16 / 144
アルベルム〜(10〜)
15
しおりを挟む
フォスターは長旅で疲弊している三人の冒険者とリュークに食事の後で風呂を勧め、更に暫くの間リュークたちが五階にあるギルド職員寮を使え るよう取り計らった。
冒険者たちにはそれぞれ家があるが、ミハルがリュークを一人にできないと言い出し、そうなるとソロウとギムナックも当然帰らず、結局全員で寮に泊まることになったのだ。
寮の殆どは、飾り気のない木の二段ベッド、机と椅子が二組、それから二人分のチェストがあるのみの簡素な二人部屋だ。
部屋の奥にある両開きの窓からはアルベルムの街並みがよく見える。
大通りは街の外から冒険者ギルドを中心に延びているので、部屋によっては中央通りも商業通りも工業通りも見渡せる。
ギルドの全ての部屋と廊下の天井にはベルがぶら下がっていて、緊急時に鳴る仕組みだ。これがけたたましく鳴ったら冒険者は一階のロビーに集合して緊急依頼を受注する。強制ではないが、かなり報酬が良いので、ベルが鳴る度お祭り騒ぎが恒例となっている。
ソロウとギムナックに半ば洗濯物のように全身を洗われたリュークは見違えるように綺麗になった。
ブカブカのシャツを着せられた風呂上がりのリュークを見たミハルは「まあ! なんて可愛らしいの!」と声をあげて丁寧にタオルで髪を拭いてやり、ソロウとギムナックはそこで二人と別れ、フォスターの元へと向かった。
それからミハルとリュークが部屋に辿り着くまで、リュークはすれ違う職員に大人気だった。何人かに菓子をもらい、頭や頬や腹や背中を撫でられ、さながら愛くるしい子犬のような扱いを受けた。
漸く部屋のベッドに腰掛けたリュークの髪を、ご機嫌なミハルはお気に入りの人形を扱うかのように念入りに整えると、貰った菓子を一緒に食べながら何とかリュークの保護者探しの手掛かりを得ようと幾つもの質問を重ねたが、これといった手掛かりはついぞ得られず、それどころか不思議ばかりの回答にミハルの頭がどうにかなりそうだったので、この日は早めに就寝した。
一方、五階の特別応接室ではフォスターとソロウとギムナックの男三人が頭を抱えていた。
特に剣呑な表情のフォスターは、「あんな称号は見たことがない」と嘆くように言って大きな溜め息を吐いた。
ステータスに刻まれる〈称号〉は、本人の功績が誰が見ても分かるような言葉で表されるのが常だった。
例えば、かつて魔王を倒した英雄クラルド・ローグは人里を荒らしてまわるドラゴンを殺したときに〈竜殺し〉、魔王を討ち取ったときに〈勇者〉の称号を授かった。
あるいは、世界中を巡ってさまざまなものに価値をつけ、人々に商売の知恵を分け与えて回った商人モウケ・マネは〈大商人〉〈有識者〉の称号で多くの信用を得た。
戦争で傷付いた者を無償で癒し続けたマリー・フロロは〈慈愛の癒し手〉。今ある半数以上の魔法を発明したサイエン・ハーバーは〈賢者〉〈大魔導師〉というふうに。
それに引き換えリュークの称号ときたら、まるで誰かがふざけてつけたような、とても功績と呼べるところから生まれていないのは明らかなものばかり。寧ろ各々の神が急ごしらえの称号でもって何かを伝えようとした結果だとすれば腑に落ちるだろうか。
「しかも、加護は俺の知る限り全てを授かっている。属性とスキルは靄がかかったように見えなかった。名前もだ。まあ、名前は字数と字形的に『リューク』で間違いないだろう。しかし、そうか……ファミリーネームはないのか。あと、年齢以外の詳細な数字は一切読み取れない。まったく、信じられん! あの子は一体何者なんだ」
「フォスター、あんたでも見れないってのはどういうことなんだ? あいつが特別なスキルでも使ってるのか?」と、ソロウ。
フォスターは、「いや、恐らくは情報量が多過ぎて読み取れないか、もしくは神の意思か……」と言い淀んだ。
ソロウは、どうしたものかな、と疲れ切った目で天井を眺める。
「神官も気絶したり泣き崩れたりで話を聞けなかったんだ。また明日会いに行くつもりだったが、あんたにも分からないなら期待はできねえなあ。身元にしたって、リュークのばあさんの名前が『ユフラ』だってことくらいしか分かってねえしよ。しかし、称号か……。なあ、ギムナックはどう思う?」
「やはり神が何かを伝えようとしているのだと思う。しかし、どこへ導けば良いのかが分からないのではどうしようもない。リュークの装備や持ち物の中に手掛かりはないだろうか」
「なるほど……そういや、あいつマジックバッグを持ってるんだった。ギムナック、お前冴えてるな!」
冴えている、といわれたギムナックの提案だったが、翌朝リュークの鞄をひっくり返した大人たちは一人残らず後悔することになるのだった。
冒険者たちにはそれぞれ家があるが、ミハルがリュークを一人にできないと言い出し、そうなるとソロウとギムナックも当然帰らず、結局全員で寮に泊まることになったのだ。
寮の殆どは、飾り気のない木の二段ベッド、机と椅子が二組、それから二人分のチェストがあるのみの簡素な二人部屋だ。
部屋の奥にある両開きの窓からはアルベルムの街並みがよく見える。
大通りは街の外から冒険者ギルドを中心に延びているので、部屋によっては中央通りも商業通りも工業通りも見渡せる。
ギルドの全ての部屋と廊下の天井にはベルがぶら下がっていて、緊急時に鳴る仕組みだ。これがけたたましく鳴ったら冒険者は一階のロビーに集合して緊急依頼を受注する。強制ではないが、かなり報酬が良いので、ベルが鳴る度お祭り騒ぎが恒例となっている。
ソロウとギムナックに半ば洗濯物のように全身を洗われたリュークは見違えるように綺麗になった。
ブカブカのシャツを着せられた風呂上がりのリュークを見たミハルは「まあ! なんて可愛らしいの!」と声をあげて丁寧にタオルで髪を拭いてやり、ソロウとギムナックはそこで二人と別れ、フォスターの元へと向かった。
それからミハルとリュークが部屋に辿り着くまで、リュークはすれ違う職員に大人気だった。何人かに菓子をもらい、頭や頬や腹や背中を撫でられ、さながら愛くるしい子犬のような扱いを受けた。
漸く部屋のベッドに腰掛けたリュークの髪を、ご機嫌なミハルはお気に入りの人形を扱うかのように念入りに整えると、貰った菓子を一緒に食べながら何とかリュークの保護者探しの手掛かりを得ようと幾つもの質問を重ねたが、これといった手掛かりはついぞ得られず、それどころか不思議ばかりの回答にミハルの頭がどうにかなりそうだったので、この日は早めに就寝した。
一方、五階の特別応接室ではフォスターとソロウとギムナックの男三人が頭を抱えていた。
特に剣呑な表情のフォスターは、「あんな称号は見たことがない」と嘆くように言って大きな溜め息を吐いた。
ステータスに刻まれる〈称号〉は、本人の功績が誰が見ても分かるような言葉で表されるのが常だった。
例えば、かつて魔王を倒した英雄クラルド・ローグは人里を荒らしてまわるドラゴンを殺したときに〈竜殺し〉、魔王を討ち取ったときに〈勇者〉の称号を授かった。
あるいは、世界中を巡ってさまざまなものに価値をつけ、人々に商売の知恵を分け与えて回った商人モウケ・マネは〈大商人〉〈有識者〉の称号で多くの信用を得た。
戦争で傷付いた者を無償で癒し続けたマリー・フロロは〈慈愛の癒し手〉。今ある半数以上の魔法を発明したサイエン・ハーバーは〈賢者〉〈大魔導師〉というふうに。
それに引き換えリュークの称号ときたら、まるで誰かがふざけてつけたような、とても功績と呼べるところから生まれていないのは明らかなものばかり。寧ろ各々の神が急ごしらえの称号でもって何かを伝えようとした結果だとすれば腑に落ちるだろうか。
「しかも、加護は俺の知る限り全てを授かっている。属性とスキルは靄がかかったように見えなかった。名前もだ。まあ、名前は字数と字形的に『リューク』で間違いないだろう。しかし、そうか……ファミリーネームはないのか。あと、年齢以外の詳細な数字は一切読み取れない。まったく、信じられん! あの子は一体何者なんだ」
「フォスター、あんたでも見れないってのはどういうことなんだ? あいつが特別なスキルでも使ってるのか?」と、ソロウ。
フォスターは、「いや、恐らくは情報量が多過ぎて読み取れないか、もしくは神の意思か……」と言い淀んだ。
ソロウは、どうしたものかな、と疲れ切った目で天井を眺める。
「神官も気絶したり泣き崩れたりで話を聞けなかったんだ。また明日会いに行くつもりだったが、あんたにも分からないなら期待はできねえなあ。身元にしたって、リュークのばあさんの名前が『ユフラ』だってことくらいしか分かってねえしよ。しかし、称号か……。なあ、ギムナックはどう思う?」
「やはり神が何かを伝えようとしているのだと思う。しかし、どこへ導けば良いのかが分からないのではどうしようもない。リュークの装備や持ち物の中に手掛かりはないだろうか」
「なるほど……そういや、あいつマジックバッグを持ってるんだった。ギムナック、お前冴えてるな!」
冴えている、といわれたギムナックの提案だったが、翌朝リュークの鞄をひっくり返した大人たちは一人残らず後悔することになるのだった。
11
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
【リクエスト作品】邪神のしもべ 異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!
石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。
その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。
一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。
幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。
そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。
白い空間に声が流れる。
『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』
話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。
幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。
金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。
そう言い切れるほど美しい存在…
彼女こそが邪神エグソーダス。
災いと不幸をもたらす女神だった。
今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。
異世界のんびり冒険日記
リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。
精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。
とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて…
================================
初投稿です!
最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。
皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m
感想もお待ちしております!
召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~
きょろ
ファンタジー
この世界では冒険者として適性を受けた瞬間に、自身の魔力の強さによってランクが定められる。
それ以降は鍛錬や経験値によって少しは魔力値が伸びるものの、全ては最初の適性で冒険者としての運命が大きく左右される――。
主人公ルカ・リルガーデンは冒険者の中で最も低いFランクであり、召喚士の適性を受けたものの下級モンスターのスライム1体召喚出来ない無能冒険者であった。
幼馴染のグレイにパーティに入れてもらっていたルカであったが、念願のSランクパーティに上がった途端「役立たずのお前はもう要らない」と遂にパーティから追放されてしまった。
ランクはF。おまけに召喚士なのにモンスターを何も召喚出来ないと信じていた仲間達から馬鹿にされ虐げられたルカであったが、彼が伝説のモンスター……“竜神王ジークリート”を召喚していた事を誰も知らなかったのだ――。
「そっちがその気ならもういい。お前らがSランクまで上がれたのは、俺が徹底して後方からサポートしてあげていたからだけどな――」
こうして、追放されたルカはその身に宿るジークリートの力で自由に生き抜く事を決めた――。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる