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糾弾

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 かつて私はこの世界を征服しようとしたことがある。
 あまりにも強すぎる魔力を手にした私は集団の中で浮いていて、魔女狩りなるものが始まったとき私は迫害の対象となった。

 人間たちは私を異端者として神の名のもとにこの世の平和を乱す悪者だと討伐隊を結成。私に戦いを挑んできた。
 
 仕方なく向かってくる連中をあしらっていたら、国という国が競合して私を殺すために軍隊を投入する。

 国という国の軍隊を魔法で蹂躙したとき。私は世界を恐怖で震撼させた魔女として世界中から恐れられるようになった。

 ああ、これってもしかして世界征服できちゃうんじゃないの? そんなノリで各国を回って、為政者に土下座させていたのだが、すぐに飽きてしまう。

 思ったよりも楽しくなかったし、暇潰しにもならなかった。
  
 だから私は休戦を申し出る。このアーツブルグ皇国の山を一個くれたらもう不毛な戦いはやめてやると。

 当時のアーツブルグの王は物分りがよくて、それを承諾。
 私は山奥に引きこもって隠居生活を開始した。
 もう二度と表舞台には上がることはない。そう思ってから随分と時が経ち。いつしか人々の記憶から私への恐怖は消えてしまっていた……。

 しかし月日はさらに流れ、どういうわけか私はこの国の皇太子と婚約することとなる。
 これが私にとって新しい人生の始まりであった。

 ◆

「アリシア、隠し事をしても無駄だ! 余に隠していることを全て吐くんだ!」

 パーティーの最中、皇太子殿下に急に怒鳴られた。彼はとても、怖い顔をしている。この方は私の婚約者なのだが……。

 隠し事――? 

 色々と思い当たる節があり過ぎて、どれのことか分からない……。

 殿下が未だに小さい頃から使っているお気に入りのバスタオルが手元に無くては眠れないことを言いふらしたことか? 

 それとも、殿下が騎士団長さんに命じて淫らな書物を買いに行かせていることを給仕の方々に面白おかしく話してしまったことなのか?

 うーん。なんのことやら――。

「君が偽物の聖女であることはバレてるんだぞ!」

「えっ? 何を今さら? 知ってましたよね?」

 殿下は私が偽聖女だと糾弾してきた。
 私からすると、何を今さらという感じだ……。

 そもそもの事の発端は、本物の聖女の力が先代様に比べて弱すぎる事だった。とびきりの美少女で見た目も神々しく、ひと目で聖女だと分かるような方なのだが、それだけの人だったのである。

 神の啓示を受けた紋章もきっちりと背中に刻まれているのだが……。

 祈っても、祈っても、結界を張ることが出来ず、国の中に魔物が侵入し、国民が犠牲になってしまっていた。

 困ったこの国の宰相さんが並外れた魔力をもっている魔女の私に泣きついて来たのだ。

 あのときはびっくりした。まさか世界征服に飽きて、隠居暮らしをしていた私のもとに頼みごとをするとは。

『魔女殿――どうか聖女として、この国を守護して頂けないでしょうか? かつて世界を震撼させたあなたなら、城を中心に巨大な結界を張ることが出来るはずです』

『嫌ですよ。面倒くさい。結婚までせねばならないのでしょう? バレたらどうするんですか?』

『心配いりません。皇太子殿下は了承してますし、万が一皇王陛下のお耳に届きましても責任はすべてこのシュナイダーが負いますゆえ……』

『このお饅頭、美味しいですね。モグモグ』

 と、まぁ。こんな感じで責任は全てシュナイダーさんが負うという形で仕方なく私が聖女のフリをして皇太子殿下と婚約をすることを了承したのだ。

 不老不変の秘術によって、見た目が十八歳の頃から変わっていないとはいえ、年下すぎる皇太子と結婚するのはまぁまぁ抵抗があった。

 仕方ない。これからは十八歳で通そう。そう考えると悪くないと無理やり納得もした。

 そして、魔力によって力尽くで結界を張り、魔物の侵入をブロックをする。
 寝ながら結界を張るのって結構神経削られるので、ストレスが凄い。その分、贅沢三昧させてもらったが。

 つまり、私が偽物の聖女ということは殿下は最初から知っていたのである。

 この国の皇位継承の条件が国の守護者である聖女との婚約だということもあって焦っていた彼は二つ返事で、この欺瞞に付き合うことに賛成していたのだ。

 力の弱い本物が、真の力に目覚めるまで何十年もかかる可能性があったみたいだ。
 さすがにそんなには待てなかったのだろう。

 それなのに私を糾弾している。しかも公の場で。おそらく、皇王陛下にバレそうになってしまって、自分も騙されたという体裁を作ろうとしてるのだと思う。

(シュナイダーさん、責任を負うと言っていたのだから、きちんと取り繕ってください。頼みますよ)

「シュナイダーが全部、父上に報告していたぞ。お前に脅されていたとな」

 ――シュナイダーァァァ! 裏切ったな!?

 あの男、保身の為に私を皇王に売ったのか。
 責任を負うなんてどの口が言っていたのだろうか。

 こうなると、私が聖女を騙って皇太子妃になろうとした魔女という構図が成り立つ。

 さてどうしたものか。国を滅ぼすというのも選択肢としてはあるが、そんなことをするとまたもや世界中と喧嘩をしなくてはならなくなる。
 
 それはいかにも面倒くさい。
 
 まぁ、他にも私の強みはある。
 この国を守る結界を張っていることだ。さすがに結界がなくなればこの国の人たちもまずいと思うだろう……。

「シュナイダーさんが何と仰ったか存じませんが、私はあの方に頼まれて国を守護していたにすぎません。本物の聖女が使えないのですから、致し方ないでしょう。それに殿下も――」

「シンシアを馬鹿にするでない! あの子は直に聖女に相応しい力を得る。彼女こそ余の運命の人だ!」

 なるほど、本物の聖女と接触していたのか。
 それで、偽物の上に地味な私と比べて、余計に。最初は偽聖女との婚姻に納得していても、父親にはバレるし、本物の聖女は美人だし、が重なって私を切る方向に振り切れた、というわけだ。

 それでも残念だが、シンシアさんの力ではこの国を守護することは出来ないでしょう。覚醒には本当に何十年とかかるみたいだし。

 シュナイダーさんが私に泣きついたのはそれが明白だったからなのである。

 聖女の力が弱いということを他国に知られると魔物以外にも警戒せねばならなくなる。

 何故なら、この国の治安は聖女が魔物を牽制し、騎士団が他国の軍隊を牽制するという二人三脚によって成り立っているからだ。

 私が聖女のフリをしなくてはならなかったのは、圧倒的な魔法力によるゴリ押しでも、聖女の力は健在だと示すため――。

 だから、シンシアさんの存在は教会の幹部のごく一部と宰相さんしか知らなかったのである。

「殿下、落ち着いてください。結界を解除すれば、魔物たちが町に入ってきて大変なことになります。それを知っていたからこそ、私のような者を受け入れたのでしょう?」

「黙れ! 薄汚い偽物め! 父上はお怒りだ! 皇家に恥をかかせた、うつけ者はこの国に置くわけにはいかないとな! 余との婚約はこれをもって破棄。この国から出ていけ! アリシア!」

 はぁ、婚約破棄した上で国外追放ですか。死罪にしなかったのは温情だろうか。
 まぁ、死罪などと言われても力づくで逃げたけど……。

 理由はあれど、皇王陛下を騙した事実は事実ですから出ていくことには異論はない。
 しかし、この国での生活はそれなりに楽しかったから多少は心配になってしまう。
 そうは思えど、この状況はあまりにも四面楚歌だった――。
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