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65.暴走するヒロインと三馬鹿
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「おまえ……っ」
「こんな気持ち初めてなの。彼こそ、私の白馬の王子様なの。やっと恋する乙女に目覚めたの。パスカル君なら幼馴染で友達だからわかってくれるよね?」
「死んでもわかるか。つか友達扱いするな。メルはあげない。あっち行ってろ。しっしっ」
まさかこうなるとはさすがに予想外である。隣にいるメルまでドン引きして「きも……」とか呟いているくらいだ。
先日の喫茶店で出会った時はメルを認識されはしたが、まさか攻略キャラではないのにこの女に見始められてしまうなんてゲームではない展開だ。
「ぶぅ~~ひどぉ~い!ひどぉおおおい!パスカル君のいぢわるぅ!なんでくれないのぉ?」
「あげるかバカが。俺とメルは運命の番ですけど」
「そんな事関係ないもん。運命の番なんてどうせ迷信でしょ。パスカル君は恋する乙女の障害になるつもりなの?そんなのだめなんだよっ。めっ、なんだから!それにパスカル君は男の子だよね。男の子がどうしてメルキオール君とくっつくの?そんなのダメなんだよっ。やっぱりメルキオール君も男の運命の番は嫌だと思うんだ。女の子が相手の方が嬉しいと思うもん。私みたいな可愛い乙女じゃないとね。キャハっ」
自分で可愛いとか言うなやと三馬鹿以外は誰もが思ったであろう。
「あいかわらずこの女は話が通じないな。宇宙人だ」
「おい、君!いくらメルキオール殿下の運命の番とはいえ、リリアにそんな態度はないんじゃないのか?」
「そうですよ。リリアはせっかく気を利かせての発言なのに」
三馬鹿は本当にリリアのでくの坊に成り下がっている。恋人(笑)が他の男に惚れたと言っているのに、気にする部分がズレていて、恋に盲目になりすぎて頭がわいているとしか思えない。
「や、あなた方は婚約破棄したんすよね?リリアが他の男に走ろうとしているのはいいんですか?婚約者になりたいんでしょ?」
「そ、それは嫌だが……だけどリリアがバカにされるのは男としては許せないからな」
男としてって理由が意味不明である。
「リリアは女神なんです。悪く言う奴は僕が許しません」
「キミもメルキオール殿下の運命の番とはいえ、リリアをバカにするなら許さないよ。真実の愛に目覚めた私達は、たとえリリアが誰を好きでも寛大な心でいる事に決めたのだ」
(寛大な心=リリアの犬に成り下がるという事ですね。わかります)
メルにこの場を問答無用で離れようと促すと、そんなメルは重低音な声で呟いた。
「セバスチャン。あの騒がしい四人の馬鹿共を追い出せ。夜会を楽しんでいる他の者の邪魔になる。ついでにヴァユ王にもこの事を伝えろ。大層メルキオールがお怒りだとな」
「御意」
今まで黙って見ていたメルキオールが低く唸ると、三馬鹿とリリアはセバスチャンらアカシャの衛兵に引きずられていく。
「ちょっと何するのっ!私はメルキオール君と話したいのにっ!」
「私を誰だと思っている!ヴァユ国王太子だぞ!」
「ちょ、なんで俺まで」
「私達はただ、リリアへの愛を叫んでいるというのに!」
扉が閉まる最後までうるさく喚いている四人であった。
席を外して戻ってきたヴァユ王は、レナード達三馬鹿とその恋人女が運命の番にちょっかいをかけていた事と、メルキオールが大層ご立腹な事を聞いて顔が真っ青になっていた。
「申し訳ありません!メルキオール殿下っ!我が愚息とその取り巻きの者達がとんだ御迷惑をおかけしましたっ!」
夜会終了後、土下座する勢いでヴァユ王が頭を下げている。そこには腕を組んで仁王立つメルキオールが、青い顔をしているヴァユ王をひたすら睨みつけて見おろしていた。
「お前の教育はどうなっている、ヴァユ王よ。あれだけお前の息子と宰相の息子が女にうつつを抜かして問題行動を起こしていると伝えていたはずなのにこれだ。それになぜあのリリアという女を中に入れた?あの女には招待状を出していないはずだ」
「れ、レナードの恋人だと聞いてつい浮かれてしまいまして、連れだと同行を許可しましたっ。婚約者がいながらも結婚前くらいなら恋を楽しんでほしいと。しかし、そのリリアと宿泊施設の出入りを繰り返し、国の税金を湯水のように使っている事は詳しく知らなくてっ……大したことは無いかなーって……ははは」
「ッ――もうよい。お前は息子にはとことん甘いバカ親だという事がわかった」
呆れと怒りに何も言えなくなるとはこの事だ。ヴァユ王はそこまで間抜けではなかったはずなのに、なぜ迂闊にもあの女をこの会場に入れたのだろう。レナードも、その周辺の貴族達も、あの女と関わり出してから全ておかしくなったように思う。
まるで、あのリリアという女がいるとその周囲がバカになっていくように思えた。
元からあのリリアとかいう女は、パスカルを傷つけている上に自分をホームレスという目で見下した発言をしていたので、好ましくは思っていなかったが、今回の事でさらに自分の中での印象は最悪に地に落ちた。
「お前の息子やあの女が私達にちょっかいを出せば出すほど、災いを招く恐れがある事を肝に銘じておけ。国が滅びそうになっても余は助けぬ。もちろんこの事は父の皇帝陛下にも伝えておく」
「ひ、ひいいぃぃいい!!そ、それだけはぁああ!」
「喚く前にまずは自分の愚息とその女をどうにかしたらどうだ?でなければさらに事態は悪い方向へ進むぞ」
次にあの女が接触してきた際はどうしてくれようか。そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだし、このままいけば災いのせいでヴァユ国が滅びかねない事態にもなりうる。
曲がりなりにもパスカルの故郷でもあるし、多大なストレスを与えかねないので、合法的にあの女を排除するか……それとも……
「メル……」
自室の部屋に戻ると、パスカルが深刻そうな顔でスツールに座っている。
「こんな気持ち初めてなの。彼こそ、私の白馬の王子様なの。やっと恋する乙女に目覚めたの。パスカル君なら幼馴染で友達だからわかってくれるよね?」
「死んでもわかるか。つか友達扱いするな。メルはあげない。あっち行ってろ。しっしっ」
まさかこうなるとはさすがに予想外である。隣にいるメルまでドン引きして「きも……」とか呟いているくらいだ。
先日の喫茶店で出会った時はメルを認識されはしたが、まさか攻略キャラではないのにこの女に見始められてしまうなんてゲームではない展開だ。
「ぶぅ~~ひどぉ~い!ひどぉおおおい!パスカル君のいぢわるぅ!なんでくれないのぉ?」
「あげるかバカが。俺とメルは運命の番ですけど」
「そんな事関係ないもん。運命の番なんてどうせ迷信でしょ。パスカル君は恋する乙女の障害になるつもりなの?そんなのだめなんだよっ。めっ、なんだから!それにパスカル君は男の子だよね。男の子がどうしてメルキオール君とくっつくの?そんなのダメなんだよっ。やっぱりメルキオール君も男の運命の番は嫌だと思うんだ。女の子が相手の方が嬉しいと思うもん。私みたいな可愛い乙女じゃないとね。キャハっ」
自分で可愛いとか言うなやと三馬鹿以外は誰もが思ったであろう。
「あいかわらずこの女は話が通じないな。宇宙人だ」
「おい、君!いくらメルキオール殿下の運命の番とはいえ、リリアにそんな態度はないんじゃないのか?」
「そうですよ。リリアはせっかく気を利かせての発言なのに」
三馬鹿は本当にリリアのでくの坊に成り下がっている。恋人(笑)が他の男に惚れたと言っているのに、気にする部分がズレていて、恋に盲目になりすぎて頭がわいているとしか思えない。
「や、あなた方は婚約破棄したんすよね?リリアが他の男に走ろうとしているのはいいんですか?婚約者になりたいんでしょ?」
「そ、それは嫌だが……だけどリリアがバカにされるのは男としては許せないからな」
男としてって理由が意味不明である。
「リリアは女神なんです。悪く言う奴は僕が許しません」
「キミもメルキオール殿下の運命の番とはいえ、リリアをバカにするなら許さないよ。真実の愛に目覚めた私達は、たとえリリアが誰を好きでも寛大な心でいる事に決めたのだ」
(寛大な心=リリアの犬に成り下がるという事ですね。わかります)
メルにこの場を問答無用で離れようと促すと、そんなメルは重低音な声で呟いた。
「セバスチャン。あの騒がしい四人の馬鹿共を追い出せ。夜会を楽しんでいる他の者の邪魔になる。ついでにヴァユ王にもこの事を伝えろ。大層メルキオールがお怒りだとな」
「御意」
今まで黙って見ていたメルキオールが低く唸ると、三馬鹿とリリアはセバスチャンらアカシャの衛兵に引きずられていく。
「ちょっと何するのっ!私はメルキオール君と話したいのにっ!」
「私を誰だと思っている!ヴァユ国王太子だぞ!」
「ちょ、なんで俺まで」
「私達はただ、リリアへの愛を叫んでいるというのに!」
扉が閉まる最後までうるさく喚いている四人であった。
席を外して戻ってきたヴァユ王は、レナード達三馬鹿とその恋人女が運命の番にちょっかいをかけていた事と、メルキオールが大層ご立腹な事を聞いて顔が真っ青になっていた。
「申し訳ありません!メルキオール殿下っ!我が愚息とその取り巻きの者達がとんだ御迷惑をおかけしましたっ!」
夜会終了後、土下座する勢いでヴァユ王が頭を下げている。そこには腕を組んで仁王立つメルキオールが、青い顔をしているヴァユ王をひたすら睨みつけて見おろしていた。
「お前の教育はどうなっている、ヴァユ王よ。あれだけお前の息子と宰相の息子が女にうつつを抜かして問題行動を起こしていると伝えていたはずなのにこれだ。それになぜあのリリアという女を中に入れた?あの女には招待状を出していないはずだ」
「れ、レナードの恋人だと聞いてつい浮かれてしまいまして、連れだと同行を許可しましたっ。婚約者がいながらも結婚前くらいなら恋を楽しんでほしいと。しかし、そのリリアと宿泊施設の出入りを繰り返し、国の税金を湯水のように使っている事は詳しく知らなくてっ……大したことは無いかなーって……ははは」
「ッ――もうよい。お前は息子にはとことん甘いバカ親だという事がわかった」
呆れと怒りに何も言えなくなるとはこの事だ。ヴァユ王はそこまで間抜けではなかったはずなのに、なぜ迂闊にもあの女をこの会場に入れたのだろう。レナードも、その周辺の貴族達も、あの女と関わり出してから全ておかしくなったように思う。
まるで、あのリリアという女がいるとその周囲がバカになっていくように思えた。
元からあのリリアとかいう女は、パスカルを傷つけている上に自分をホームレスという目で見下した発言をしていたので、好ましくは思っていなかったが、今回の事でさらに自分の中での印象は最悪に地に落ちた。
「お前の息子やあの女が私達にちょっかいを出せば出すほど、災いを招く恐れがある事を肝に銘じておけ。国が滅びそうになっても余は助けぬ。もちろんこの事は父の皇帝陛下にも伝えておく」
「ひ、ひいいぃぃいい!!そ、それだけはぁああ!」
「喚く前にまずは自分の愚息とその女をどうにかしたらどうだ?でなければさらに事態は悪い方向へ進むぞ」
次にあの女が接触してきた際はどうしてくれようか。そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだし、このままいけば災いのせいでヴァユ国が滅びかねない事態にもなりうる。
曲がりなりにもパスカルの故郷でもあるし、多大なストレスを与えかねないので、合法的にあの女を排除するか……それとも……
「メル……」
自室の部屋に戻ると、パスカルが深刻そうな顔でスツールに座っている。
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