上 下
57 / 98

57.皇宮でのメル

しおりを挟む
「ほっほっほ。皆様、公式の場ではないのでそう緊張しなくて大丈夫ですよ。陛下も妃殿下も平民の生活にとても理解がある方々なので挨拶もくだけたもので結構ですぞ」
「そ、そそそそうは言ってもですねぇ~くぁwせdrftgyふじこlp」
「そもそも、こんな綺麗なドレス着たの結婚式以来だわ」
「そういえばぼくもこんな燕尾服来たの結婚式以来だ」
「あなたっ!」
「パステル!」

 ひしっと抱きしめあうベーカー夫妻にジト目になるパスカル。いきなり何をやっているんだろうこの夫婦は。

「ちょっと父さんも母さんもいきなりイチャつくのやめてくんないかな。現実逃避か知らないけど、俺が居た堪れないんだけど」
「じゃあ、オレ達もいちゃつく?」
「もーキミまで対抗意識なんか持たなくていいからね……って……め、めめめメル!?」

 いつの間に!?と、反応に遅れて驚いた。

「ふふ。こんにちはパスカル。オレの愛しい人。逢いたかったよ」

 穏やかに微笑むメルがなんだかいつもより違って見える。

「メル……お、おれも……逢いたかった……」
「パスカル……なんか素直で可愛いね。衣装もよく似合っててキュートだし」
「キュートって女の子に使う言葉だよ」
「それでも可愛いく見えちゃうんだもの」

 三日ぶりのメルは髪も艶々の銀髪で、服装も高貴な者が纏うような宮廷衣装を着用している。どこからどう見ても身分の高い上に立つ者の姿だ。おまけにこのキラキラした容姿なので、いつものホームレスなどの姿を見慣れているせいか今のメルの姿に柄にもなくドキドキしてしまっている。

「メルはなんか皇太子らしいカッコしてる、ね……」
「皇宮ではいつもこんなものだよ。イケメンで惚れなおした?」
「っ、な、内緒……」
「別に内緒じゃなくても顔でバレバレだよ?ドキドキしてくれて嬉しい」
「う、そ、そんな事ないしっ」
「オレはパスカルがいつも可愛くて惚れなおしてるのになぁ」
「可愛いは余計だよっ」

 メルと比べたら自分の姿など馬子にも衣装だと思う。こんな貴族のお坊ちゃんが着るような格好をしても、なんだか自分には似合っていない。平民な雰囲気が醸し出されているので、何を着てもパッとしないのが笑えるものだ。前世からずっと平凡地味っていうのも辛い。

「あら、メル君!今日は一段とイイ男になっちゃって!」
「お義母さん、お義父さん、アカシャへようこそお越しくださいました。これからは私が父と母がいる部屋へ案内いたします」

 紳士の礼のポーズをとるメルは洗練されている。部下に命令を出すような厳しい表情のメルではなくて、穏やかで壮麗な次代の象徴という印象だった。
 
「んまあ、挨拶が丁寧ねっ」
「立派だなぁ。まさかうちのパスカルをもらってくれる相手が皇太子様だなんてなぁ。うっうっ、夢みたいだ」
「あなた!泣くのはまだまだ先だよ。結婚式もしてないし孫の顔もまだ見てないんだからっ」
「そ、そうだね!うん。それまでに涙はとっておかないとっ」



 一際大きな扉を開けると、豪華絢爛なダイニングルームに到着。座席に連れてこられて座って待っていると、一足遅れて厳かな男女が側近に連れられてゆっくり歩いてきた。

「おお、メルキオール。連れて来てくれたか」

 メルがこくんと頷く。

「父上、母上。パスカルとベーカー夫妻をお連れしました」

 メルが静かに伝えると、パスカルやベーカー夫妻は一層背筋をぴんと張って直立不動になった。
 この二人がアカシャの現皇帝陛下と妃殿下。陛下はまだ若々しくありながらも貫禄のあるイケメンで、妃殿下はとても30代とは思えない程の若作りの美女。写真館で見たことがある顔にいろんな意味で感慨深い気持ちになった。 

(ほ、本物だっ。本物の皇帝と妃殿下だっ)

 妃殿下はたしか陛下の後妻と聞いている。メルの実の母親はすでに病気で亡くなっており、後妻に迎えたメアリー妃殿下とは親子というより姉のように接してもらっているとメルから事前に聞いていた。

「よくぞアカシャにお越しくださいました。我々一同はそなたら三人を大歓迎する」
「突然、お食事になんて誘ってごめんなさい。どうしても早くパスカル君とベーカー夫妻にお会いしたくて権力行使しちゃったの。あの朴念仁のメルキオールが好きになった運命の番の子がどうしても気になってね……キミがパスカル君?」
「は、はひいぃっ!ぼ、ぼ、ぼくがパスカルでありますっ!」
「まあ。元気よく返事をして超可愛いっ!抱きしめたいっ!」
「え、えええっ!?」

 可愛いって自分の事だろうか?ただの15歳で中身は20代後半。

(総年齢はおじさんなんですけど)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兎が虎よりデカいなんて想定外や!

きよひ
BL
兎獣人×虎獣人のお話。 牛の国に留学中の虎獣人のタイガは、友人に「綺麗な兎獣人を紹介する」と言われる。 兎獣人といえば小柄で可愛らしい種族と有名だ。 だが期待しながら待ち合わせ場所に向かうと、待っていたのは自分よりも頭ひとつ大きい雄の兎獣人だった! サブタイトルに※がついているのはR描写がある話です。 2章開始。 2章は強姦未遂、暴力描写があります。該当する話には注意書きします。 苦手な方はご注意ください。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~
BL
没落貴族の次男ユーリ・ラン・ヤスミカは王室の血が流れる姫君との縁談がまとまる。 しかし、蓋をあけてみると花嫁になる姫は少年だった。 姫と偽った少年リンの境遇が哀れでユーリは嫁として形式上夫婦となるが…… おひとよしな貴族の次男坊と訳あり花嫁少年の結婚生活!

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

天寿を全うした俺は呪われた英雄のため悪役に転生します

バナナ男さん
BL
享年59歳、ハッピーエンドで人生の幕を閉じた大樹は、生前の善行から神様の幹部候補に選ばれたがそれを断りあの世に行く事を望んだ。 しかし自分の人生を変えてくれた「アルバード英雄記」がこれから起こる未来を綴った予言書であった事を知り、その本の主人公である呪われた英雄<レオンハルト>を助けたいと望むも、運命を変えることはできないときっぱり告げられてしまう。 しかしそれでも自分なりのハッピーエンドを目指すと誓い転生ーーーしかし平凡の代名詞である大樹が転生したのは平凡な平民ではなく・・? 少年マンガとBLの半々の作品が読みたくてコツコツ書いていたら物凄い量になってしまったため投稿してみることにしました。 (後に)美形の英雄 ✕ (中身おじいちゃん)平凡、攻ヤンデレ注意です。 文章を書くことに関して素人ですので、変な言い回しや文章はソッと目を滑らして頂けると幸いです。 また歴史的な知識や出てくる施設などの設定も作者の無知ゆえの全てファンタジーのものだと思って下さい。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

処理中です...