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情勢
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「いやぁ、まさか師匠がレッゼフィールに来られるなんて思いませんでしたよ。しかも冒険者登録されるとは――」
「色々と面倒ごとに巻き込まれまして。あなたは変わりないようですね」
フェルゼンはその鬱陶しい長髪をかき上げて、キレイな歯並びを見せつけるようにキザったらしい笑顔を向けながら私に近付いて来る。
彼が冒険者に憧れていることは知っていたが、大賢者と呼ばれる程になっているとは思わなかった。
あんなに小さくて生意気だった子供がよもやこんなにも立派に成長するとは、月日がすぎるのも早い。
「変わりない? あはは、あの頃よりも背は伸びましたし、魔法の腕は上がりましたよ。変わらないっていうのは、師匠みたいにずっと綺麗なままでいる方のことを言うのです。また、プロポーズしても良いですか?」
「ふふっ、安心しました。頭の中がピンク色なところやふざけた態度も、お変わり無いようで」
「やだなぁ、師匠。僕はいつも真剣ですよ」
確かに背丈だけでなくて、感じられる魔力も幾分高まっている。私のもとを離れても、かなりの修行を積んだのだろう。
しかし、この子は昔からこういう冗談を言う子だった。
もっとも私に冗談を言うような知り合いは彼しか居ないので、悪い気はしていない。
「ね、ねぇ、アリシア様。本当に大賢者様の師匠をされてたんですか」
「ええ、そうですよ。あれは五年前のことです」
「――十五年前ですよ。師匠、ギルド登録カードに何歳って書いたんですか? 年齢を誤魔化しているのがバレそうだからって、サバ読まないでください」
「「…………」」
私がちょっとだけフェルゼンとの馴れ初めの年月を誤魔化そうとしたら、彼は間髪を入れずに訂正する。
まったく、細かい男は嫌われるというのに……。
五年も十五年も大して変わらないではないか。
「……こ、コホン。とにかく、何年か前のことです。知り合いが息子に魔法を教えてやってほしいと私を訪ねて来たのです」
「フェルゼン様のお父様と知り合いなんですか?」
「ええ、まぁ……」
まずい。彼の父親と友人だなんて話したくない。
十八歳という設定が揺らいでしまう。
「それで、なんやかんやあって彼に魔法の手ほどきをしたのですよ」
「面倒だからって、端折らないでもらえませんか?」
「――別に、いいじゃないですか。物覚えが良い子でしたから二年くらいで一人前になりました。活躍されてるようで、嬉しいですよ」
この話題は自爆してしまいそうなので、止めよう。とにかく彼は優秀な弟子だった。
あまりにも優秀なので、調子に乗って空から巨大な星を落とす魔法とか、千倍の重力が発生する魔法とか教えたような気がする。
「ところで、師匠の面倒ごとってなんですか? 師匠が引きこもりを止めるなんて信じられないんですけど」
「そ、それは――」
フェルゼンが私の身に起こったことを質問してきたので、偽聖女になったことなど。これまでの経緯を話した。
彼は黙って話を聞いて――。
「アーツブルグ皇国、潰しに行きましょうか? ――っ!? 痛いじゃないですか」
「止めなさい。そんなの下らないですよ。簡単に人を信用して安請け合いしたのが悪いのです」
私の話を聞いて殺気を漏らしたフェルゼンの額にチョップして黙らせた。
背伸びしないと届かないなんて。本当に大きくなったものだ。
アーツブルグの皇太子や宰相にはしてやられたが、私の甘さが招いた結果。
神託を受けて力を出せないシンシアさんに同情したのもあったが……。
国を滅ぼすのは簡単だと思ったが、そういうのは随分と昔に飽きてしまったのである。
「はぁ、師匠がそういうのなら止めときます。よく考えたら、僕が手を出さずとも潰れるでしょうし」
「ん? どういうことです?」
フェルゼンは何もせずとも国が潰れると言った。
確かに私が結界を解いたので、治安は悪くなるだろう。
シンシアさんに力が無いことも、いずれはバレてしまって殿下が皇王陛下に怒られて責任を追求されることも目に見えていた。
しかし、せいぜいそのくらいで、国が潰れるほどとは考えていない。
私の疑問を聞いた彼は再び髪をかき上げながら、口を開いた。
「ダンジョンですよ」
「ダンジョン、ですか?」
「ええ。最近は大きなダンジョンがレッゼフィールとアーツブルグの間に多く発生していましてね。そこから異常な量の魔物が飛び出しているのですよ」
ダンジョン――世界に不思議なことが数あれど、これほど不可思議な存在はないかもしれない。
人間の居住区から少し離れた場所に突如出現するそれは規模に差はあれど、地下へ地下へと続く大迷宮。
どこから、どのようにしてそれが現れるのか誰も知らない。
その中は魔物の巣となっており、そこからあぶれた魔物が外へと出てきているのである。
人々にとっては恐れられる対象ではありますが、その中にはそこでしか取れない資源や鉱物が手に入ったりするので、冒険者という職業はそれなりに人気があるみたいだ。
一発当てると大金持ちになれることも少なくないらしい。
そんな話をクラリスとリックにここに来る道中に聞いた。
ダンジョンがこの辺りに大量に発生している? だから、ここまでの道中にやたらと魔物に出くわしたということか。
「この国は聖女フィーネ様が結界を張って守ってくれていますからね。魔物が増えても問題ありません。あの方は聖女として完璧な役割を果たしてると言っても過言では無いでしょう。――しかし、その分、ダンジョンから出てきた魔物たちは――」
「アーツブルグに向かう、という訳ですか……。なるほど」
ふーむ。引きこもってる間に随分とこの辺りの情勢も変わっているみたいだ。
確かに聖女の結界がないと騎士団が如何に強かろうと、魔物の物量にやられてしまうかもしれない。
(アウレール殿下、シュナイダーさん、頑張ってください。責任はそちらにありますよ)
さて、と。それは置いといて。冒険者のお仕事を体験してみよう。
色々と仕事があるみたいだが、どの仕事をやろうかな。
「色々と面倒ごとに巻き込まれまして。あなたは変わりないようですね」
フェルゼンはその鬱陶しい長髪をかき上げて、キレイな歯並びを見せつけるようにキザったらしい笑顔を向けながら私に近付いて来る。
彼が冒険者に憧れていることは知っていたが、大賢者と呼ばれる程になっているとは思わなかった。
あんなに小さくて生意気だった子供がよもやこんなにも立派に成長するとは、月日がすぎるのも早い。
「変わりない? あはは、あの頃よりも背は伸びましたし、魔法の腕は上がりましたよ。変わらないっていうのは、師匠みたいにずっと綺麗なままでいる方のことを言うのです。また、プロポーズしても良いですか?」
「ふふっ、安心しました。頭の中がピンク色なところやふざけた態度も、お変わり無いようで」
「やだなぁ、師匠。僕はいつも真剣ですよ」
確かに背丈だけでなくて、感じられる魔力も幾分高まっている。私のもとを離れても、かなりの修行を積んだのだろう。
しかし、この子は昔からこういう冗談を言う子だった。
もっとも私に冗談を言うような知り合いは彼しか居ないので、悪い気はしていない。
「ね、ねぇ、アリシア様。本当に大賢者様の師匠をされてたんですか」
「ええ、そうですよ。あれは五年前のことです」
「――十五年前ですよ。師匠、ギルド登録カードに何歳って書いたんですか? 年齢を誤魔化しているのがバレそうだからって、サバ読まないでください」
「「…………」」
私がちょっとだけフェルゼンとの馴れ初めの年月を誤魔化そうとしたら、彼は間髪を入れずに訂正する。
まったく、細かい男は嫌われるというのに……。
五年も十五年も大して変わらないではないか。
「……こ、コホン。とにかく、何年か前のことです。知り合いが息子に魔法を教えてやってほしいと私を訪ねて来たのです」
「フェルゼン様のお父様と知り合いなんですか?」
「ええ、まぁ……」
まずい。彼の父親と友人だなんて話したくない。
十八歳という設定が揺らいでしまう。
「それで、なんやかんやあって彼に魔法の手ほどきをしたのですよ」
「面倒だからって、端折らないでもらえませんか?」
「――別に、いいじゃないですか。物覚えが良い子でしたから二年くらいで一人前になりました。活躍されてるようで、嬉しいですよ」
この話題は自爆してしまいそうなので、止めよう。とにかく彼は優秀な弟子だった。
あまりにも優秀なので、調子に乗って空から巨大な星を落とす魔法とか、千倍の重力が発生する魔法とか教えたような気がする。
「ところで、師匠の面倒ごとってなんですか? 師匠が引きこもりを止めるなんて信じられないんですけど」
「そ、それは――」
フェルゼンが私の身に起こったことを質問してきたので、偽聖女になったことなど。これまでの経緯を話した。
彼は黙って話を聞いて――。
「アーツブルグ皇国、潰しに行きましょうか? ――っ!? 痛いじゃないですか」
「止めなさい。そんなの下らないですよ。簡単に人を信用して安請け合いしたのが悪いのです」
私の話を聞いて殺気を漏らしたフェルゼンの額にチョップして黙らせた。
背伸びしないと届かないなんて。本当に大きくなったものだ。
アーツブルグの皇太子や宰相にはしてやられたが、私の甘さが招いた結果。
神託を受けて力を出せないシンシアさんに同情したのもあったが……。
国を滅ぼすのは簡単だと思ったが、そういうのは随分と昔に飽きてしまったのである。
「はぁ、師匠がそういうのなら止めときます。よく考えたら、僕が手を出さずとも潰れるでしょうし」
「ん? どういうことです?」
フェルゼンは何もせずとも国が潰れると言った。
確かに私が結界を解いたので、治安は悪くなるだろう。
シンシアさんに力が無いことも、いずれはバレてしまって殿下が皇王陛下に怒られて責任を追求されることも目に見えていた。
しかし、せいぜいそのくらいで、国が潰れるほどとは考えていない。
私の疑問を聞いた彼は再び髪をかき上げながら、口を開いた。
「ダンジョンですよ」
「ダンジョン、ですか?」
「ええ。最近は大きなダンジョンがレッゼフィールとアーツブルグの間に多く発生していましてね。そこから異常な量の魔物が飛び出しているのですよ」
ダンジョン――世界に不思議なことが数あれど、これほど不可思議な存在はないかもしれない。
人間の居住区から少し離れた場所に突如出現するそれは規模に差はあれど、地下へ地下へと続く大迷宮。
どこから、どのようにしてそれが現れるのか誰も知らない。
その中は魔物の巣となっており、そこからあぶれた魔物が外へと出てきているのである。
人々にとっては恐れられる対象ではありますが、その中にはそこでしか取れない資源や鉱物が手に入ったりするので、冒険者という職業はそれなりに人気があるみたいだ。
一発当てると大金持ちになれることも少なくないらしい。
そんな話をクラリスとリックにここに来る道中に聞いた。
ダンジョンがこの辺りに大量に発生している? だから、ここまでの道中にやたらと魔物に出くわしたということか。
「この国は聖女フィーネ様が結界を張って守ってくれていますからね。魔物が増えても問題ありません。あの方は聖女として完璧な役割を果たしてると言っても過言では無いでしょう。――しかし、その分、ダンジョンから出てきた魔物たちは――」
「アーツブルグに向かう、という訳ですか……。なるほど」
ふーむ。引きこもってる間に随分とこの辺りの情勢も変わっているみたいだ。
確かに聖女の結界がないと騎士団が如何に強かろうと、魔物の物量にやられてしまうかもしれない。
(アウレール殿下、シュナイダーさん、頑張ってください。責任はそちらにありますよ)
さて、と。それは置いといて。冒険者のお仕事を体験してみよう。
色々と仕事があるみたいだが、どの仕事をやろうかな。
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