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洞窟の迷路(134〜)

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 リュークは背中に小石の山を乗せた昆虫を小石ごと搔き込むように革袋へ仕舞うと、ソロウを見て「こっちが良いよ」と扉を指さした。
 扉の前で地面に張り付いていたヴンダーは、思わずリュークを振り向いて座り直す。

 少年が自分からこれほどに確然たる意思表示をしたのは初めてのことかも知れなかった。

(そりゃあ、リュークの良いようにしてやりたいが……)

 ソロウは困って他の大人たちと視線を交わすが、どのつらも──兵士らの兜でさえも──困り顔に見えてらちが明かない。

 そして肝心のリュークはといえば、何度理由を尋ねても「こっちの方が良いよ」「こっちだよ」「こっちが良いからだよ」という風な回答に至るばかりで、ソロウたちへは一向に判断材料が提供されない。

 困った、困った。

 大人たちが唸っていると、ふわりとした風をたてながらフルルの後ろを通って扉の前まで行ったリンが、突如として狼少女の姿を取った。

「あっ、リン!!」

「り……リン! 何やってるんだ!」

「おい、服! 服!」

 素っ裸の少女の出現により、あたりは一瞬で騒然となる。トレントの杖を取り落としながら駆け出したミハルが、素早くマジックバッグから灰色のローブを引っ張り出して少女に着せようと腕を伸ばした。


 しかし狼少女リンはそれよりも早く一歩を踏み出すと、悪魔の文字が刻まれた石の扉に大胆な前蹴りをお見舞いしたのだった。



 重厚な石の扉は勢いよく開いて、ヒビ割れ──さらにヒビ割れ──ついにくっきりと割れて──砕けて石床に崩れ落ちる。

 ドタン、ガランと大きな音が洞窟内に激しく響き渡り、執拗なほど余韻を残した。

 



 訪れた静寂。
 フルルはミハルの手からローブを抜き取ってリンに着せた。このローブはミハルがリンのためにどこかであらかじめ用意していたものだったので、大きさは丁度良いし、ちゃんと尻尾を出す穴もついていて、リンにぴったりだった。

「ちょっとぉ……リン……勝手に開けたらまずいだろ……」

 フルルが小声で叱ると、リンはきょとんとした顔でフルルを見つめ、小首を傾げた。まるでリュークがするのと同じ仕草である。フルルは酷く愛らしい彼女にぐっと押し黙るしかなく、諦めて後ろを振り返った。


 座っている者、僅かに立ち上がりかけている者、中腰の者、殆ど立っている者と、直立の者と、こちらへ腕を伸ばそうとしている者、そして大股で踏み込んだ形の者──まるでどこぞの何やらの進化論でも表現したかのような段階的な姿勢で硬直している兵士たち、貴族の側近と冒険者たち。フルルとリンの直ぐ側で白目を向いている元天才魔法使い。向こうでぽつねんと転がっている寝袋。


 少年が楽しそうに声をたてて笑った。

「リンは、ちょっと強くなった。リン、えらい」

 と、リンは自分で自分を褒めた。リュークも「リン、えらい」とリンを褒めて立ち上がった。
 するとリンは嬉しくてたまらなくなり、猛烈に尻尾を振り回しながら、リュークの手を引っ張って祭壇のある部屋の中へと入ってしまった。




 それから暫く呆気に取られていた大人たちが我に返ったときには、大鎌を担いだ魔物リッチと美しい毛並みの魔狼リンが既に戦闘をおっ始めていたのだった。

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