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テヌート伯爵領(60〜)
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しおりを挟むテオフとグランツは暫くじれったい応酬を続けていたが、最終的にはテオフが折れたようだった。
「分かった、分かった、グランツ・フォン・ポールマン・アルベルム辺境伯。我らはもう行く。ついてくるなよ」
「おや、北の長の息子テオフよ。せっかく出会えたというのに、もう行ってしまうのか。今度は是非ともアルベルムへ遊びに来たまえ」
「やかましい。我らは世界樹を護らねばならん。ひいては、ヴレド伯爵領と対立する事態にもなろう。巻き込まれたくなくば、帰路は別の領地を通ることだな」
「ヴレド伯爵にその元気があれば良いが……」
「は?」
テオフは怪訝な顔付きのまま、これ以上付き合っていられるかと言わんばかりの溜息を吐いて背を向け、白金色の髪をなびかせながら颯爽と遠ざかって馬上の人となった。
テオフが馬を駆けさせると、待っていた数十名ものエルフが一斉にグランツたちへむけて悪口を吐いたので、あたりはテルミリアでの見送りの歓声と同じくらい煩くなった。
「エルフって、あんなに騒がしいのね」
エルフという嵐が過ぎ去った後、ミハルが瞠目して言った。
エルフの里を出て冒険者になるようなエルフはよく「異端」だとか「変わり者」だとか言われるが、こうして見ると里暮らしのエルフたちの方が余程変わった性質であるように思われる。
ソロウたちも以前にはエルフの冒険者とパーティーを組んだことがあるが、多少浮世離れしている節はあれど、里暮らしのエルフのように刺々しい性格ではなかった。
テルミリアで墓地に閉じ込められていた三歳のエルフなど、愛嬌たっぷりでとても可愛らしかったものだ。
それがどうやったらあのように辛辣な罵詈雑言を振りまくようになるのだろう。エルフの里とは、一体どのような場所であろうか。
(それにしても……)
と、グランツのあまり目にしない立ち回りを呆然たる思いで見たソロウは、アルベルム辺境伯への評価を一新した。
(口下手で、不器用で、脳筋の貴族だと思っていたが、いざというときにこれほど頼りになるとは)
レオハルトが口を挟まずにおいたのは、エルフに対してグランツの実直な物言いが有効であると知っていたためだろう。兵士らにもそこまでの不安はなかった。矢の音が鳴っても一歩たりと動かなかったのは、心から主を信頼している証だ。
グランツには、腕っぷしだけではない能力が確かにある。これならば、王と接見してもリュークのことを守ってくれるに違いない。ソロウは自分に言い聞かせるかのようにそう考えるのだった。
そして翌朝。あまりの寒さに飛び起きた大人たちは慌てていくつも焚き火を起こした。城下へ着くまでに少しでも霊峰を目にできるかと期待していた彼らの思いも虚しく、山脈を覆い隠すように重たげに降りてきている灰色の濃い空から雪がちらついている。
火よ薪よ早く燃えろ、と願っていると、上半身裸のグランツが両腕を目一杯伸ばしながら天幕から出てきて、「おお、雪か」と何でもないことのように言い、そのまま朝の体操を始めた。隣の天幕に居たリュークと魔狼リンも出てきて、グランツの横に並んで真似をしている。
昨日かなり急いで馬を進めたため、今日も急ぎに急げば夕方頃には城下町付近の村へ到着出来る予定である。しかし、それも雪が積もらなければの話で、もし積もってしまえば村へ到着するどころか遭難の恐れすらある。
何せ、この領地は西側の街道沿いに町村が少ない上、雪でも街道を見失わなくするような対策などは全くなされていないのだ。
「リューク、馬車を収納できますか? リンはリュークを乗せて、あとは全員馬で駆けましょう」
リュークが頷き、一行は早速出発を決める。この頃になると、もう誰もリュークのマジックバッグの容量に驚かなくなっていた。
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