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49.皇太子兼ホームレス

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「もう……メルは強引だよ」

 風呂から上がったパスカルはいろんな意味で疲れていた。自分で洗うと言っても聞く耳持たないメルにあんな所やこんな所まで洗われて、早くから何かを奪われた気分であった。もちろん尻の処女はまだ無事ではある。

「だって世話したいんだもん。オレって意外と尽くすタイプなんだよ」
「普段は尽くされてそうだけどね」
「だからだよ。尽くしたいし、自分でなんでもやってみたかったのに皇宮の連中はなんでも勝手にやってしまうんだ。だからつい最近まで自分の世話もまともにできなかった世間知らずだった。でもホームレス生活をしてみていっぱい知れたよ。いかに身の回りの事を自分でするかの大変さや食べ物を調達する大変さをね。特にホームレスになったばかりの頃は空腹で死にかけたし、火の点け方や食材の調達の仕方をおじさん達にスパルタで習って苦労したよ。野兎や蛇やカエル捕まえて焼いて食べてさぁ。鳩に餌あげたり、逆に太らせて焼いて食べたり。時々やってくる炊き出しのボランティアの人達から提供されるザリガニスープが美味かったよ。あと薪拾いで小銭を稼ぐ大変さも知れた。一日銅貨数十枚しか稼げなかったけど、いっぱい拾えたら夜は裸踊りしてるおじさん達と酒をラッパ飲みして祝杯あげたんだよね~。景気がいい時は酒が安いビールになったり楽しかったなぁ」

 皇宮での贅沢三昧生活から蛇やカエルを焼いて食べる最底辺生活か。薪拾いは現代のホームレスでいう空き缶拾いのようなものだろう。その落差が激しすぎて平民の自分も苦笑いである。

「空腹で死にかけたり蛇やカエル食ってた皇族って歴史上メルだけだと思うよ。ていうかホームレスになってた皇族っていうのが前代未聞だよ」
「皇族や貴族っていう贅沢三昧で生まれた人間だからこそ、世の中の厳しさや平民の暮らし、ホームレス達がどんな生活をしているか知る必要があるんだよ。平民を見下すばかりの贅沢三昧の貴族共は身をもって知ればいい。じゃないと人間が腐っていくだけだよ。自分自身が腐っていきそうな時、またホームレス生活をしたいと思ってる」
「またしたいんだ……まあ、メルらしくていいと思うけど」

 今更だけど、世界一の大帝国の次期皇帝なのに最底辺のホームレスをしていたというのも可笑しな話だ。皇宮の側近達がこの話を聞いたら卒倒するだろうと思う。

「メルの周りの側近達はよく国を離れる事をOKしたよね」
「OKしてないよ。オレが勝手にムカついてアカシャから出た」
「え……勝手に出て来てたの?」
「うん。だってバカ陛下っつーかクソ親父が、勝手にオレに許嫁だとか言ってどっかのオメガの姫君を宛がおうとしたんだ。逢った事もない姫君にだよ?お前にぴったりだとか、将来のパートナーにふさわしいとか、全部勝手に決めてくるわけ。オレの意思をあまりに無視しやがったから頭にきて家出しますって書置きして国を出たんだ。でなければまた勝手にいろいろ決められそうだったからね。アカシャ内にいるとすぐ見つかるから遠い国々を見て回り、一番最後にやってきたのがヴァユ国ってわけ」
「そうだったんだ……。それが理由で国を飛び出したんだ……」

 たしかに勝手に結婚相手を決められるのは嫌だろうと思う。それが皇族貴族の使命だとすれば仕方のない時代背景なのかもしれないが、普通は嫌だろうなと思う。

「オレの親父はね、政治手腕はまさしく帝王と呼ばれるほど尊敬できるのに、それ以外の事になるとてんでポンコツになるアホでさ~。まあ、今に始まった事じゃないんだけど、帝王としての素質はあるけどバカってやつ。てことで嫌かもしれないけど退院したらオレの両親に逢ってほしいんだ」
「え……両親って」
「キミを紹介したいんだ。さっさとあのクソ親父に愛する伴侶ができた事を紹介して安心したい。これ以上勝手な事されないようにするのもあるけど、パスカルという存在がいる事をちゃんと形にしたい」
「そ、それってご両親に記念すべき最初の挨拶って事だよね」

 ようするに結婚を前提とした挨拶をしに行くようなものか。そう思うと緊張してきた。

「そんな畏まらなくていいよ。バカ親父なんて皇帝という肩書き抜いたらただのアホだし、母上は天然あらあらオカアサマだから」
「そうなんだ……皇帝陛下をアホ呼ばわりできるメルがすごいけど」
「だってホントにバカなんだもん。今まで何度親父に苦労した事か。だから、パスカルも両親相手にぺこぺこしなくていいから。公式の場でもないからね。でも、その後は全世界にもオレに伴侶が出来た事は報告しなければならない」
「全世界ってスケールが大きいね」

 そりゃあ世界の頂点に立つアカシャだから全世界規模になるのだろうが。

「これでも皇太子だからね。国の象徴としての役目は果たさなきゃならない。だけど安心して。パスカルは民間人だから名前と素性は伏せる。運命の番だという事だけを世界に伝えるよ。その時に開かれる夜会にはパスカルも参加しないといけないけどね。いろんな国中の貴族連中にだけは紹介しとかなければならないから」
「いろんな貴族連中か……いいのかな。俺、貴族じゃないよ。挨拶とか礼儀作法とか全然わかんないし。場違いじゃないかな……」

 恥をかくだけじゃないのかと思う。平民上がりで礼儀作法のさの字も知らない自分が夜会だなんて。
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