94 / 194
氷竜駆逐作戦(78〜)
93
しおりを挟む
リュークは、手の中のスライムをじっくりと観察してみた。
透き通る体の中に、二つの眼球と大きな宝玉が入っている。眼球の様子は普段と違って、充血したように赤みを帯びている。動きは速く、宝玉の周りを回ったり互いにぶつかったりすることもある。
因みに、スライムの体は液体のように見えるが、接触しても体液が付着するようなことはない。斬りつけても水分が溢れ出すことはなく、ただし死ぬと液体となっていつの間にか消える。匂いは無く、──リューク曰く──味もしない。
あらゆるものを溶かす性質があるため捕獲が難しく、死体が残らないため研究も難しい。冒険者ギルドなどでは最低ランクであるF級とされていて討伐は容易だが、行動の殆どが無音で、しかもいつの間にか増えたり減ったりするので不気味さがある。色違いが沢山居るが、色による特性の違いなどは確認されていない。
最も人の身近に生息しながら、未だ謎の多い魔物とされているスライム。リュークは、そんなスライムを可愛がるように何度か撫でた後、何も無い空中にずいと突き出した。
「イオ」
リュークが一言呼んだきり、全ての音が止まった。
グランツとリンも、何がきっかけという訳でもなく自然と戦意を喪失した。
アイスドラゴンも、彫刻のように微動だにしない。ただ黒いドラゴンだけが静かに頭を下げると、リュークがポイと投げた宝玉入りのスライムを、まるでボールを投げられた犬のように追い、大口を開けて一飲みにしてしまったのだった。
暫くは時間が止まったように静かだった。黒竜イオでさえ、飛び立つ際には気を遣うようにゆっくりと静かに翼を広げ、こっそりと地を蹴った。
「……えっ?」
イオが十分な高度をとった頃、ミハルがごく小さく発した声で漸く時が動き始めた。
「なんだ……? 宝玉を、食ったのか?」
「えっ、えっ、良いんですか? あれ、良いんですか?」
「神よ、どうか我らの行く末に光を──」
「ミハル、念のため防御結界を張っていてください。私がリュークを迎えに行きます」
それぞれの呟きを遮って、レオハルトが駆け出した。ミハルは驚きつつも結界が解けないよう集中する。
「リューク! こちらへ!」
レオハルトの声に振り向いたリュークが、例のごとくふらふらと頼りない足取りでレオハルトの方へ歩き始めた。
すると、それに気付いたアイスドラゴンが我に返ったように低く喉を鳴らし、リュークに背を向けるかたちで勢いよく助走をつけて飛び立った。
巻き起こった暴風に、グランツやリンが吹き飛ばされる。リュークも一瞬ふわりと浮いたが、間一髪でレオハルトが真っ赤なフードを掴んで引き寄せた。
リュークが腕の中に収まったのを確認して、レオハルトは空を見上げた。黒い影はもうどこにも居ない。一方、イオを追ったらしいアイスドラゴンは、まだすぐそこに居る。飛べているのが奇跡と思えるほどの低速である。
「リューク、宝玉が食べられてしまいましたが、アイスドラゴンは大丈夫なのですか?」
「うん」
リュークがとても満足した様子だったので、レオハルトは妙な展開に動揺しているのを悟らせることなく冷静に振る舞うと、途中で疲れ果てて転がったままになっているグランツとリンをついでに回収し、ソロウたちのもとへ戻った。
透き通る体の中に、二つの眼球と大きな宝玉が入っている。眼球の様子は普段と違って、充血したように赤みを帯びている。動きは速く、宝玉の周りを回ったり互いにぶつかったりすることもある。
因みに、スライムの体は液体のように見えるが、接触しても体液が付着するようなことはない。斬りつけても水分が溢れ出すことはなく、ただし死ぬと液体となっていつの間にか消える。匂いは無く、──リューク曰く──味もしない。
あらゆるものを溶かす性質があるため捕獲が難しく、死体が残らないため研究も難しい。冒険者ギルドなどでは最低ランクであるF級とされていて討伐は容易だが、行動の殆どが無音で、しかもいつの間にか増えたり減ったりするので不気味さがある。色違いが沢山居るが、色による特性の違いなどは確認されていない。
最も人の身近に生息しながら、未だ謎の多い魔物とされているスライム。リュークは、そんなスライムを可愛がるように何度か撫でた後、何も無い空中にずいと突き出した。
「イオ」
リュークが一言呼んだきり、全ての音が止まった。
グランツとリンも、何がきっかけという訳でもなく自然と戦意を喪失した。
アイスドラゴンも、彫刻のように微動だにしない。ただ黒いドラゴンだけが静かに頭を下げると、リュークがポイと投げた宝玉入りのスライムを、まるでボールを投げられた犬のように追い、大口を開けて一飲みにしてしまったのだった。
暫くは時間が止まったように静かだった。黒竜イオでさえ、飛び立つ際には気を遣うようにゆっくりと静かに翼を広げ、こっそりと地を蹴った。
「……えっ?」
イオが十分な高度をとった頃、ミハルがごく小さく発した声で漸く時が動き始めた。
「なんだ……? 宝玉を、食ったのか?」
「えっ、えっ、良いんですか? あれ、良いんですか?」
「神よ、どうか我らの行く末に光を──」
「ミハル、念のため防御結界を張っていてください。私がリュークを迎えに行きます」
それぞれの呟きを遮って、レオハルトが駆け出した。ミハルは驚きつつも結界が解けないよう集中する。
「リューク! こちらへ!」
レオハルトの声に振り向いたリュークが、例のごとくふらふらと頼りない足取りでレオハルトの方へ歩き始めた。
すると、それに気付いたアイスドラゴンが我に返ったように低く喉を鳴らし、リュークに背を向けるかたちで勢いよく助走をつけて飛び立った。
巻き起こった暴風に、グランツやリンが吹き飛ばされる。リュークも一瞬ふわりと浮いたが、間一髪でレオハルトが真っ赤なフードを掴んで引き寄せた。
リュークが腕の中に収まったのを確認して、レオハルトは空を見上げた。黒い影はもうどこにも居ない。一方、イオを追ったらしいアイスドラゴンは、まだすぐそこに居る。飛べているのが奇跡と思えるほどの低速である。
「リューク、宝玉が食べられてしまいましたが、アイスドラゴンは大丈夫なのですか?」
「うん」
リュークがとても満足した様子だったので、レオハルトは妙な展開に動揺しているのを悟らせることなく冷静に振る舞うと、途中で疲れ果てて転がったままになっているグランツとリンをついでに回収し、ソロウたちのもとへ戻った。
1
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
魔神として転生した~身にかかる火の粉は容赦なく叩き潰す~
あめり
ファンタジー
ある日、相沢智司(アイザワサトシ)は自らに秘められていた力を開放し、魔神として異世界へ転生を果たすことになった。強大な力で大抵の願望は成就させることが可能だ。
彼が望んだものは……順風満帆な学園生活を送りたいというもの。15歳であり、これから高校に入る予定であった彼にとっては至極自然な願望だった。平凡過ぎるが。
だが、彼の考えとは裏腹に異世界の各組織は魔神討伐としての牙を剥き出しにしていた。身にかかる火の粉は、自分自身で払わなければならない。智司の望む、楽しい学園生活を脅かす存在はどんな者であろうと容赦はしない!
強大過ぎる力の使い方をある意味で間違えている転生魔神、相沢智司。その能力に魅了された女性陣や仲間たちとの交流を大切にし、また、住処を襲う輩は排除しつつ、人間世界へ繰り出します!
※番外編の「地球帰還の魔神~地球へと帰った智司くんはそこでも自由に楽しみます~」というのも書いています。よろしければそちらもお楽しみください。本編60話くらいまでのネタバレがあるかも。
喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です
黄舞
ファンタジー
祝書籍化ヾ(●´∇`●)ノ
3月25日発売日です!!
「嫌なら辞めろ。ただし、お前みたいな無能を使ってくれるところなんて他にない」
何回聞いたか分からないその言葉を聞いた俺の心は、ある日ポッキリ折れてしまった。
「分かりました。辞めます」
そう言って文字通り育ててもらった最大手ギルドを辞めた俺に、突然前世の記憶が襲う。
前世の俺は異世界で化学者《ケミスト》と呼ばれていた。
「なるほど。俺の独自の錬成方法は、無意識に前世の記憶を使っていたのか」
通常とは異なる手法で、普通の錬金術師《アルケミスト》では到底及ばぬ技能を身に付けていた俺。
さらに鮮明となった知識を駆使して様々な規格外の良品を作り上げていく。
ついでに『ホワイト』なギルドの経営者となり、これまで虐げられた鬱憤を晴らすことを決めた。
これはある化学者が錬金術師に転生して、前世の知識を使い絶品を作り出し、その高待遇から様々な優秀なメンバーが集うギルドを成り上がらせるお話。
お気に入り5000です!!
ありがとうございますヾ(●´∇`●)ノ
よろしければお気に入り登録お願いします!!
他のサイトでも掲載しています
※2月末にアルファポリスオンリーになります
2章まで完結済みです
3章からは不定期更新になります。
引き続きよろしくお願いします。
邪神降臨~言い伝えの最凶の邪神が現れたので世界は終わり。え、その邪神俺なの…?~
きょろ
ファンタジー
村が魔物に襲われ、戦闘力“1”の主人公は最下級のゴブリンに殴られ死亡した。
しかし、地獄で最強の「氣」をマスターした彼は、地獄より現世へと復活。
地獄での十万年の修行は現世での僅か十秒程度。
晴れて伝説の“最凶の邪神”として復活した主人公は、唯一無二の「氣」の力で世界を収める――。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~
月見酒
ファンタジー
俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。
そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。
しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。
「ここはどこだよ!」
夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。
あげくにステータスを見ると魔力は皆無。
仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。
「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」
それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?
それから五年後。
どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。
魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!
見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる!
「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」
================================
月見酒です。
正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる