上 下
42 / 64

第42話:白馬と姫と勇者

しおりを挟む
「どうなっているのだろう、この状況……」
 あたしは非日常識には、慣れてきたと思っていた。

 しかし、現実は想像の上を簡単に越える。

「また、夢でもみているのかな?」
 あたしが気付いたとき、【白馬に乗った真っ赤な鎧を身に付けた男にお姫様抱っこされて】いた。

(何これ? また誘拐? あたしってそんなに誘拐に縁があるの?) 

「姫様お気付きになりましたか?」
 鎧の男はあたしが目を覚ましたことに気付いて話しかける。

「え、あの、あたし、姫様じゃないです」
 あたしは、意味がわからなかった。
 この人、頭がどうかしちゃっているのかしら……。

「いいえ、貴女は私達の唯一無二の姫様で在らせられます。私はこの日をどれほど待ちわびたことでしょうか」
 鎧の男は感無量だと言わんばかりの興奮状態であたしの話を全く聞いてくれなかった。

 あたしは今、覚えていることを思い出そうとした。
 ちょっと前まで、あたしは、フィリップと共に立花さんの到着を待っていた。

――少し前……。

「お嬢さんがジンさんを信じているのでしたら、面白いことを教えてあげますよ。貴女は今、毒に犯されています。ジンさんがここに来ましたら、この解毒薬を賭けて僕と戦って貰います」
 フィリップはあたしの表情を伺っている。

「つまり、ジンさんが間に合わなかった時点で、その瞬間貴女は毒で死にます」
 そう宣告すると、フィリップは楽しそうにあたしを見つめた。

「どうやら貴女も中々強情のようですね。それはそれで楽しいですよ。どれくらいジンさんが痛め付けられれば表情が変わるのか。想像するだけでゾクゾクします」
 フィリップはそう言いながら、紅茶のお代わりを入れていた。

「おや、思ったより早くここに着いたようですね。ここに来る階段にはかなり罠を仕掛けたのですが」
 フィリップは意外そうな顔をしていた。

――ガチャッ

 扉が開かれ、中に人が入ってくる。

「立花さん?」
 あたしは見慣れないシルエットに困惑した。
 それにしては、大きい気がする……。
 しかし、あたしより困惑した人物がいた。

「あなたは誰ですか?どうやってここに入ってきたのですか?」
 フィリップは思いもよらない事態を飲み込めずにいた。

「ご無事で何よりです姫様、さあ帰りましょう。民もあなたの帰りを待っております」
 赤い鎧の男が跪いて話していた。

「僕の質問は無視しない方がいいですよ」
 フィリップは鎧の男に衝撃波を放った。

「姫様、私が来たからには安心です。こちらへどうぞ」
 鎧の男は微動だにせず、話を続ける。
 あたしのことを【姫様】と呼んでいることに気が付くのに時間がかかった。

「パワーを加減し過ぎたようですね。今度はフルパワーですよ」
 フィリップが出力を最大にして衝撃波を放ったが、鎧がカタカタと揺れるだけでほとんど効果はなかった。

「さっきから、君は無駄なことをしてるよ。この勇者の鎧には君程度の力は通じない」
 鎧の男から兜越しに威圧感のある声が急に出てきた。

「通じない?何を言っているのか全くわかりませんね」
 フィリップは瞬間移動で間合いを詰めて至近距離から連続して衝撃波を繰り出した。

「だから意味ないってば、それにしても君は畏れ多いことに姫様を監禁していたんだね。そして、あんなことやこんなことを…。万死に値するよ」
 鎧の男の声は段々荒くなっていた。

「本当の衝撃波はこう打つんだよ!うらぁ!」
 鎧の男が激昂して腕を振り上げると、辺り一帯に突風が舞い上がる。

 フィリップは瞬間移動で避けたと思っていた。

「グフッ」
 フィリップの腹に重い衝撃が走る。

「勇者の技が、瞬間移動なんかで避けられると思ったか?死ね!!」
 鎧の男はブンブンと剣を振った。

「当たりませんよ」
 フィリップは今度こそ避けられると思っていた。
 
 しかし、瞬間移動で一定の距離を取ったにも関わらず、フィリップは切り傷だらけに、なっていた。

「止めだ!!」 
 鎧の男が両手を天にかざした瞬間、レオンは気づいてしまった。

「姫様、大丈夫ですか?」
 あたしは衝撃波の余波を受けて倒れてしまったらしい。

「これはいけない。早く戻らなくては」
 鎧の男はあたしを抱き抱えて窓から外に出た。

――現在

 そして、あたしはこの男に抱えられたまま何処かに向かっている。

「ちょっと待って、あたしは薬を飲まなきゃ死んじゃうの?」
 あたしの背筋が寒くなった。

「おろしてください。あたしはこのままじゃ…」
 あたしは早く逃げなきゃならないと本能的に感じた。

「姫様、大丈夫です。この私、勇者ヒースが必ず貴女を護ります」
 ヒースと言う男の話の通じなさは、かなり厄介だった。

「あたしは姫様じゃないし、このままだと、毒で死んでしまいます。あの洋館に戻ってください」
 あたしは懇願したが、ヒースは返事をしてくれなかった。

「あー短い人生経験だったな。このまま死にたくないな」
死を意識していると、自然と涙が目頭に集まる。
 あたしは死を覚悟して目をつぶった。
 その時、あたしの耳に聞き慣れた声が聞こえた。

「涼子くん無事かーい?」
 遠くからあたしを呼ぶ声がした。 

 目を開くと、大きなドラゴンが3人を乗せて羽ばたいている。

「立花さーん!助けてくださーい」
 あたしは、今日一番の大声で助けを求める。
 あたしの声に立花は気がついたようだ。

「今、行くよー。あの馬まで飛んでくれ!」
 立花はドラゴンに指示を出す。

(やっと来てくれた。嬉しい。本当に嬉しいよ)
 あたしは涙ぐんでいた。

「何だ?まだ追手がいたのか。仕方がないな」
 ヒースが腰の剣を抜いて、一振りする。

――グシャッ

 立花達の乗っていたドラゴンの首が切り落とされた…。

約束の時間まで後、1時間30分。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

処理中です...