上 下
6 / 64

第6話 馬車と給金と見知らぬ人の優しさ

しおりを挟む
 3日間はあっという間に過ぎていった。
 村長の家の掃除や料理にてんてこ舞いの毎日。

 ちょうど、お手伝いさんが体を壊してしまったらしく、新しい人を探していたところとのことだった。
 母が居なかったあたしは、家事はよくやっていたので、得意な方だったので何とか頑張れた。

 もちろん、不安でいっぱいだったけど、意外と順応している自分に驚いた。
 時々、今の状況を忘れてしまう。
 ずっと前からココに居たような錯覚‥
 高校生だった自分の方が夢だったのだろうか?

 そして馬車が出る日の朝……。

「名残惜しいのお」
 村長が寂しそうな顔で見送ってくれた。

「色々とお世話になりました。」
 あたしは深々と頭を下げた。

「これは少ないが、今日までの給金じゃ」
 コインの入った袋を渡される。

「何から何までありがとうございます」
 あたしは、もう一度頭を下げた。

「そろそろじゃな」
 村長が時計を見ると、ほとんど同時に遠くから馬の走る音と車輪の音が聞こえてきた。

 しかし、音は段々と大きくなってきて‥
 ドシン、ドシンと重く響いた音になってきた。

「馬車が着いたぞ」
 村長はあたしに、声をかける。

「これが‥馬車‥なんですか?」
 目の前の馬車と言われたものは、あたしが、以前テレビで見たものとは全然違った。

 まず、馬がデカイ。
 馬は確かに大きな動物なのだが、そんなレベルでは無かった。
 動物園で見たアフリカゾウよりも少し大きいくらいに感じた。
 それが、バスくらいある車体を引いているのだ。

(ああ、本当にココはあたしの知らない世界なんだ)
 ビックリすることにそろそろ慣れてきた。

「乗るのは、そちらの嬢ちゃんだけかい?」
 先頭で手綱を握っているのは色黒でプロレスラーみたいな大男。

「そうじゃよ、これは乗車賃じゃ」
 村長はもう一つ袋を出して手渡した。

「えっ、村長さん?」
 あたしは自分の持ってる袋を見た。

「それは給金の余りじゃよ。思ったよりよく働いてくれたからのお」
 村長はにっこり笑った。

「また、いつでも来なさい。短い間じゃったけど孫が出来たみたいでいい気分じゃった」
 あたしは、目頭が熱くなりながら、さっきまでよりもずっと深く頭を下げた。

「ありがとうございました」
 見知らぬ人の優しさが痛いくらいに嬉しかった。

 馬車は思ったよりも揺れなかったので、中々快適だった。
 スピードもかなりのもので、自動車と比べても遜色ないくらい。しばらく景色を見ていたが、いつの間にか眠っていた。

 次の日の朝、馬車はハランの町に到着。
 あたしは、村長に書いてもらった地図を片手に【タチバナさん】の家を探す。

「ここが、薬屋で、その隣が食料品屋で‥見つけた」
 地図に書いてあった、細い道を発見した。
 
 この先が【タチバナさん】の家のはず……。
 少し歩くと数百メートル先に建物が見えた。
 あの建物で間違いないだろう。あたしは、歩く速度を上げた。

しかし……、歩いても、歩いても建物に近づいてる気配がない……。

「はぁ、はぁ……、変だなあ」
 もう1時間は歩いてるのに、辿り着かない。
 嫌な予感がしたものの、このくらいでは諦められない。
 
 2時間経過……まだ着かない……。
 3時間経過……まだ着かない…………。

「何なのよぉぉぉ!」
 だんだんイライラしてきた。
 せっかくこんなに頑張ったのに、理不尽すぎる。自分の、不運を呪った。

 流石に引き返そうかなと思ったとき、目の前の建物が少し大きくなっていることに気が付いた。
 そこからは、早かった。建物までの距離はすぐに縮まる。

【立花探偵事務所】

 薄汚れた表札にはそう書かれていた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

隠しスキルを手に入れた俺のうぬ惚れ人生

紅柄ねこ(Bengara Neko)
ファンタジー
【更新をやめております。外部URLの作品3章から読み直していただければ一応完結までお読みいただけます】 https://ncode.syosetu.com/n1436fa/ アウロス暦1280年、この世界は大きな二つの勢力に分かれこの後20年に渡る長き戦の時代へと移っていった リチャード=アウロス国王率いる王国騎士団、周辺の多種族を率いて大帝国を名乗っていた帝国軍 長き戦は、皇帝ジークフリードが崩御されたことにより決着がつき 後に帝国に組していた複数の種族がその種を絶やすことになっていった アウロス暦1400年、長き戦から100年の月日が流れ 世界はサルヴァン=アウロス国王に統治され、魔物達の闊歩するこの世界は複数のダンジョンと冒険者ギルドによって均衡が保たれていた

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

勇者パーティを追放された万能勇者、魔王のもとで働く事を決意する~おかしな魔王とおかしな部下と管理職~

龍央
ファンタジー
ある日突然、同じパーティメンバーのルイン達から追放される万能勇者であるカーライル。 勇者である自分がいなくてなにが勇者パーティか!? という叫びを飲み込み、国外へ出る事を決意する。 求人募集の情報を集めて、いざ魔王国へ……。 は!? なんで魔王がブーメランパンツなんだ!? 部下として紹介された女魔族は、窓から入って来たりと、頭のネジが何本か抜けてるような奴だし……。 仕方なく仕事を始めたら、おかしな魔物もいて……どれだけ突っ込んでも突っ込み切れねぇ! 何でもできる万能勇者、カーライルが、おかしな魔族とおかしな仕事をするお話。 おかしな魔王達とギャグを交わしつつ、魔王国でお仕事をするお話です。 カーライルとは別視点のお話もあります。 1話1500文字前後で投稿致します。 投稿スケジュールに関しましては、近況ボードをご覧ください。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しております。

竜焔の騎士

時雨青葉
ファンタジー
―――竜血剣《焔乱舞》。それは、ドラゴンと人間にかつてあった絆の証…… これは、人間とドラゴンの二種族が栄える世界で起こった一つの物語――― 田舎町の孤児院で暮らすキリハはある日、しゃべるぬいぐるみのフールと出会う。 会うなり目を輝かせたフールが取り出したのは―――サイコロ? マイペースな彼についていけないキリハだったが、彼との出会いがキリハの人生を大きく変える。 「フールに、選ばれたのでしょう?」 突然訪ねてきた彼女が告げた言葉の意味とは――!? この世にたった一つの剣を手にした少年が、ドラゴンにも人間にも体当たりで向き合っていく波瀾万丈ストーリー! 天然無自覚の最強剣士が、今ここに爆誕します!!

神様に妻子の魂を人質に取られたおっさんは、地球の未来の為に並行世界を救う。

SHO
ファンタジー
相棒はあの名機! 航空自衛隊のベテランパイロット、三戸花乃介。 長年日本の空を守ってきた愛機も、老朽化には勝てずに退役が決まる。そして病に侵されていた彼もまた、パイロットを引退する事を決意していた。 最後のスクランブル発進から帰還した彼は、程なくして病で死んでしまうが、そんな彼を待ち受けていたのは並行世界を救えという神様からの指令。 並行世界が滅べばこの世界も滅ぶ。世界を人質に取られた彼は世界を救済する戦いに身を投じる事になる。これはチートな相棒を従えて、並行世界で無双する元自衛官の物語。 全ては、やがて輪廻の輪から解き放たれる、妻子の生きる場所を救うために。 *これは以前公開していた作品を一時凍結、改稿、改題を経て新規に投稿し直した作品です。  ノベルアッププラス、小説家になろう。にて重複投稿。

処理中です...