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第14話 事件と被害者とメモ

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「おいっ、大丈夫か」
「医者を呼べ」
 
 辺りが騒がしい。誰かが倒れたみたいである。
 立花は、人が集まっている場所へ走って行ったのであたし達も追いかけた。

「はい、ちょっと失礼しますねぇ」
 立花は人をかき分け、倒れている人に近づく。

 倒れていたのは、さっきまであたし達の所にいたガルシアだった。
 口から泡を吹いて、白目をむいて倒れている。

「ミスタータチバナ、これは……」
 スタンレー駆けつけると、立花に話しかけた。

「脈は無いみたいですねぇ」
 立花は首を振って答えた。

「何ということだ……私のパーティーで……」
 スタンレーはよろめく。

「とりあえず、憲兵隊が駆けつけるまでパーティーの参加者はここから出ないようにスタンレー氏から手配をお願いしますねぇ」
 立花は、無表情でスタンレーに指示を出す。

「タチバナ、どういう事だ。まさか……」
 スタンレーの顔が青くなった。

「断定は出来ませんが、殺人事件かもしれませんねぇ。そうなれば、我々出席者は容疑者になりますからな」
 立花は当然のように言い放つ。

「承知した。君の言うとおりにしよう」
 スタンレーは部下に指示を出した。

「ガルシア、どうしてこんなことに‥」
 クラウドが走ってきた。

「どうして、お前が毒殺されなきゃいけないんだ。教えてくれよ、なあ探偵さんよお」
 クラウドは立花に詰め寄る。

「落ち着きなさい。まだ、殺されたと決まった理由ではないんだよ」
 立花は、クラウドをなだめる。

「あら、私は誰かのてっきり恨みを買って殺されたんだと思ったけど‥」
 フィリアが横から顔を出す。

「ガルシアさんどうして‥」
 ケイトは涙を流していた。

 あたしは、声が出なかった。人が、死んでしまった。震えが止まらなかった。

「とりあえず、憲兵隊が来る前に、簡単に死体の状況を調べたいので、スタンレー氏は私が変なことをしていないか見ていてください」
 立花はスタンレーに、また指示を出した。

「ふむふむ。なるほどねぇ」
 立花はガルシアの死体を隅々までチェックする。

「どうやら、死因は何らかの中毒性の症状ですねぇ。但し、ほとんど自殺の線は消えましたなあ。ポケットにこんなものが‥」
 立花はガルシアの懐からメモ帳のようなものを取り出した。

【7月30日パーティー、スタンレーホテル】

【7月31日時計の修理、時計屋ブラン】

【8月1日講演会、シンポート大学】

予定がぎっしり埋まっていた。

「今日以降の予定がぎっしり詰まってますねぇ。これから死ぬ人間が持ち歩かないでしょうな」
 立花は髭を触りながら話していた。

「パーティーの出席者の中でノーマン氏と特に親しい人間はあなた達ですね?」
 フィリア、ケイト、クラウドの3人を指差して立花は確認した。

「ちょっと、あたし達の誰かが殺したって言いたいわけ?あいつ、色んな奴から嫌われてるのよ」
 フィリアは怒っている。

「本当に疑われているのですか。そんな‥」
 ケイトは悲しそうだ。

「俺は違うぞ、絶対にな!」
 クラウドは大声で否定した。

「おっとこれは失礼。しかし、私は被害者について全く知りませんからねぇ。彼のことを教えていただけないでしょうか?」
 立花は全く悪びれずに質問した。
 容疑者だと疑っているということは否定しないんだ……。

「ニーナくん。メモの準備を頼んだよ」
 立花はニーナに指示を出す。

「承知致したましたわ」
 ニーナはメモの準備をした。

 あたしは、見ていることしか出来なかったが、事件と真剣に向き合う立花とニーナの姿は誇らしいと感じていた。

長い夜はまだ、始まったばかりだった。
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