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スライム、決意

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「ここかジェイの家だぜ。おい、ジェイ。ギルドマスターからの紹介で客が来たから相手してくれ」

ドンドンとシルバーが家の扉を叩く。街の中にあるちょっとボロめの一軒家だ。

やがてドアの向こうから何やら物音がしたと思ったらガチャリとドアが開く。そこに立っていたのは見たことのある顔のおっちゃんだった。

「うっせえぞ。俺は失業しちまったからこれからやる店のこと考えて忙しいっていうのに……、うん?」
「あ、おっちゃん」

そこにいたのはスライム焼きの屋台をしていたおっちゃんだった。この人がジェイさんだったのか。

「なんだよ、知り合いだったのかよ」
「俺のスライムを買った最後の客だな。坊主、何か用か?」
「実はレッドスライムをテイムしたんですけどうまくスライム焼きが作れないんですよね。どうしたら良いか相談したくて」

ジェイさんの視線が俺の足元のファイに落ちる。命令したからファイはちゃんと俺について来ている。きっちりテイムのスキルが効果出ているようでよかったよ。

「スライム焼きはただ焼くならそんなに難しいもんじゃないが、まあ入んな。見てやるよ」

中に入るように促されたので遠慮なくお邪魔する。ちなみにシルバーは『役目が終わったなら帰るぜ』といっていなくなった。まあ確かにここにいてもやることないもんね。案内ありがとうございました。

家に入ると『ほれ、見せてみろ』といってジェイさんが手を出してきたのでファイにちびスラを出すように少し強い意志を込めてお願いする。ファイはふるふる震えて身体から小さなスライムを作り出した。

「増殖か。初めてみたが便利なものだな」
「ですよね。前から気になっていたんですけどなんで皆さんはテイムのスキル買ってスライム捕まえないんですか?そしたらスライム食べ放題なのに」
「そこまでスライムを必要としてないしスキルなんて馬鹿高いもの気軽に買えねえよ。買うとしてもテイムよりもっと使い勝手のいいスキルにするだろ」

ジェイさんが何言っているんだこいつって顔でこちらを見る。え、そうか?スライムを確保できるなんてこれ以上に素晴らしいスキルなんてないと思うけど。でもまあいいや。世界中の人がスライムの魅力に気付いて取り合いになっても困るし。

ファイのちびスラをジェイさんに渡す。ジェイさんはちびスラを受け取ると串に突き刺しその上から何やら茶色の液体を塗り始めた。何それ?

「何を塗っているですか?」
「これは俺の作った秘伝のソースだ。レッドスライムのボディは可燃性でそのまま燃やすと焼けすぎるから表面だけ焼けるように水分を含ませておく必要がある。このソースを塗れば焼け過ぎることはねぇし表面にカリッとした焦げ目をつけることもできる」

なんとスライム焼き用のソースらしい。ソースを塗れば俺が経験したみたいな消し炭スライムを作ることもなくなるしおいしい焦げ目も付けられるらしい。何それ神やん。むっちゃ欲しいです。

「そのソースはおいくらですか?ここに金貨の入った袋がありましてね、言い値で買いましょう」
「おい待てよ。取り敢えずは焼いて出来具合を確かめようぜ」

ジェイさんがそういって火つけ機を使って火を起こす。確かに焼いてどうなるかは大事ですね。うちのちびスラさんはちょっと焼け過ぎるのでソースを使っても焦げ目では済まない可能性がある。まあその場合でも俺は食べるけど。墨にならない限り俺はレッドスライムを食べます。

細長い棒の先端に炎をつけるとジェイさんはちびスラに火を移した。ちびスラに火が点火され燃える。ちびスラが燃える。燃える。

……うん、この光景みたことあるぞ?

「あの、ジェイさんこれ大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねえよ!なんでこんなに燃えるんだ?とにかく火を消さないと!」

ジェイさんがちびスラについた火を消そうと串を左右に振る。だけれども炎が揺らめくだけで火は消えることはない。

燃えるちびスラを持ってジェイさんが走り出し追いかけるとバシャバシャと燃えるレッドスライムに水をかけていた。

火はすぐに消えた。だけれどもそれと同時にちびスラがボロボロと串から剥がれ落ちる。黒い。どう見ても墨だ。

「……ジェイさん、」
「なんだこのスライム、いくらなんでも燃えすぎだろ。ひょっとしてこのスライム、レベル1じゃねえのか?」

不可解そうな顔してジェイさんがこちらを見る。レベル?ファイのレベルは1ではありませんね。

「鑑定紙で計ったら10でしたよ」
「そいつが原因だ!レッドスライムはレベルが高くなればなるほど炎を纏えるように燃えやすくなるんだよ。スライムが他種族を倒してレベルを上げるなんてとんでもない個体だな」

感心したようにジェイさんが地面で震えるファイを見る。ファイのちびスラが燃えすぎてしまうのはレベルが高いかららしい。原因がわかって良かったね。でもどうやって対処したらいいの?

レベルというのは上げることは出来ても下げることはできない。てことはファイのスライム焼きは作れないのか?

「じゃあスライム焼きは……」
「作れねぇな。スライム焼きが作れるのはレベル1のレッドスライムだけだ。いくらなんでもレベルが10まで育ったら旨くねぇな」
「なんてこったジーザス!ならせめてそのままでもいいや。食べれないなんてそんなの勿体無い!俺は!レッドスライムを!食うぞ!」
「おい、馬鹿、やめとけ!」

ジェイの止める声が聞こえたがスライムは俺のライフ!食べるのを辞めるなんてできません!

ファイに強くお願いしてもうひとつちびスラを出してもらう。ファイはふるふる震えてちびスラを出してくれたのでそれを口に放り込む。

もちもちしている。力強く弾力がある。俺の歯を撥ね返そうと反発するが無理矢理噛みちぎる。

瞬間身体が熱くなった。炎が全身を巡るような熱を感じる。赤、視界が赤く染まる。

燃え盛る焔のような情景を想像させるファイのちびスラ、それは……辛い。

「辛っ!何これめっちゃ辛いっ!辛いっていうかもはや痛い!え、ちょ、本当にやばい。口の中がめっちゃヒリヒリする!」
「だから食うなっていったろ。レッドスライムは基本辛いんだ。それでもレベル1ならば程よい辛さでいいんだが、レベル10まで育っている、そんなのヤバいに決まっているだろ?」

ジェイさんが呆れたようにやれやれと肩を竦める。レッドスライムって辛いのかよ。人の忠告って凄く大事だね。よくわかったから水下さい!水!口の中が痛い!

「エアト様、よろしければこちらをどうぞ」
「!!ありがとうリンっ!!」

リンの差し出す緑色のちびスラを口にいれる。リンのちびスラはそれだけでポーションと同じ効果がある。おかげで口の中の痛みは綺麗さっぱり消えた。代わりに苦味とえぐみが口の中に残ったけど。

「ふー、落ち着いた。レベルの高いレッドスライムはちょっと食べるの厳しいですね。じゃあもう一度外行ってレベルが低いレベルスライム探してきます」
「やめとけ、そんなもん残ってやしねぇよ。おそらくそいつが最後の1匹だ。この街の周辺からはレッドスライムは姿を消したんだ」

ファイが食べられないならレベルの低いスライムを探すというとジェイさんは無理だという。え、なんで?

「何でレッドスライムがいないんですか?」
「シルバーと来たってことはギルドに寄ってきているんだろう?じゃあ知っているな。火竜が現れたってことは」

それは知っている。ギルドマスターが戦って負傷するほどの火竜がこの近隣にはいるのだ。

だけれどそれがスライムと何の関係がある?あ、いや、待って。この展開覚えがあるわ。森の中の水辺で見た絶望、それを思い出す。

「最近モンスター同士の争いが絶えない。その筆頭が火竜だが、何故かスライムばかり狙いやがるんだよ。他の低レベルモンスターには目をくれないくせにスライムばかりを狙いやがる。おかげで俺も失業してしまったな」
「それは許せませんね」

胸の奥底から沸々と熱がせり上がってくる。ああ、本当。それはないわ。絶対に許せないわ。

よりによって俺の愛すべきスライムを殺しまくっているだと?そんな輩を生かすわけにはいきません。これで決まった。火竜は俺の敵だ。このままにはしておけない。

この街にいる間に火竜を排除する、それが俺の目的となった。
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