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洞窟の迷路(134〜)
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しおりを挟むもうリュークの掌に収まりきらないほどの大きさとなった昆虫の、角の立派なこと。レオハルトも目を瞠るほどだ。これの木彫りの置物を作ればさぞかし売れるに違いない。
「──ああ、それで」
つい昆虫に見入っていたレオハルトが話を再開した。
「ヴンダー、貴方はその部屋を突破したのですか?」
「はあ、まあ、そうですね。この部屋にはやっぱり悪魔の祭壇があって、悪魔の下僕らしきリッチが居たんですけど、なんとか討伐して先に進みましたよ」
「リュークが通ったときはどうでしたか?」
レオハルトに振られたリュークは昆虫の背中に生えている角の間に小石を置くのをやめて顔を上げた。
「石の箱があったよ」
祭壇のことである。レオハルトは続けて尋ねる。
「階層主は?」
「大きなリッチがいて、かっかがやっつけたよ」
リッチは単純な物理攻撃を無効化するのは勿論、多少の魔力を纏わせた程度の攻撃でも殆どダメージを受けない幽体の魔物のはずだが、あのグランツがどれほど器用に魔力を使って倒したというのだろうか。レオハルトも意外に思い、兵士らと顔を見合わせる。
(この筋肉──物理攻撃主体のグランツ様が? リンが手を貸したのでは……?)
リンからは魔力が溢れている。ただの爪の一撃であってもリッチにダメージを与えられるのかも知れない。
さておき、階層主を含む迷宮内の魔物の殆どは、倒されても一定時間が経過すれば再び現れるものだ。この現象は「再出現」と呼ばれることが多い。
再出現に要する時間は個体によって異なり、魔力が大きいほど長くなる傾向にある。とくに階層主ともなると、初心者向けの迷宮であっても丸一日はかかる。S級冒険者が挑む高難度の迷宮の階層主であれば、数週間を要する場合もある。最長で一年後に再出現した階層主の記録もある。
リッチの魔物等級はA級で、A級の冒険者パーティーでも上位の攻撃魔法に長けた魔法使いが最低二人は揃っていなければ討伐困難といわれている。それほどの強敵であるリッチが数日前に討伐されたとすれば再出現はもう少し先である可能性は高いが、この扉の向こうが元魔王城というやや特殊な迷宮であることを考えると、常識などはあてにならないだろう。
「僕らのパーティーは、六つ目の部屋を攻略したところで引き返しました。リッチを倒してから再びこの部屋を通ったのは、二日後だったと思います。当然ですけど、さすがに二日ではリポップしてませんでしたね」
ヴンダーは、振り向くことなく扉の周辺を念入りに調べまわりながら淡々と述べた。その最中から、にわかにざわめきが広がっていた。あれほど獅子奮迅の勢いで高難度の迷宮踏破を成し遂げてきたS級冒険者パーティーが、たった六部屋しか攻略できなかったという事実は、元魔王城が如何に恐ろしい迷宮であるかを知らしめるのに十分な情報である。
「元魔王城を踏破するのは不可能だと思うが……」
「規模はどのくらいなんだ? 六つ目の部屋が最奥というならまだしも……それは有り得んだろうな」
「無理だな。洞窟を進もう」
兵士たちの意見が飛び交う。ソロウたちも同感だったし、レオハルトも頷きかけた。
ところが、リュークの不思議そうな表情を見る限り、そのまま頷くことはできなかったのである。
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