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死の刻印

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「魔女アリシア様! 後生です。この国を、皇族たちを再び守護してくだされ。あなたの結界が無くなると、この国は滅びてしまう!」

 顔面蒼白になりながらシュナイダーさんは私にこの国を再び守護して欲しいと言ってきた。

(バカな人ですね。もうとっくに手遅れですよ)

 皇族は滅びて、アーツブルグ皇国はネクロマンサーに支配されているのだ。
 それを救うことはさすがの私にもできない。

「私にこの国の救世主となれということですか。助けてあげなくもないですよ。そのために来ましたから」

 しかし、なにも知らずに暮らしている無垢な国民たちまで巻き込まれるのは可哀想といえば、可哀想だ。

 追放された国を助けてあげるのだから、私は相当なお人好しだと思う。昔の自分なら考えられない。

 アーツブルグ皇国は終わりましたが、せめてネクロマンサーたちの支配からは解放してあげよう。

 陛下や殿下はお墓に入ることが出来れば御の字ということで。

「それはありがたい。あなたが去って以来……この国に魔物が入り込んできて、一時は王宮までもかなりの被害が及んだ。私はあなたを追い出したことを毎日後悔していたのだ。申し訳ない、と。皇族の繁栄の為に力を貸してほしい!」

 ある程度はネクロマンサーたちが抑えてたり、コントロールはしているみたいだが、町に魔物が蔓延っている状況なんて恐怖しかなかっただろう。

 皇族たちのことは言ったほうがいいのかな。もちろん話したほうが良いのだろうけど、ショックが大きそうだし気が引ける。

「……しかし、陛下も殿下もあなたを受け入れはしないだろう。その上、レオン、貴様は重罪だ。シンシア様の誘拐を手助けしたと聞いている。もちろん、最大限の口利きはするが」

 確かに、もしも殿下たちが私に泣きつくなんてことしなかったと思う。

 プライドが高い人たちだから、追放した人間に頼るなんてあり得ないと怒り出すに決まっている。

 やはり、全部教えてあげたほうが良さそうだ。

「もうすでに陛下も殿下も死んでますよ。この国の実権はネクロマンサーたちに握られているのです」

「はぁ……?」

 私は話した。皇王も皇太子の二人は既に亡くなっていることを、二人の遺体が操られていることも。

(もちろん、彼がすぐに信じるとは思ってないですけどね)

「あ、アリシア殿、そんな荒唐無稽が信じられるわけないでしょう」

 やっぱりそうなるか。
 ええーっと、どうしよう。信じてもらう方法ってなにかあるだろうか。

「だってよ。どーすんだよ、この空気」
「信じる信じないはどうだって良いんですよ。どっちにしろ、シュナイダーさんには私の言うことを聞いてもらうしか選択肢はないのですから」
「ふむ……」
「それに、今は助けて欲しいと泣きついていますが、いつ後ろから刺されるとも限りませんからね」

 そう。別にシュナイダーさんに話を信じてもらう必要なんてこれっぽっちもないのだ。

 それに私はシュナイダーさんのことを信じるつもりもこれっぽっちもない。だから、力尽くで従わせるしかない。

 私はシュナイダーの額を人差し指で軽く触れた。

「――熱っ!?」
「“死の刻印”ですよ。この刻印は私の任意で爆発させることが出来ます。例えば、こんな感じで」

 その辺で拾った石に同じように刻印を刻み込み、私はその石をポンッと爆発させる。

 その光景を見た彼と言ったら。もう、酷い有様で。
 自分の額を抑えて奇声を発しながら、ガタガタと震えていた。

 やれやれ、こんな肝の小さい男によくもまぁ、皇国の宰相なんてポジションが務まったものだ。

 こんな昇進者だから、私のことを簡単に売るようなことをするのだ。
 この人はようやく私にナメたことをした後悔していることだろう。

「これでご自分の立場がお分かりになりましたか? シュナイダーさんの生殺与奪は文字通り私の手の内にあるってことです」

 コクコクとシュナイダーさんは首を縦に振る。
 自分の立場をよく理解しているみたいだ。

(ふふっ、何でもするって顔をしていますね。そういう表情。私、好きですよ)

「怖ぇ~~。お、お前って悪役の方が似合ってんなぁ」
「うるさいですよ。故郷を助けたいんですよね? 私は平和的に脅迫してるだけです」

 さてさて、さっそくこの人を使って王宮へと向かうとしよう。

 宰相が協力すれば隠れて殿下や陛下の遺体に近付くことができるだろう。

 それをじっくりと観察すれば、私なら禁術であろうと術式の解析が可能だ。

「お、お、王宮の中に二人を通せば良いんだな。レオンがシンシア様を命懸けで連れ戻したと説明をして――」
「そのとおりです。陛下も殿下もアクションを起こすと思います。私を連れて来いとか、レオンを投獄しろとか。そうしたら、レオンはどこかに匿って、私を陛下の元に――」

 トラブルなく、王宮に入ることが出来れば目的達成はもうすぐ。

 シンシアさんの心臓を狙っているはずだろうから、王宮に行けばきっと私に声がかかるはず。

「一人で対峙して大丈夫なのかよ。あいつら結構強いぞ……」
「誰の心配をしているんですか? 売られた喧嘩に負けたことはありませんよ。例え、魔王にだってね」

 こうして、私とレオンはシュナイダーに連れられてアーツブルグの王宮へと向かった。
 どんなアクションを起こすのか、些か興味がある。
 さて、鬼が出るか蛇が出るか……。
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