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パーティー

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 本題ってこういうことだったのね。
 私はいつになく、そわそわしていた。
 時刻は夕方。私は今日の仕事を既に終わらせて、馬車に乗っている。
 
「悪いね。妹の結婚式に俺のパートナーとして出席してもらって」

「いえ、殿下の頼みでしたら何でも引き受けますが。私などでよろしいのでしょうか?」

 そう。私はこれから第二王女アリシア殿下の結婚式に出席する。アークハルト殿下とともに。
 ほとんど身一つでこちらに来た私には着ていくドレスもないと断ろうと思ったのだが、殿下は既に私のための衣装を購入済みだった。
 そんなことされたら断れるはずないじゃない。
 ドレスもアクセサリーもどれも一級品だし、こんなに貰っていいものなのかしら……。

「アリシアが是非とも君に会ってお礼がしたいと言っていてね。ほら、君とフレメアの活躍がなければ今日の式は大惨事だっただろう?」

「そ、そんなお礼なんて畏れ多いです。私はフレメアさんのサポートをしただけですし……」

「謙遜するな。フレメアも君がいなくてはレイナード・フォン・ルミリオンを無傷で助けることは叶わなかったと言っている。君の功績は大きい」

「勿体ないお言葉です。殿下」

 特に謙遜したわけじゃない。
 アークハルト殿下やアリシア殿下が私の功績を認めてくれるのはとても嬉しい。
 ただ、自分の力量の乏しさを知っているから、過度の称賛を受けると身構えてしまうのだ。
 卑屈すぎるのかもしれない。で落ちこぼれと言われて十余年という歳月は長かった。
 
 私は私の力を未だに信じられずにいた……。

「本当はフレメアやロイドにも出席してもらいたかったんだけどな」

「お二人は私以上に功労者ですし。出席されないのですか?」

「あの二人には結婚式の警備全般を仕切ってもらうことになっている。これは半年以上前から決まっていたから、今さら変更出来なくてね」

 あー、なるほど。
 王族の結婚式の警備は特務隊の仕事の範疇か。
 隊長のロイドさんと副隊長のフレメアさんが陣頭に立つのは既定路線だったわけね。

「まー、アリシアのことだからパーティーが終わったあたりでお礼を言うだろう。あの子はそういうところはしっかりしているから」   

 そんな会話をしながら私たちは結婚式の会場へと向かった。
 会場に到着してみると、各家の馬車がズラリと並ぶ。
 流石は王族の結婚式。出席者も多いわね……。

「本当は周辺諸国にも招待状を出す予定だったから、もっと出席者が多いはずだったんだけどね。アリシアが魔物が増えている中でわざわざ足を運ばせるわけにはいかないって」

「良い判断だと思います。アリシア殿下は聡明な方なのですね」

「はは、そうだな。俺もそう思う。ちょっと正義感が強くて融通が利かないところもあるが……」

 正義感が強い……。
 それって、ルミリオン公爵家の抱えている闇を明るみにしたことも含まれているのだろうか。
 王室御用達の暗殺一族が公爵の地位にあったと知れればそれなりに騒がれると思うけど、アリシア殿下はそれも受け入れて公表するのだろう。
 自らが嫡男であるレイナードの妻になることで批判を受け流して……。

「アークハルト殿下、そしてルシリア様ですな。どうぞ、こちらへ。アリシア殿下がお待ちしております」

 正装をした白髪混じりの男が恭しく一礼をして、私とアークハルト殿下をアリシア殿下のもとへと案内する。
 アリシア殿下、お会いするのは初めてだけど、どんな方なのだろうか。
 アークハルト殿下が説明はしてくれたけど、やっぱり直接話さなきゃ分からないわ。失礼がないようにしなきゃ……。


「お兄様! それに、あなたがルシリアさんね! よく来てくれたわ。嬉しい!」

 アークハルト殿下と同じ銀髪をなびかせながら、ウェディングドレスを着た彼女は嬉しそうな顔をして、私の手を握りしめた。
 彼女こそ、この国の第二王女……アリシア・フォン・エルガイア殿下である。
 思った以上にフレンドリーな方ね。もっと厳格そうな方だと思っていたわ。

「レイナードを守ってくれてありがとう。間接的にはわたくしも守られているわね。あの手紙をロイドに送って本当に良かったわ」

「宮仕えをしている者として当然のことをしただけです。礼には及びません。……えっと、あの手紙ってアリシア殿下が送られたのですか?」

 ロイドさんの元に届いたという一通の手紙。
 レイナードの浮気疑惑が書かれており、私とフレメアさんはその真偽を確かめるべく彼を尾行した。
 そのきっかけとなった手紙はアリシア殿下が送ったものだったらしい。

「わたくしが送らないとロイドは動かないから当然よ。女性と二人で会っているという話を聞いて、そんなはずはないと思って手紙を出したんだけど、意外過ぎる結末に驚いているわ」

 そういえば、そうね。
 よく考えたら、普通の人が手紙を送っても宮廷付特務隊が動くはずがないもの。
 
「今回のことで分かったわ。人の恨みというものが何よりも怖いということが。それが仮に逆恨みだったとしてもね」

 逆恨みでも怖い、か。
 そうかもしれないわね。
 私も妹のエキドナから恨みを買っていたのかもしれないわ。
 こちらが意識していなくても、悪いことをしていなくても、何となく気に入らないからという理由で人は人を貶めることが出来るのなら……私は彼女に逆恨みされていたのかもしれない。

「あのう、ロイドさんとフレメアさんにも――」
「もちろん、お礼を言わせてもらうわよ。この式の警護の分も含めて。あの二人が守ってくれていることほど心強い警護はないもの」

 アリシア殿下はニコリと笑ってロイドさんとフレメアさんにも礼を伝えると口にされた。
 良かったわ。私だけじゃなくて……。アリシア殿下は度量も大きそうだし、頼りになる女性って感じね。
 そういう、強い人に憧れるわ……。強くなりたいと力をずっと求め続けていたから……。

「それじゃあ、俺とルシリアは先に会場に行っているから。転ばないように気をつけて」

「お兄様、わたくしが転ぶような……! キャッ!」
「アリシア殿下!」

 アークハルト殿下に軽口を言われたアリシア殿下だったけど、何か文句を言いかけて転びそうになってしまう。
 私はそれを察知して、彼女を受け止めた。

「だ、大丈夫ですか? アリシア殿下……」
「え、ええ。大丈夫よ。……格好悪いところ見せちゃったわね」

 顔を赤くして、気まずそうな表情を見せるアリシア殿下。
 とにかく転ばなくて良かったわ。意外な一面もありそうな方なのね。

「おいおい、しっかりしてくれ。じゃあ、本当に行くからな」
「失礼します」

 私とアークハルト殿下はアリシア殿下のもとを立ち去り、会場へと向かった。
 どうか、今日の式が何事もなく大成功するように――。私はそんなことを願っていた。
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