怪奇ファイル

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怪人カメムシ男

逢魔が時タクシー

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テレビカメラを背負うスタッフを引き連れクリーム色のスーツを着た女がマイク片手にタクシーのドアをノックしている。「ご休憩のところをすみません。マヂテレビ今そこワイドショーですけど」「何ですか?」「リアルに幽霊を見た」というコーナーを番組でやっていまして、幽霊を1番見やすい方はどういうご職業なのかと突き詰めましたところタクシーの運転手をなさっている方じゃないかという結論が出ましてこうして取材に伺いました次第です。都市伝説等で結構言われていますが実際のところどうでしょうか。色々怖い体験をなさったかとは思うんですけれど。「そうですね。職業的に電車やバスがライバルといいますか商売柄終電に乗り遅れた人が利用されることが多くてですね。どうしても深夜の営業になります。そんな中、一日仕事に励んでいらして精魂尽き果てたような方がリアシートにグッタリ座ってらっしゃることをたまに見かけます。言葉は悪いですが一見ご存命かどうか分かり難いお客さんもいらして、それが酔っていてそうなのかお具合が悪くてそうなのかが分かりかねると言いますか何というかちょっと不謹慎ですが心霊現象みたいなものを想像してしまうことがあって正直怖くなることがあるんです。時間も時間ですから。幽霊関係ないですね。怖い思いというとこのくらいしか体験したことないですかね。タクシー流していますと、急な降雪や様々な理由で極端にタクシーの需要が高まることをあるんです。もうそうなった時は争奪戦になるんですけどお客さんも車が捕まらなくて必死で。
そんなある夜のことです。夜のお商売の方が恐らく降雪の影響で早く店仕舞いをなさったんじゃないですかね。凍えるような寒さから早く暖を取りたいという感じで小走りでご乗車されようとしました。そのとき甲高いエンジン音の接近に気が付きましてあっという間の出来事でした。ただの事故という感じじゃないんですね。その原付きはお客さんのハンドバッグのひったくり目当てでショルダーストラップを掴んだ。お客さんはバランスを崩して転倒、頭を強打して私の車には乗らず救急車に乗る羽目になってしまい病院へ運ばれました。一応目撃者ということで私は警察に事情を聞かれまして。こういう仕事をしてますと胃腸薬は手放せませんもので事情聴取の間は営業がふいになるのはもう分かっていることなので胃に来るだろうことは決定的です。なので事前に対策として胃腸薬を飲もうとしたんです。500ミリリットル入のペットボトルの水を買いまして。因みに私の握力はごく普通でそう強くはありません。キャップも捻ってないペットボトルの飲み口からだくだくと水が流れてくるんです。号泣して零れ落ちる落涙のように、これではすぐに中身がなくなる。慌てて口で受けようとしましたがあっという間に空っぽになりました。それから数日後のことです。昼間の勤務です。よく晴れていました。汗ばんで少し不快に思いました。日が陰ってきて安堵した覚えがあります。
スイッチも入れてないのにワイパー液が勝手に吹き出してきてフロントウインドウを流れるんです泣いているときの視界のように周囲の風景がぼけ始めるんですね。丁度その時付けっ放しにしていたラジオからスクーターに乗った無免許運転の若者によるひったくり事件のニュースが流れて来たんです。それによると運転に余裕がなかったという男が前方不注意でスクーターが前を走っていた車に正面衝突して死亡する事故があったっていうんです。その時大きな衝撃があって何かこう、騒然とした空気と言いますかよくわからなくってバックミラーで確認してからドアを開けて下車してみたんです。白バイがひったくり犯を追跡して来てその場にいたんです。「右折車線を信号無視して前進して来たスクーターが私の車にぶつかりまして」白バイ隊員いわく私に落ち度は全くないというんですがフロントウインドウが濡れていて見えず避けることが叶いませんでした。どの道この角度でぶつかってくれば衝突は避けられなかったでしょうという結論に至りました。交通機動隊が目撃者ですので間違いないようです。野次馬で結構な人だかりができていたんですが白バイ隊員の説明に皆一様に頷いていました。アスファルトにうつ伏せになりながらハンドバッグのストラップを握り締める少年の姿の無様さに情けない思いをしました。
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