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元魔王城(142〜)
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しおりを挟む(落ち着け、慌てるな。道が繋がってなくても助けに来てくれる可能性はある。そもそも僕は確か暖炉からいきなりここへ飛ばされたんだ。見たところ異空間への出入口はどこにもないけど……だけど、きっとここはあの暖炉と繋がっていて……繋がって……)
考えつつ、今となってはもうあの暖炉と繋がっていないことはヴンダー自身がよく分かっている。そして、空間を再度同じ場所へ接続するのは例え至近距離でさえ極めて困難だということも知っている。
部屋の中心には、薄汚れた黄土色のドレスを身に着けているメデューサが憤怒の表情で仁王立ちして──仁王立ち?
ヴンダーは念のため目をこすった。
それから改めて見てみるが、メデューサは変わらず仁王立ちで居る。細身の体型だが、ギムナックよりもふた周りは大きい。
(メデューサの下半身って、蛇じゃなかったっけ? 亜種かなあ?)
死地ともいえる状況を鑑みてなお能天気なのは、雪山で一晩のうちに鍛え抜かれた度胸のせいだけではなさそうである。相手がヴァンパイアでなくメデューサであったことが要因であるかも知れない。
メデューサは、個体数こそ少ないながらも大陸の至るところで出現が確認されていて、その分得られた情報が多い。例えば、間合いに入らなければ物理攻撃をしてこないことや、遠距離攻撃は火か土魔法を使ってくること。弱点属性は水か風であること。さらに石化スキルの再使用には一定の時間を要することなど、討伐に必要な情報はほぼ出揃っているのだ。
かといって無論、討伐は出来ない。だが、時間稼ぎなら多少出来そうである。この絶望しきれないギリギリの相手というのが、恰も運命のような何かが一縷の望みに賭けて足掻くだけ足掻いてみせよと青年に命じているかのようではないか。
ヴンダーは皮肉めいた運命を悲観しつつ、防御結界を幾重にも展開している。
(土の無い場所で土魔法は使えない。火魔法に耐性を絞った結界なら強度を上げられるな)
以前であればしなくて済んだ細やかな調整を入れて魔法式を完成させていく。メデューサは、今にも怒声を伴って暴れだしそうなほど顔を歪めてヴンダーを睨め付けている。そして、頭の無数の蛇がそれぞれに口を開けて火の玉を放った。ヴンダーの結界は上手いことそれらを相殺して割れた。
ヴンダーは、間髪入れず再び結界作りにいそしむ。杖が無いと燃費も悪くなる。より効率の良い結界を即興で生み出そうとするうち、恐怖も忘れて没頭していた。
そのまま、気付けばどのくらいの時間が経っただろう。ヴンダーは幸運なことに、まだ五体満足でいる。残念なことに、メデューサもまた無傷である。そして、そろそろヴンダーの魔力が尽きる。
「君、何をそんなに怒ってるの」
ヴンダーが苦笑混じりに尋ねても、魔物メデューサは答えない。当然である。これがメデューサの元々の顔なのだ。寧ろ、どちらかと言えば上機嫌ですらある。メデューサは面食いだからだ。ただ、眼の前にいる顔の良い人間をなかなか石に出来ずにいるのでもどかしくも思っている。
それも、あと少しの辛抱だ。あと少しで、あれを石に出来る。どの表情を石にしてやろうか。苦しみか、恐怖か、最期に一瞬の安堵を与えてやっても良い。そのあとの絶望の表情はどんなに愛らしいものだろう。メデューサはじわじわと青年を追い詰めながら想像し、憤怒の顔で嗤った。
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