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氷竜駆逐作戦

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 翌朝は、アイスドラゴン襲来以降初めてとなる朝焼けが見られた。といっても、曇天にほんのり色が映る程度である。だが、神の祝福だと涙を浮かべて暁光に見入る兵士らが多く居た。



 ──さて、いざ作戦開始である。


 アイスドラゴンの巣があるとされる山は標高二千メートルほどで、途中には貴族たちの別荘地がある。貴族たちがここを使用する際には前もってテヌート伯爵宛に連絡が入ることになっていて、幸い今は無人のはずだという。


 登山部隊は、グランツ、レオハルト、ソロウ、ギムナック、ミハル、リュークとリン、そして主役のヴンダー。
 三名のアルベルム兵は、野営地防衛のために残される。

 まず、ヴンダーは山の中腹までリンに乗って行く。魔力の強いレオハルトとリン、それと無駄に存在感のあるグランツが同行するのはここまでである。二人と一匹は天幕を設置し、待機する。常人なら死ぬような悪天候でも、この面子では山ごとひっくり返りでもしない限り怪我の一つも負いはすまい。

 中腹より上へは、アイスドラゴンの魔力感知に引っかかることのないようミハルが魔除けの結界を張り、ソロウが身体能力強化のスキルを使ってヴンダーを背負って進む。ギムナックは吹雪の具合を見ながら進退を指示する。
 
 ──実際には、鈍感なアイスドラゴンは余程近付かなければ多少の気配には気付きようもないだろうが、言葉足らずのリュークがもたらした僅かな情報だよりの大人たちの知るところではない。


 リューク少年が過酷な雪山登りなど出来るものかと皆が心配したが、少年はアルベルムの街からずっと西からここへ来るまで、一度たりとも疲れた様子を見せていないのだ。運動神経は……拙い動作からしてあまり良くなさそうに見えるが、少なくとも体力に関しては、経験豊富な三人の冒険者より余程ある。ソロウは皆にそう説明した。

 何故リュークを連れて行く必要があるのかと言えば、ヴンダーが宝玉を手に入れた後の処理のためである。





 ──「ヴンダーが宝玉を手に入れた後はどうするんだ? アイスドラゴンは、宝玉を追ってくるんじゃないか?」

 テヌート城でのこと。誰もが抱いた疑問を口にしたのはギムナックだった。

 ヴンダーに会ったあと、大会議室に大勢が集まってアイスドラゴン駆逐のため作戦会議が開かれた。大会議室は、小会議室とはまるで異なる荘厳な造りの一室で、テーブルは部屋の中心を取り囲むように円状にずらりと並べられて、それが三列ある。この日の参加者は厳選したが、全部で五十人はくだらなかった。殆どの、特に兵士たちは発言を許されていないため、大勢でもそれなりの静けさはある。
 テヌート伯爵とグランツ一行は最前列に並んで座っている。

 作戦会議はしばらく順調に進んでいたが、ヴンダーを山へ登らせた後のことに及ぶと急に滞った。
 ヴンダーに宝玉を取らせるところまでは良い。ヴンダーでなくとも、いつかは誰かが宝玉を使ってアイスドラゴンを他所へやることになるだろう。
 途中で誰かが討伐を提案したが、あれを討伐するのは現実的とは言えず、だとすれば何度でも宝玉を奪って少しずつでも遠くへ移動させ続ける方が遥かに犠牲が少なくて済むという意見でまとまっていた。
 であるからして、宝玉を奪ったあとでどうにかしてアイスドラゴンに気付かれるまでの時間を稼ぐ必要がある。

 宝玉の大きさは、人の頭ほどだという。何か魔力を通さない材質のもので包むしかない。

 過去、ダンジョンで発見されたアイテムの中に〈魔封じの首飾り〉というものがある。これを着けると、一切の魔力が消え失せて魔法が使えなくなる。もしあれば宝玉の魔力を隠すのに役立っただろうが、今は勇者が持っているとのことだった。これを使って魔王を取っ捕まえ討伐する予定なのだと。つまり、こんなところにあるはずがない。

 他に何か良い手はないか、頭を抱えて唸る声が方方から鳴り始めると、何か言いたげな様子のリュークが左隣に座っているミハルの袖を引っ張った。

 


 
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