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20 困惑

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「婚約して、婚約破棄されろとはいわれたけどさぁ……」

 あたしは見慣れぬ天井を見つめながら独り言を呟いた。はぁ、予定調和とはいえこの状況はあまりにもでは無いか?

「まさか、婚約して1時間後に婚約破棄されるとは思わなかったよー」

 あたしは自分の身に起きた出来事が整理出来ずにいた。
 そう、あたしは今自由を奪われた状態である。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ケビンとの約束から一週間後、アウレイナス殿下からの呼び出しに応じて、今度はアーツブルク城でお父様と共に会食。
 その後、彼からの熱烈なプロポーズを受けてあたしは承諾し、正式に婚約した。

 そして、1時間後、帰宅しようと城の外に停車している馬車に乗り込もうとしたときである。

 あたしたちは憲兵隊に囲まれた。
 そして、あたしは御用となった。

 罪状はアウレイナス暗殺未遂である。

 同時に婚約は破棄となった。暗殺未遂の容疑者と婚約関係などあり得ないからだ。

 アウレイナスは何かの間違いだと抗議したらしい。
 しかし、あたしが知らない証拠とやらを見て、最後には納得したみたいだ。

 あっさり引き下がらないで欲しかったが、余程の周到に用意されていたのだろう。最後には残念そうな顔をしてあたしを見ていた。

「すまない。そなたを個人的には信じてやりたいのだが……。あまりにも証拠が多すぎる。本当にそなたは余を殺そうとしていると、思ってしまいそうになるくらいにな……」

「はぁ、そうですか。信じてもらえると期待してませんので、謝らないで頂けませんか? どうぞ、無実の罪で糾弾してください」

 あたしはアウレイナスの言葉に返事をした。

「貴様っ! 殿下に向かってなんて口を! 叩き斬ってやる!」

 憲兵隊の一人が剣を抜いた。気の短い男も居るもんだ。

「待て! 良いのだ……」

「しかし、殿下、この女は……」

「余は、良いと言っておる!」

 アウレイナスが制止したので、あたしは斬られずに済んだ。

 危なかった、つい煽ってしまったな。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「まぁ、珍しく裁判やってくれるみたいだし、閉じ込められたのも――」

 あたしは周りを見渡した……。

 机にテーブルにソファーとベッド……。
 壁には絵画なんて飾られていて、ええ、どう見ても普通の部屋です。

「殿下の情けってやつなのかなー。とりあえず、刑が確定するまではここで軟禁って言われたけど……。まぁ、いいか。牢獄に閉じ込められるよりは……」

 あたしは本棚に並べられている本を適当に選んで暇を潰すことにした。

 しばらくすると、食事が運ばれてきた。
 パンとスープのみのシンプルな夕食。まっ、こんなもんだよねー。
 

 
「ふーん、毒か……」

 50回を超える服毒自殺経験から、あたしの鼻は野生の狼並(狼は見たことないけど)に利くようになっていた。

 なるほど、アウレイナスが情けをかけることを恐れて暗殺を企んできたわけだ。
 確かにアウレイナスは冤罪を信じ切ってなさそうだった。その証拠に、この待遇だし……。

「しかし、どうしたものか。この毒殺を回避するのは簡単だけど……、暗殺に失敗したら次の矢が放たれることは明白。ケビンからの助けも当てにならないし。というか、あたしがこれに気付かなかったら即死じゃん。やっぱり、役に立たなかったなぁ……」

 あたしはそんなことを言いながら毒入りスープを眺めていた。


「悪かったな。役に立たなくてよぉ。焦ったぜ……、まさかこんなに早く奴らが動くとはなぁ……」

「えっ?」

 あたしは驚いて後ろを振り向いた。

 背後にはケビンが腕を組んで立っていた。
 
「よっ、いい部屋じゃねぇか。トランプでもしてちょっと遊ぼうか?」

「いやいや、貴方、どっから入ってきたの?」

 あたしは立ち上がって、ケビンに詰め寄った。

「ああ、食事が運ばれて来たときに一緒に部屋に入ってたんだぜ。オメーが口をつけようとしたら止めるつもりでよぉ……。しっかし、毒に気付くとはさすがだな」

 ケビンは平然と答えた。全然気付かなかった……。気配を感じなかったから……。

「さすがって、何か含みのある言い方だな。さすが、自殺のプロは違うねぇとか言いたいのかよ?」

「ははっ、相変わらず捻くれてるじゃねぇか。そうじゃねぇよ、単純にオメーの能力の高さを称賛してるだけだよ」

 ケビンはあたしの背中を叩きながらそう言った。気安く触らないで欲しいんだけど……。

「ていうか、もう貴方の敵があたしのことを殺しにかかっているんだけど。今すぐこの状況を何とかできるの?」

 あたしは率直に思ったことを質問した。

「いや、そりゃ無理だ。こんなに早く連中が動くことと、アウレイナスの奴が思いの外、オメーを厚遇したことは計算違いだったぜ」

「ちょっと、はっきり言うじゃないか。大丈夫なのかよ」

 あたしは思いっきり不安しかなかった。
 そりゃあ、こんなに早く助けに来たことは期待以上だったけど、見直すのは全部解決してからだ。
 
「だが、連中は急ぎ過ぎて雑に動いていた。このチャンスを活かせば、思ったより楽にグランルーク派を一網打尽に出来るかもしれねぇ。だからさ、クリスティーナ……」

「急に名前で呼ぶなよ……。今度は何をしろって?」

「ちょっと、オメーには死んでもらうぜ――」

 静かにそう告げた、ケビンの瞳は妖しく黄金色に輝いた――。
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