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第十六話(レイヴン視点)
しおりを挟む「エルトナ王国の未来に乾杯」
ふむ。アーリンガム王国とやらは野蛮な国だと聞いていたが……なかなかどうして居心地が良いではないか。
神の宿る石……国宝石を手土産にしてやると僕に頭を下げて接待してくる。
こんな国に将来の王であるこの僕が逃げるなど屈辱だと思っていたが、これだけ酒も女も自由にさせてもらえるなら、寧ろ窮屈な王宮よりも羽根が伸ばせて居心地が良いまであるぞ。
国王である父は王族も節度を守れと煩かったからな……。
オマケに僕にはマリーナから貰わないと好きに出来る金すら無かったし。
「もっと! もっとワインを持ってこい! こんな安物ではなく、良いものをだ! ふははははッ!」
この国に来てから毎日が宴だ。もはや、笑いが止まらない。
マリーナの言うとおり隣国の王子というポジションはモテるのだな。女たちは僕の魅力に取り憑かれておる。
オリビアほどの女はさすがにおらぬが摘む分には不自由しそうにないな。
「マリーナ! 貴様もこちらに来い! お前も飲め!」
「ご相伴に預かりますわ。殿下」
最高級の真っ赤なドレスを身につけたマリーナが妖艶に微笑み、僕の隣に座る。
この女は年齢的に完全に行き遅れているクセに妙に色気があった。
結婚をするつもりが無いとか言っていたが……理由は知らぬ。
「しかし、何故に死んだふりをした? 僕と共に居るでは何か不都合があるのか?」
マリーナは焼死体を用意した。
自分に目鼻立ちが似ている女を何処からか仕入れて、子飼いにしている近衛兵に死体を確認させて僕に同行したのである。
「私が殿下の逃亡に力を貸したとなると、兄に迷惑がかかりますから。バルテレミー家の安寧の為ですわ」
バルテレミー家の安寧の為……か。
なるほど。家のことを思いやる行動は感心だな。
たかが子爵家が消えたところで問題あるまいと僕は思うが……好きにすれば良かろう。
しかし、バルテレミー子爵はまだ独身と聞くし……この女も相手がおらぬが……跡取りはどう考えておるのであろうか……。
「殿下、こちらがこの国で一番高級なワインでございます。わたくしが殿下のグラスに注いでもよろしいでしょうか?」
「うむ……。好きにせい……」
まぁ、どうでも良いか。バルテレミー子爵家の未来など。
次期エルトナ国王たる僕にとっては路傍の石と同じものであるし。
成金貴族のことだ。どうせ金の力で何とかするのだろう。
そうさな。僕が国王となったら税金代わりに金鉱山をまるっと没収してやろうかな。
この女も王にさえなってしまえば、用済みになるし。
「殿下にはバルテレミー家など、価値も無いものだとお思いでしょうが……」
「そんなことはない。マリーナの家だ。僕が大切に思わぬはずがないであろう」
「……もったいないお言葉ですわ」
とはいえ、アーリンガム王国のトップとの交渉や現在の暮らしは全てマリーナ頼りだし……ここから先の展望も彼女に依るところが大きい。
この女の機嫌くらいは取っておかねばな。
女などちょっと煽てれば、すぐに調子に乗るのだから扱いは楽だ。
せいぜい、良い夢を見ていろ。僕の手のひらの上でな……。
「して、マリーナよ。僕はいつ頃オリビアと結婚が出来る? 国宝石や僕自身と引き換えに領土に加えてオリビアをこちらに要求するのはどうだ?」
酒がいい感じで回ってきた僕はマリーナに計画の首尾を尋ねる。
彼女の計画の中には僕が国王となることは勿論のこと、マリーナを手中に収めることも入っているのだ。
「それもよろしゅうございますわね。流石は殿下です。聡明なお考えで」
「そうだろう。そうだろう……。父上が僕の命を見殺しにするはずが無いからな。要求は幾らでも――」
「しかしながら、殿下。国王陛下は領土の割譲を突っぱねられましたわ。殿下の命と天秤にかけられても」
「何ッ!?」
父は何を考えている? 実の息子たる僕を見捨てるつもりなのか?
どういうことだ? 意味がわからない……。
「そりゃあ、お前さんが国を捨てて逃げた脱獄囚だからだろう。バカでも分かるぜ。そんなこたぁ……」
僕の頭を掴みながら、背後から無礼なことを口走る男の声がした。
なんだ、この不遜な男は……。僕を誰だと心得る。
「よろしくな、隣国のバカ王子。アーリンガム王国、第四王子……エルヴィンだ。お前さんは余計なこと考えずに適当に遊びながら人質やってりゃいいんだよ。それとも、また地下牢にでも閉じ込めてやろうか? ぎゃはははッ!」
僕に無礼を働いた男はこの国の第四王子だと自己紹介した。
やはり野蛮な国なのか……。こちらの王族は客人に対する態度も知らんらしい。
マリーナ、貴様も頭を下げずに何とか言え。
一気に酒が不味くなったぞ。このクソ野郎が……。
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