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第三章
夢見る症状は大志を抱く その⑤
しおりを挟むその場の雰囲気に感化されたのか、自分も代理人業をめざしていることを「カミングアウト」しようかと蘭は一瞬、心が揺らいだが、すんでのところで思いとどまった。
なぜかは蘭自身にもわからないが、今はまだ黙っていたほうがいいように思われたのだ。
そのかわりに蘭は行動に出た。
翌日、代理人としての初仕事とばかりに、ゼネラルマネージャーの磯部にさっそく連絡を入れたのだ。
蘭からもたらされた契約受諾の一報に磯部は喜び、そんな磯部に蘭もご満悦であったが、正式な契約はまだ先になるという磯部の言葉にたちまち不機嫌の態に一変した。
なんでよ、どういうことよ、と電話口で激しく詰めよる蘭に磯部はあれやこれやと釈明に終始したが、ようするに親会社たるアイキスポーツの都合だという。
期末決算がどうの、株主総会対策がどうのと「大人の事情」を持ち出されては、さすがの蘭も引き下がらざるをえない。
一日でも早く「プロサッカー選手・久住涼」の誕生を切望してやまない蘭であったが、しぶしぶ受け入れたのであった。
そんな蘭を気づかったわけではないだろうが、その翌日、伊原から涼に一本の連絡が入った。
サテライトチームの練習に、涼を特別に参加させてくれるという。
参加できるようにとりはからってくれたのはヘッドコーチの澤村とのことで、その話を涼から聞いたとき蘭は、
「ひょっとして、優子が頼んでくれたのかしら?」
と思った。
それというのも、契約が先に延びたことを、電話で優子相手にさんざん愚痴ったからだ。
ともかく澤村と伊原のはからいに蘭は感謝したが、感謝だけで終わらないのが蘭なのである。
焼きあがったばかりの自分のトーストをちぎりながら、口を尖らせてぼやいたものである。
「それにしてもさ、優子のお父さんも伊原のおじさんも、どうせならトップチームの練習に参加させてくれればいいのに、どうして二軍チームの練習なのかしらね。二軍じゃ涼のレベルと釣り合わないでしょうに」
気が利かないわよねぇ、とでも言いたげな視線を向けてくる蘭に、サテライトでも十分じゃないかと涼などは思うのだが、あえて口には出さなかった。
なにしろその種の「殊勝」ないし「謙遜」的な台詞を口にしたら最後、その種の日本語をまったく知らない蘭に「どうしてそう消極的なのよ」だの「もっと自信を持ちなさいよ、まったく」だのと、小言や嫌味を浴びせられるに決まっているからだ。
蘭もそれ以上は言及することなく、テーブルの上に置いてあったリモコンを手に取り、テレビをつけた。
そのテレビではちょうど朝のニュース番組が流れていて、しかもタイミングのいいことに、お目当てのスポーツコーナーが始まったところだった。
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