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88.ゲームの強制力
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その夜、身も心もスッキリして二人仲良く皇宮に戻る。すっかり風呂場での行為から我慢ならなくなって、結局昼過ぎまで求めあってしまったせいで、パスカルは足腰が立たなくなってしまっていた。自分で歩けないほどに腰も痛い上に声も枯れているので、今日一日はメルに世話をされっぱなしである。
「パスカル、眠い?」
「うん……」
「今日はオレの部屋で寝ようね」
皇宮の者達が近寄っても恥ずかしがることなく、未だに顔が赤いままぼうっとしてメルに横抱きで運ばれている。眠気もあるのか次第に腕の中でウトウトし始めていて、そのままメルキオールの自室のベットに寝かせるとすぐに熟睡し始めた。穏やかに眠るパスカルに軽くキスをして、その場を立ち去る際にはメルはスッと視線を細めて皇太子の顔に戻った。
「あの女は地下牢か?」
近くにいた部下に鋭く訊ねる。
「はい。自由にさせるとまた男を誑し込む恐れがありますので、一番最下層の地下牢に」
最下層の地下牢は最も重い罪を犯した重罪人を収容する監獄。皇族の命を狙った者、意図的に国家の転覆を目論む者、大虐殺などの大罪人が入れられるため、安全のために地下牢専属の刑務官以外は出入りが禁じられている場所だった。
地下数十メートル先の階段まで降りると、やっとその入り口のドアが見えてくる。一定の距離で壁に設置されたガス灯の灯りだけが頼りで全体的に薄暗い。
「こ、これはメルキオール殿下。こんな夜更けに最下層の地下にいかがなされましたか」
滅多にこの場所に姿を見せない皇太子に仰天する刑務官達。重罪人を見張るだけあって帝国騎士団の上位クラス並の実力者達が看守を務めている。
「捕えた女に用がある。あの女は私に執着していたようだからな、話を聞いてみたいと思った」
「さようでございますか。しかし、お気を付けください。認識されると不思議と魅了されてしまう稀代の悪女だと言われております。それでいろんな男を誑し込むので、特に殿下のように見目のいい男であると要注意です」
いろんな男を誑かし、指名手配犯すら仲間にしていたのだ。国家転覆と捉えられてもおかしくはないだろう。それにあの時は一番有名な指名手配犯の姿が見当たらなかったので、捕縛できたのは女と自分が半殺しにした小者達ばかりだった。そこは残念であるが、まずあの女を捕縛できた事だけは幸いだ。
「あちらの牢屋です」
刑務官が女のいる牢屋まで案内した。二人で話がしたいので席を外すよう促す。刑務官達は心配そうだったが、何かあればすぐに呼ぶと返す。おそらくメルキオールが男を誑かす魅了にかからないかを心配しての事だろう。
だが、心配はしていない。
なぜなら、その女の魅了はこの世界が架空の世界だと気づいた転生者には絶対効かないのだと知ったからだ。
それに気づいたのは、パスカルがゲームの記憶を思い出したと同時に、リリアになんの魅力も愛情も感じなくなったと聞いてからだ。
どんなにリリアが誘惑してきても、あれだけ小さい頃はリリア以外は考えられないと思っていた頭が冷静になったのだという。リリアを見ていると頭に靄がかかったようにぼんやりしてしまい、なぜか正常な判断が出来なくなっていたが、全てを思い出した途端にその靄が晴れたのだとか。
それ以前にリリアはオーガという男と浮気をしてパスカルを裏切っていたので、記憶を思い出さずとも失望はしていただろうが、この世界がゲームの世界だと気づいてからよりリリアには嫌悪感しか感じなくなったと言っていた。
自分もそうだった。パスカルと番になって前世の記憶を思い出すと妙にスッキリしていたのだ。ユウキを失い、元妻に殺されるという嫌な記憶も戻ってしまったが、この世界の事に気づけたし、ユウキの事も思い出せた。リリアに喫茶店で初めて認識されてもなんとも思わなかった。
まともだったヴァユ王やレナードを筆頭とする王侯貴族達は、リリアの魅了にやられてバカになっていたが、この世界の事に気づけた自分達には全く影響がなくなった。
つまり、前世の記憶のよみがえりとこの世界の真理に気づけた事が、ゲームの強制力の洗脳解除の鍵となるんじゃないかと過程すると、妙に辻褄があう。それに気づけずリリアに一目惚れされるとバカになる。それがゲームの強制力の力なんじゃないかと察する。
もし自分が前世の記憶を思い出さなければ大変な事になっていただろう。
リリアの毒牙にやられて取り巻き化し、レナード達のようにバカになっていたかもしれない。初めてあの女に出会った時に魅了にやられなかったのは、リリアに認識されていなかったからだろう。その時の自分はホームレスという小汚い見た目だったので、リリアの目に留まることなく運よく躱せていたのだ。
ホームレスに身を窶していたおかげでそれは防げられたのだ。
本当にヴァユ国に来てホームレスになっておいてよかったとこの時ばかりは本気で思った。自分の原点であり、愛するパスカルと出会い、前世ぶりに再会をさせてくれたもの。いい事尽くめだ。これだからホームレスはこれからもやめられないなと思ったのだった。
「パスカル、眠い?」
「うん……」
「今日はオレの部屋で寝ようね」
皇宮の者達が近寄っても恥ずかしがることなく、未だに顔が赤いままぼうっとしてメルに横抱きで運ばれている。眠気もあるのか次第に腕の中でウトウトし始めていて、そのままメルキオールの自室のベットに寝かせるとすぐに熟睡し始めた。穏やかに眠るパスカルに軽くキスをして、その場を立ち去る際にはメルはスッと視線を細めて皇太子の顔に戻った。
「あの女は地下牢か?」
近くにいた部下に鋭く訊ねる。
「はい。自由にさせるとまた男を誑し込む恐れがありますので、一番最下層の地下牢に」
最下層の地下牢は最も重い罪を犯した重罪人を収容する監獄。皇族の命を狙った者、意図的に国家の転覆を目論む者、大虐殺などの大罪人が入れられるため、安全のために地下牢専属の刑務官以外は出入りが禁じられている場所だった。
地下数十メートル先の階段まで降りると、やっとその入り口のドアが見えてくる。一定の距離で壁に設置されたガス灯の灯りだけが頼りで全体的に薄暗い。
「こ、これはメルキオール殿下。こんな夜更けに最下層の地下にいかがなされましたか」
滅多にこの場所に姿を見せない皇太子に仰天する刑務官達。重罪人を見張るだけあって帝国騎士団の上位クラス並の実力者達が看守を務めている。
「捕えた女に用がある。あの女は私に執着していたようだからな、話を聞いてみたいと思った」
「さようでございますか。しかし、お気を付けください。認識されると不思議と魅了されてしまう稀代の悪女だと言われております。それでいろんな男を誑し込むので、特に殿下のように見目のいい男であると要注意です」
いろんな男を誑かし、指名手配犯すら仲間にしていたのだ。国家転覆と捉えられてもおかしくはないだろう。それにあの時は一番有名な指名手配犯の姿が見当たらなかったので、捕縛できたのは女と自分が半殺しにした小者達ばかりだった。そこは残念であるが、まずあの女を捕縛できた事だけは幸いだ。
「あちらの牢屋です」
刑務官が女のいる牢屋まで案内した。二人で話がしたいので席を外すよう促す。刑務官達は心配そうだったが、何かあればすぐに呼ぶと返す。おそらくメルキオールが男を誑かす魅了にかからないかを心配しての事だろう。
だが、心配はしていない。
なぜなら、その女の魅了はこの世界が架空の世界だと気づいた転生者には絶対効かないのだと知ったからだ。
それに気づいたのは、パスカルがゲームの記憶を思い出したと同時に、リリアになんの魅力も愛情も感じなくなったと聞いてからだ。
どんなにリリアが誘惑してきても、あれだけ小さい頃はリリア以外は考えられないと思っていた頭が冷静になったのだという。リリアを見ていると頭に靄がかかったようにぼんやりしてしまい、なぜか正常な判断が出来なくなっていたが、全てを思い出した途端にその靄が晴れたのだとか。
それ以前にリリアはオーガという男と浮気をしてパスカルを裏切っていたので、記憶を思い出さずとも失望はしていただろうが、この世界がゲームの世界だと気づいてからよりリリアには嫌悪感しか感じなくなったと言っていた。
自分もそうだった。パスカルと番になって前世の記憶を思い出すと妙にスッキリしていたのだ。ユウキを失い、元妻に殺されるという嫌な記憶も戻ってしまったが、この世界の事に気づけたし、ユウキの事も思い出せた。リリアに喫茶店で初めて認識されてもなんとも思わなかった。
まともだったヴァユ王やレナードを筆頭とする王侯貴族達は、リリアの魅了にやられてバカになっていたが、この世界の事に気づけた自分達には全く影響がなくなった。
つまり、前世の記憶のよみがえりとこの世界の真理に気づけた事が、ゲームの強制力の洗脳解除の鍵となるんじゃないかと過程すると、妙に辻褄があう。それに気づけずリリアに一目惚れされるとバカになる。それがゲームの強制力の力なんじゃないかと察する。
もし自分が前世の記憶を思い出さなければ大変な事になっていただろう。
リリアの毒牙にやられて取り巻き化し、レナード達のようにバカになっていたかもしれない。初めてあの女に出会った時に魅了にやられなかったのは、リリアに認識されていなかったからだろう。その時の自分はホームレスという小汚い見た目だったので、リリアの目に留まることなく運よく躱せていたのだ。
ホームレスに身を窶していたおかげでそれは防げられたのだ。
本当にヴァユ国に来てホームレスになっておいてよかったとこの時ばかりは本気で思った。自分の原点であり、愛するパスカルと出会い、前世ぶりに再会をさせてくれたもの。いい事尽くめだ。これだからホームレスはこれからもやめられないなと思ったのだった。
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