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第五話
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「獣人族……? は、初めて見ました」
目の前には長い銀髪で琥珀色の瞳をした美青年。
しかし、耳の位置だけは人間とは違い……犬や猫にも似た位置にあります。
それにしても彼は私のことを“聖女”だと呼んでいましたが、私のことをご存知なのでしょうか……。
「エデルタ王国の聖女様……ですね? 私は獣人族の集落で族長の代理を務めているロゼルと申します」
「いえ、私はそのう。エデルタの聖女はもう辞めてしまったのですが……」
獣人族の族長代理というロゼルに、私は既にエデルタの聖女は辞めてしまったことを伝えます。
他種族から何かを依頼されることは今までに無かったので……、聖女の力が必要なこととは何なのか想像も付きません。
「や、辞めてしまわれたのですか? しかし、魔物の群れを一蹴するその規格外の魔力。貴女様のお力は千年以上生きたハイエルフよりも強力です。そんな貴女を見込んでお願いします。我々の集落を助けて下さい……!」
ロゼルは聖女を辞めたことに対して一定の驚きは示しましたが、かなり切羽詰まっているらしく……私の力が必要だと言いました。
私に出来ることなら、助けになりたいと思いますが……。
「アレイン・アルゼオンと申します。魔法は初級魔法くらいしか使えませんが、それでもよろしければ力になりましょう」
婚約者だった人にも、父親にも必要がないと言われた私。
そんな私を頼ってくれるのでしたら、その期待に応えたい。
私は馬を下り……ロゼルに自己紹介して、彼の力になると告げました。
「ありがとうございます! アレイン様の力は先程、拝見させて頂きました。謙遜なさらずとも、凄い方だということは理解しています」
「謙遜しているわけではないのですが……。それよりも、お困りのこととは何でしょう? 随分と焦っているみたいでしたが……」
ロゼルは私の手を掴み喜びましたが、本当に謙遜しているわけではありません。
初級魔法を手数で補っているだけですから、器用なことは出来ないのです。
しかし、変に弁明しても仕方がありませんので……私はロゼルの困りごととやらを聞くことにしました。
「じ、実は我々の集落の土地はジルベータ王国のとある伯爵様の領地を借り受けているのですが……集落付近に魔物が増えたことから、治安の維持に金がかかるから土地の賃料を値上げすると言われまして……」
「賃料が値上げ……」
「今までの金額の3倍は流石に払えないと申したのですが、払えないなら追い出すとまで言われてしまい……。何とか魔物の駆除を試みたのですが、あまりの数に断念するしかなく……。ですから、何とか一騎当千と名高い隣国の聖女様のお力を借りるために私はエデルタ皇国を目指していたのです」
なるほど、そういうことでしたか。
ロゼルの望みが単純な魔物の駆除ならば容易いですが……。治安維持のために賃料を3倍ですか……。
何か裏がありそうな話に聞こえてしまいます。
「分かりました。魔物は何とかしてみましょう。集落へ案内して下さい」
「あ、ありがとうございます! 流石は元聖女様! 頼りになります!」
あまり持ち上げられても困るのですが……。
私は再び白狼の姿になったロゼルに案内されて、獣人族の集落へと向かうことにしました――。
目の前には長い銀髪で琥珀色の瞳をした美青年。
しかし、耳の位置だけは人間とは違い……犬や猫にも似た位置にあります。
それにしても彼は私のことを“聖女”だと呼んでいましたが、私のことをご存知なのでしょうか……。
「エデルタ王国の聖女様……ですね? 私は獣人族の集落で族長の代理を務めているロゼルと申します」
「いえ、私はそのう。エデルタの聖女はもう辞めてしまったのですが……」
獣人族の族長代理というロゼルに、私は既にエデルタの聖女は辞めてしまったことを伝えます。
他種族から何かを依頼されることは今までに無かったので……、聖女の力が必要なこととは何なのか想像も付きません。
「や、辞めてしまわれたのですか? しかし、魔物の群れを一蹴するその規格外の魔力。貴女様のお力は千年以上生きたハイエルフよりも強力です。そんな貴女を見込んでお願いします。我々の集落を助けて下さい……!」
ロゼルは聖女を辞めたことに対して一定の驚きは示しましたが、かなり切羽詰まっているらしく……私の力が必要だと言いました。
私に出来ることなら、助けになりたいと思いますが……。
「アレイン・アルゼオンと申します。魔法は初級魔法くらいしか使えませんが、それでもよろしければ力になりましょう」
婚約者だった人にも、父親にも必要がないと言われた私。
そんな私を頼ってくれるのでしたら、その期待に応えたい。
私は馬を下り……ロゼルに自己紹介して、彼の力になると告げました。
「ありがとうございます! アレイン様の力は先程、拝見させて頂きました。謙遜なさらずとも、凄い方だということは理解しています」
「謙遜しているわけではないのですが……。それよりも、お困りのこととは何でしょう? 随分と焦っているみたいでしたが……」
ロゼルは私の手を掴み喜びましたが、本当に謙遜しているわけではありません。
初級魔法を手数で補っているだけですから、器用なことは出来ないのです。
しかし、変に弁明しても仕方がありませんので……私はロゼルの困りごととやらを聞くことにしました。
「じ、実は我々の集落の土地はジルベータ王国のとある伯爵様の領地を借り受けているのですが……集落付近に魔物が増えたことから、治安の維持に金がかかるから土地の賃料を値上げすると言われまして……」
「賃料が値上げ……」
「今までの金額の3倍は流石に払えないと申したのですが、払えないなら追い出すとまで言われてしまい……。何とか魔物の駆除を試みたのですが、あまりの数に断念するしかなく……。ですから、何とか一騎当千と名高い隣国の聖女様のお力を借りるために私はエデルタ皇国を目指していたのです」
なるほど、そういうことでしたか。
ロゼルの望みが単純な魔物の駆除ならば容易いですが……。治安維持のために賃料を3倍ですか……。
何か裏がありそうな話に聞こえてしまいます。
「分かりました。魔物は何とかしてみましょう。集落へ案内して下さい」
「あ、ありがとうございます! 流石は元聖女様! 頼りになります!」
あまり持ち上げられても困るのですが……。
私は再び白狼の姿になったロゼルに案内されて、獣人族の集落へと向かうことにしました――。
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