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元魔王城(142〜)

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 最後尾を歩くソロウとレオハルトは、前を歩くミハルの煩いマントをたまにめくっては奇妙さに唸った。

「珍妙にも程があるだろう……」

「何度見ても狂逸きょういつな意匠としか……」

 そうしてソロウがマントを捲るたび、裏地の顔が高貴な口調でねちねちと文句を垂れてくる。

「あっ、またか! まったくマナーのなっていない種族だな、貴様らは。レディのマントを勝手に捲るというのは、ドアを開けるのにノックをしないより遥かに失礼な行為であるぞ。教育のなっていない坊やが仕出かすスカート捲りと同等か、貴様らが坊やでないことを考慮すればそれ以下の低俗な行いだ。さあ、今すぐ詫びたまえ」

 ソロウは「ああ、悪い」と悪びれもせず言ってマントから手を離した。「丁寧に扱ってくれ!」マントが怒りをあらわにするが、誰しもが聞き流している。

「ミハルは慣れたものですね。あのような杖を持ち、このようなものを背負って平然としているとは。貴方がたの順応能力の高さは尊敬に値します」

「いやあ、あんたらも大概じゃねえかレオハルト。閣下があんなだっていうのに、皆よく落ち着いてる。それに閣下の容態もだが、俺ぁ今ごろ外でどれだけの騒ぎになってるかって、考えるのも恐ろしくてたまんねえよ」

「もちろん考えないようにしていますよ」と、レオハルトは苦笑を浮かべた。「あなたも新聞を読んだでしょう? 王都周辺の迷宮で魔力暴走が起きたという話です」

「あ、ああ……まあ」

「我が兵士たちも承知ではありますが、誰もれません。我々は謂わば、現実逃避中なのです」

「現実逃避……──」ソロウは思い詰めた表情になった。

「だよな。俺も現実逃避中だ。どうしてもリュークの……」

 ソロウがミハルや兵士たちより前に居るリュークたちを見やるように視軸を遠くにすると、レオハルトもそれを追うように前を見た。

「リュークが一体何をしたのか、あまり考えないようにしてる。考えちまうと……いや、考えようとしただけで頭がおかしくなりそうでさ」

「私もです。といいますか、正直に言えば、知りたくて考え込むごとに何故か知ることを禁止されているかのような気分になります。おそらく、リュークの加護が関係しているのではないかと思いますが」

 それは、ちょうどソロウが思っていることと同じだった。また、ミハルも振り向いて「私も同じよ」と同意した。

「流石に杖やマントのことを聞かずにはいられないと思ったのだけど、いざ聞こうとすると、まるで口を塞がれたように言葉が出なくなってしまうの。
 明らかに何か不思議な力に制御されている気がするわ。
 だけど、もしかしたら今までになく緊張のし過ぎなのかも知れないとも思うのよね。だって私、どうしたってリュークが可愛くて仕方がないのだもの。あの子がどんな力を持っていたってそれは変わらないし、だったら無理して聞き出す必要もないって考えてしまって……」

「俺もそうだなあ」とソロウ。「もし聞くとしても今じゃなくて、お互い気が向いたときに自然と簡単に聞けそうな感じがする」

 レオハルトもミハルも同感だった。とても奇妙な感覚だが、それが最も精神面における平和的解決の方法であると思えたものだった。

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