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決戦の火蓋

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「レオン殿がシンシア様を連れてまいった。至急、陛下に報告したいことがあるそうだ」

 シュナイダーは王宮に私たちを引き連れて行く。
 宰相である彼のおかげで王宮内に容易に入れた。

 さて、彼らはどう出るのか。もちろん、事情を知るレオンやシンシアさんが何食わぬ顔をして戻るなど考えられないだろうから、不審に思うはずだ。

「皇王陛下はレオン殿を投獄するように、と仰せです」

「ちっ、しゃーねぇな。んじゃ、地下牢でもどこへでも連れてけってんだ」

 レオンは両手に錠をかけられて、元部下の兵士に連行されて行く。

 彼との距離が少しばかり離れた瞬間を見計らい、私はパチンと指を鳴らして彼にかけられた錠を切断しておいた。

 体が自由になれば、一人でも逃げ出して城の中に隠れるくらい出来るだろう。

「シンシア様はどうぞこちらにお越しください。アウレール殿下がお待ちです」

 陛下ではなく、アウレール殿下が私を呼んでいるのか。

 彼はもう亡くなっているが、禁術というのは良く出来ていて本人の意識も残っているみたいだった。
 つまり実物の殿下と対面するのと、これは相違ないことなのである。

 追放したはずの私が戻ってきたと知ると彼はどんな反応をするのだろう……。

「やぁ、シンシア。余は信じていたぞ。お前なら真の聖女としての力を覚醒すると。国中の魔物を消したらしいな。褒めてつかわす」

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら、アウレールは私の体にベタベタと触り、労いの言葉を述べる。

 やはり、自分が死人という認識はないのだろうか。
 術にかかっていると知らなかったら死んでいるなんて想像できないかもしれない。

「殿下、あなたは心臓を失い亡くなったはずです。あなたを死に追いやった|ネクロマンサーはどこですか?」

「心臓を失っただと? おいおい、シンシア。お前は勘違いしてるぞ。余は死んでなどおらん。あの卑劣な賊は幻覚を見せていたのだ。レオンとお前に、な」
「幻覚?」
「ああ、そのとおりだ。それでも、余を置いて逃げたレオンは許せんが。ネクロマンサーなど、兵士たちが戻ってくるなり逃げ出していったわ」

 あくまでもしらを切る。というか彼にとってはそれが真実なのかもしれない。

 頭の中に偽りの記憶を埋め込むくらいは出来そうだし。
 これは彼にとって幸せなことなのか、それとも……。

「殿下、あなたは死にました。ネクロマンサーの魔力が無くなれば、たちまちの内にあなたは躯へと姿を変えるでしょう。残念ですが」

「……シンシア、お前! 余を愚弄するか! ちょっとばかり術が使えたからと、調子に乗りおって!」

 殿下が私の頬を打とうとしたので、人差し指から青白く光る刃を繰り出して、殿下の腕を切り落とした。

 腕はボトリと床に落ちて転がり、彼の肉体からは一滴も血液は流れない。
 それどころか、彼は痛がりすらしなかった。

 まるで人形。それを見たアウレール殿下はカタカタと震えだす。

「よ、よ、余の腕が、な、何故、痛みを感じぬ。余は、余は一体!?」

「哀れなアウレール殿下。心から同情します」

 精神を取り乱し、膝から崩れ落ちる殿下からはさっきまでの自信に満ち溢れた面影は見えなかった。

 人の心というのは脆い。意識を保ちながら死を自覚するというのは、どんな気分なのだろうか。

「余は、余は、――キサマ、シンシアではないな……!!」
「――っ!?」

 突如、アウレール殿下の口から触手が伸びて私の胸を貫いた。

 なるほど、木偶にも禁術の布石を潜り込ませることが出来るのか。やはり、良く出来ている。

「やっぱり。シンシアでは無かったか。追放されたあなたが何の用事ですかな? ラスボス魔女さん」

「弟子の首を要求したからには、師匠にも喧嘩を売った認識くらいした方がいいですよ」

 アウレール殿下の私室の扉が開き、シルクハットをかぶった男が中に入ってきた。以前に殿下の心臓を抜き取ったネクロマンサーだ。

「やれやれ、いつの間に偽物の体と入れ替わったのです?」

「ナイショです。手の内を明かすわけないじゃないですか」

 天井に足をつけて立っていた私を見つめるネクロマンサー。

 まったく、この私に殺気当てるなんて。やはり躾が必要みたいだ。
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