西からきた少年について

ねころびた

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氷竜駆逐作戦(78〜)

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 リュークは真っ直ぐにミハルを見つめたまま、まだ答えようとしない。黒い瞳でじっとミハルを見つめて、何を考えているのか分からない無表情。

「りゅ……リューク?」

 耐えかねたミハルが呼びかけた。リュークは微かに身動みじろぎし、言葉を探しているのか戸惑うように目を泳がせた。
 ──少年のこの挙動は一体何なのだろう?
 ミハルたちはにわかに不安を覚える。少年がこのように口ごもる理由が分からない。まさか、宝玉に触れたことがあるというのは嘘だったのか? まさか、リュークがそんな嘘をつくはずは無い。あるとすれば、どこかで齟齬が生じていたのだ。大人たちが勝手にあれこれと解釈して、リュークの真意と食い違ってしまっていたことが度々あった。今回もそれが無いとは言い切れない。

「宝玉……手で……道具……」

 リュークはまだ何か考えている。ついにギムナックはリュークを木箱に降ろして座らせた。そして、自分も一段下の木箱の上に腰掛けて視線を合わせた。

「リューク、深く考えなくて良いんだぞ。ただ、アイスドラゴンの宝玉をどうやって運んだか教えて欲しいんだ」

「運んだよ。どうやって……こうやって」

 リュークは小さな手でギムナックの頭を持って動かそうとした。スキンヘッドを宝玉に見立てているらしい。
 ソロウとミハルが我慢できずに噴き出した。
 ギムナックはこの寒さの中でも分かるほど顔を赤らめて、「よく分かった」と言って手を外させた。

「手で持って運んだのか。だが、ヴンダーは宝玉に触れないらしいんだ」

「僕、触れるよ」

「そ……それは駄目だ!」

 ギムナックは慌てた。ソロウとミハルもぎょっとして、あわや氷の壁から落ちそうになった。

「駄目だぞ、子どもに行かせるなんて、そんなことは絶対にさせられない!」

「スライムに食べさせたら持てる?」

「お前をこれ以上危険な目には……ん? スライム?」

 ギムナックは、ピタリと固まって言った。

「スライムがなんだって?」

「スライムに食べさせたら良いでしょ?」

「スライムに宝玉を食べさせるのか? そんなことが出来るのか? ……待て、いや、食べたら駄目だろう。宝玉がなくなったらドラゴンを誘導出来なくなるじゃないか」

「スライムは宝玉食べないよ」

「食べない? じゃあ、何を食べさせるんだ?」

「宝玉だよ。スライムに食べさせたら?」

「うぅむ。食べないのに、食べさせる……とは……」

 ギムナックの頭の中が疑問符で埋め尽くされる。質問の仕方を変えようにも、それすら思い付かない。ソロウやミハルに助けを求めるべきだが、オローマから麓の野営地までの間にリュークとの問答を爽快に成立せしめた成功体験が、ギムナックをいつもより余計に意固地にさせていた。

「スライムをどうすれば良いんだ?」

「食べさせたら良いよ」

「宝玉をスライムに食べさせるんだよな。それで、その後はどうする?」

「バッグに仕舞うよ」

「ほほう」

 ギムナックは分かった風な相槌を打ってはみたものの、考えるほどに混乱するばかりである。
 ふと、ソロウが「もしかしたらよ」と言った。

「スライムは宝玉を消化しないってことじゃないのか? そんで、宝玉もスライム越しなら持ち運びできるんだろ。だから、スライムに宝玉を食わせてそのままバッグに入れちまえば良いって話なら……」

「なるほど!」

 ギムナックはポンと手を打って破顔した。
 リュークの反応を見ても、ソロウの見解に相違ないらしい。

 流石はソロウだ、とギムナックとミハルは感心する。結局のところ、リュークの言いたいことを一番理解してやれるのはソロウなのだろうとつくづく思う。
 羨ましくもあるが、当然だろうと納得する。そういう人だから、自分も付いていこうと決めたのだから。

 だがしかし、空間を歪ませるまでの強い魔力を持つ宝玉に、スライムが接触して無事でいられるものだろうかという疑問は晴れない。それでもリュークが言うのだから、試してみるべきだろうと大人たちは合意する。


 壁の向こう側に居るヴンダーが、寒さと怖さに震えて結論を待っている。ソロウはヴンダーを呼ぶと、ヴンダーが親の形見のごとく大事そうに握り締めている革袋からスライムを取り出すよう要求した。

 ヴンダーは、耳を疑った。
 
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