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第十一話

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「バカみたいっつーか。バカだな。女房の顔を見間違えて、浮気相手と思って殴りかかった相手が皇太子だったんだろ? 俺はてっきり、武勇伝作ろうとして皇太子に喧嘩を売ったのかと思ってたぜ」

「そんなのただのバカじゃないですか!」

「変わんねぇよ。そんなの、今のお前と大して」

 ようやくエリックは自分が如何にもバカなことをしたことに気付いたみたいです。
 それにここまで気付かないのも相当ですが……、罪悪感は湧くのでしょうか。

「ま、女房の身内の婚約者で良かったじゃないか。皇太子も死ねとは言わねぇだろうよ」

「そ、そうですよね。いや、実は不安だったんですよ。リムルのヤツが極刑になるようなことを匂わせるから」

 安心しているみたいですが、あなたは九割方の確率で極刑になることが決まってます。
 愛人を作ったりしていなければ、それを回避出来たのですが、それをやってしまっているので。

「ああ、そうなのか? だったら、ヤバいんじゃないか? 普通は皇太子殴ろうとしたら死刑になるし」

「そ、そんなぁ。ジェクト先輩、助けて下さい! あなたなら国王陛下に口利き出来ますよね?」

 ちょっと意味が分からないのですが。なんで、この人が陛下に意見することが出来るのでしょう?
 そんなこと出来る人は公爵とかそういう立場にある人くらいのはずです。
 このジェクトという人間、そういう人にはとてもじゃありませんが見えません。

「親父に口利き出来るはずねぇだろ! そういうことはしねーって、最初に会ったときに話したじゃないか」

「お、親……?」

 この方、今……国王陛下のことを父親と言いましたか?
 そんなはずありません。この国に王子は二人だけです。
 もちろん、私はその二人の王子の顔を知っていますし面識もあります。
 それにこんなに粗野な人間が王子の訳がありません。ちゃんと教育を受けたかすら怪しいのに……。


「む、無責任ですよ! 僕は先輩に憧れて、先輩みたいに男らしくなりたくて、言うとおりにしたのに! そのせいで死ぬなんて……!」

「知るかよ。んなことに責任が持てるか!」

 こうして、何とも言えない空気になり、私はエリックとの二度目の面会を終えました。
 邪魔が入ったせいで全然話し合いが出来ませんでしたが、あの人も自分の犯した罪と向き合うくらいのことは出来るようになりそうですし、今日のところは戻りましょう――。


 ◆ ◆ ◆


「陛下のご子息……。ジェクト……。……ああ、もしや、ジェルストン・エルクト・アークス侯爵のことか……?」

「どなたですか? その方は……」

「アークス侯爵は国王陛下の婚外子だ。とはいえ、長い間……王妃陛下の強い要望で幽閉されていたがな」

 な、何ということでしょう。父にジェクトという男に付いて話をすると、父は陛下の秘密を口にしました。  
 十年前に亡くなられた王妃陛下が幽閉を命じていた国王陛下の婚外子がジェクトだったとは。
 いや、私などその存在すら知りませんでした……。

「そのジェクトとの繋がりがエリックをおかしな方向に動かしたという訳か。ふーむ」

 とはいえ、エリックは尊敬するジェクトの言葉すらも話半分に聞いていましたし、自業自得の部分が大きいのですが……。
 エリック、あなたが成りたい人間って何なんですか? 
 あなたは、これから変わりたいと心の底から思えるのかそれとも――。
 
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