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第四話

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「ロバート、あなたの戯言に付き合うつもりはありません。大人しく捕まって、罪に対する責任を取ってください」

 結界術には殺傷能力はなく拘束する術式があります。
 呪縛光鎖ホーリーロック――光の鎖がロバートに巻きついて彼を拘束。
 私の鎖からは大型のドラゴンだって逃げられません。
 
「おいおい、これは何の真似かな? まさか、君は自分の夫を王宮に売るつもりなのかい? 自分の妻に裏切られるとは思わなかったな」

 光の鎖で拘束されてもなお、ロバートは顔色一つ変えずに私の顔を見据えます。
 まさかまだ私の夫のような顔をするとは思いませんでした。
 謝るどころか、こんなにも人を馬鹿にするような態度を取るなんて――

「裏切ったのはあなたでしょう? 自分のやらかしたことを自覚してないのですか? それに、私はとっくにあなたと離縁しています。夫のような顔をされるのは不愉快です」

「あー、君を連れて行ってあげなかったことに嫉妬してるのか。済まないね、僕は真実の愛を大事にしたかったんだ。もちろん、君のことも嫌いになった訳じゃない。だから、こうして迎えに来てあげたんだけど」

「嫉妬などしていません。勘違いも甚だしいですよ」

 この男、やはりおかしくなっています。
 昔はこんなに常識外れなことを述べるような人では無かったのですが……。
 この二年で一体、何があったのでしょうか。

「どうしたんだ? エリスは子供が好きだと言ってたじゃないか。僕の子供を育てるって夢が叶うんだぞ。喜んでくれると思ったのに」

「おぞましいことを言いますね。もう、あなたと問答する気はありません。アイリーン様も赤子も王宮が見つけ次第、保護するでしょうからご心配なく。それに――」
「エリス殿! どうしました? 緊急事態だと信号が打ち上がっていましたが」

「へぇ、近衛隊がお出ましか。本気で僕を裏切るんだ……」

 私は呪縛光鎖ホーリーロックを使うと同時に上空に魔力を調節して赤い光を打ち上げました。
 これは緊急事態だと軍務局に知らせる信号のようなもので、ジョーをはじめとする近衛兵がこの場に到着したのです。

 いくら元夫とはいえ、いや元夫だからこそ私は彼に手心を加えるつもりはありません。

「き、貴様はアイリーン様を攫った大罪人! ロバート・ルベルス」
「エリス殿が捕まえたのか。さすがだ……」
「アイリーン様を何処にやった!」

「……たったの七人か。緊急事態にしては少なくないか?」

 サーベルを構えた近衛兵たちはロバートを取り囲みますが、彼は平然とした表情をしています。
 この人、危機感がないのでしょうか。それともワザと捕まりに来たとか……。


「エリス、騒がしくなってきたし、僕はそろそろ退散するとするよ」

「逃げられるとでも、思っているのですか?」

「君たちはなーんにも知らないんだね。王女アイリーンを連れて僕がどうやって二年も逃げることが出来たのか。陛下は何もワケを話していないんだな。こんなの僕にとっては拘束にもならないよ」  

「「――っ!?」」

 ロバートの眼が銀色に輝き、その瞬間――私の光の鎖は粉々に砕け散ってしまいました。
 大型のドラゴンをも一瞬で動けなくする結界術なのですが――。

を受け取った僕は人智を超える力を手に入れた。だから、僕は隠れることを止めたんだ」

「がはっ!」
「ぎゃっ!」
「ぐふっ!」
「ごほっ……!」

 それは、一瞬の出来事でした。
 近衛兵たちが、王国の精鋭たちが、銀色の光を宿したロバートの剛腕によって蹂躙されてしまったのです。

「じゃあ、エリス。僕とアイリーンの赤ん坊を育てたくなったら、声をかけてくれ。また近いうちに挨拶に行くからさ」

 ニコリと笑みを浮かべて、拳に付いた血を舐めるロバート。
 このおぞましい存在は本当に元夫なのでしょうか。
 そして、国王陛下は何をこの人がこうなった原因をご存知なのでしょうか……。
 ロバートは消えるようにこの場から立ち去り、私は頭が真っ白になりながらも、近衛兵の方々の治療を開始します。
 国王陛下に聞いてみよう。何が起こっているのか分かるかもしれませんから――。
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