もこれで完結となります。お読みいただき誠にありがとうございました! アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会で小話を書いています。 お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354

転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo
BL
屈強な辺境伯爵家の三男に転生した主人公は、家族大好き!推しも大好き! チート能力を自分の好きにしか使わないけど、案外努力系主人公です。 推し達の幸せの為なら、こっそりギルドにだって登録しちゃうし、嫌いな奴の婚約破棄に暗躍するし、ドラゴンだって仲間にするし、嫌な奴は叩き潰します! 一応R18ですが、それまで長いです。とてもとても長いです。やだもう長〜い。一応※を付けておきます。 そこからはどこそこ※になります。 エロは十分頑張ります。 ※男性同士の結婚が普通にあります。 ※男性の妊娠出産も普通にあります。 誤字や名前が違うぞ?とお気づきになられたら、ぜひ教えてください!

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

結婚10年目で今更旦那に惚れたので国出したら何故か他国の王太子に求婚された件。~星の夢2~

愛早さくら
BL
結婚して10年……初めは好きではなかったはずの旦那に今さら惚れてしまっていたたまれなくなってきたので、子供たちも大きくなってきたことだしと、俺は留学する長女(養子)に護衛として着いていって……――つまり国出することにした。もちろん、旦那には内緒で! 主人公のティアリィが、今更な恋心耐えきれなくなってきた頃、養子にした長女のピオラが嫁ぐ予定の国へと留学することになった。 心配でもあるしちょうどいいと旦那に内緒で護衛に扮して着いていくことにして……――何故か年甲斐もなく学生生活を送る羽目に! その上、他国人でありながら国を揺るがす陰謀に巻き込まれていって?! 果たしてティアリィは無事に旦那の元へ帰れるのか? また、ピオラの婚姻は? ・過去作「婚約破棄された婚約者を妹に譲ったら何故か幼なじみの皇太子に溺愛されることになったのだが。」及び「悪役令息?だったらしい初恋の幼なじみをせっかく絡めとったのに何故か殺しかけてしまった僕の話。」の10年後の話です。※この2本は視点が違うだけで同じお話。 ・上記2本と違い、今回は視点がころころ変わる予定です。 ・本文も一人称と三人称が混在するかも。 ・他国に嫁ぐ前提で嫁ぎ先の国へ留学するピオラに黙って無許可に着いていったティアリィが他国で無双する話。になる予定。 ・もちろん殿下に了承なんて得てない。 ・何故かピオラの婚約者予定の留学先の王太子に惚れられる。 ・男性妊娠も可能な魔力とか魔術とか魔法とかがある世界です。 ・主人公のティアリィは養子含めて5人の子持ち。 ・相変わらずのありがちな異世界学園悪役令嬢婚約破棄モノ(?)になります。 ・微ざまぁ的な展開も無くはないですが、そこまで心底悪い悪人なんて出てこない平和な世界で固定CP、モブレ等の痛い展開もほとんどない、頭の中お花畑、ご都合主義万歳☆なハッピーハッピー☆☆☆で、ハピエン確定のお話なので安心してお楽しみください。 ・プロポーズしてくる王太子は当て馬で旦那とは別れません、固定CPです。 ・R18描写があるお話にはタイトルの頭に*を付けます。

ざまぁ?違います。お前が好きなだけです。

天災
BL
 ざまぁ?違います。お前が好きなだけです。

婚約破棄されましたが、辺境の地で幸せになれそうです。魔石爆弾(グレネード)が幸せを呼ぶ⁉︎

深月カナメ
恋愛
  ここは小説の世界。 学園の卒業後、ヒロインの姉で脇役の私は、婚約者の第一王子に婚約破棄された。 次に私に待っていたのは辺境伯との結婚⁉︎ 待って、辺境伯って、両親を亡くし後を継いだ、妹を好きな1人じゃない。 そんな彼と結婚したら白い結婚……それもいいじゃない、好きにさせてもらうわと思っていたのだけど。 あれれ、違うの⁉︎

処理中です...