24 / 27
スライム、決意
しおりを挟む「ここかジェイの家だぜ。おい、ジェイ。ギルドマスターからの紹介で客が来たから相手してくれ」
ドンドンとシルバーが家の扉を叩く。街の中にあるちょっとボロめの一軒家だ。
やがてドアの向こうから何やら物音がしたと思ったらガチャリとドアが開く。そこに立っていたのは見たことのある顔のおっちゃんだった。
「うっせえぞ。俺は失業しちまったからこれからやる店のこと考えて忙しいっていうのに……、うん?」
「あ、おっちゃん」
そこにいたのはスライム焼きの屋台をしていたおっちゃんだった。この人がジェイさんだったのか。
「なんだよ、知り合いだったのかよ」
「俺のスライムを買った最後の客だな。坊主、何か用か?」
「実はレッドスライムをテイムしたんですけどうまくスライム焼きが作れないんですよね。どうしたら良いか相談したくて」
ジェイさんの視線が俺の足元のファイに落ちる。命令したからファイはちゃんと俺について来ている。きっちりテイムのスキルが効果出ているようでよかったよ。
「スライム焼きはただ焼くならそんなに難しいもんじゃないが、まあ入んな。見てやるよ」
中に入るように促されたので遠慮なくお邪魔する。ちなみにシルバーは『役目が終わったなら帰るぜ』といっていなくなった。まあ確かにここにいてもやることないもんね。案内ありがとうございました。
家に入ると『ほれ、見せてみろ』といってジェイさんが手を出してきたのでファイにちびスラを出すように少し強い意志を込めてお願いする。ファイはふるふる震えて身体から小さなスライムを作り出した。
「増殖か。初めてみたが便利なものだな」
「ですよね。前から気になっていたんですけどなんで皆さんはテイムのスキル買ってスライム捕まえないんですか?そしたらスライム食べ放題なのに」
「そこまでスライムを必要としてないしスキルなんて馬鹿高いもの気軽に買えねえよ。買うとしてもテイムよりもっと使い勝手のいいスキルにするだろ」
ジェイさんが何言っているんだこいつって顔でこちらを見る。え、そうか?スライムを確保できるなんてこれ以上に素晴らしいスキルなんてないと思うけど。でもまあいいや。世界中の人がスライムの魅力に気付いて取り合いになっても困るし。
ファイのちびスラをジェイさんに渡す。ジェイさんはちびスラを受け取ると串に突き刺しその上から何やら茶色の液体を塗り始めた。何それ?
「何を塗っているですか?」
「これは俺の作った秘伝のソースだ。レッドスライムのボディは可燃性でそのまま燃やすと焼けすぎるから表面だけ焼けるように水分を含ませておく必要がある。このソースを塗れば焼け過ぎることはねぇし表面にカリッとした焦げ目をつけることもできる」
なんとスライム焼き用のソースらしい。ソースを塗れば俺が経験したみたいな消し炭スライムを作ることもなくなるしおいしい焦げ目も付けられるらしい。何それ神やん。むっちゃ欲しいです。
「そのソースはおいくらですか?ここに金貨の入った袋がありましてね、言い値で買いましょう」
「おい待てよ。取り敢えずは焼いて出来具合を確かめようぜ」
ジェイさんがそういって火つけ機を使って火を起こす。確かに焼いてどうなるかは大事ですね。うちのちびスラさんはちょっと焼け過ぎるのでソースを使っても焦げ目では済まない可能性がある。まあその場合でも俺は食べるけど。墨にならない限り俺はレッドスライムを食べます。
細長い棒の先端に炎をつけるとジェイさんはちびスラに火を移した。ちびスラに火が点火され燃える。ちびスラが燃える。燃える。
……うん、この光景みたことあるぞ?
「あの、ジェイさんこれ大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃねえよ!なんでこんなに燃えるんだ?とにかく火を消さないと!」
ジェイさんがちびスラについた火を消そうと串を左右に振る。だけれども炎が揺らめくだけで火は消えることはない。
燃えるちびスラを持ってジェイさんが走り出し追いかけるとバシャバシャと燃えるレッドスライムに水をかけていた。
火はすぐに消えた。だけれどもそれと同時にちびスラがボロボロと串から剥がれ落ちる。黒い。どう見ても墨だ。
「……ジェイさん、」
「なんだこのスライム、いくらなんでも燃えすぎだろ。ひょっとしてこのスライム、レベル1じゃねえのか?」
不可解そうな顔してジェイさんがこちらを見る。レベル?ファイのレベルは1ではありませんね。
「鑑定紙で計ったら10でしたよ」
「そいつが原因だ!レッドスライムはレベルが高くなればなるほど炎を纏えるように燃えやすくなるんだよ。スライムが他種族を倒してレベルを上げるなんてとんでもない個体だな」
感心したようにジェイさんが地面で震えるファイを見る。ファイのちびスラが燃えすぎてしまうのはレベルが高いかららしい。原因がわかって良かったね。でもどうやって対処したらいいの?
レベルというのは上げることは出来ても下げることはできない。てことはファイのスライム焼きは作れないのか?
「じゃあスライム焼きは……」
「作れねぇな。スライム焼きが作れるのはレベル1のレッドスライムだけだ。いくらなんでもレベルが10まで育ったら旨くねぇな」
「なんてこったジーザス!ならせめてそのままでもいいや。食べれないなんてそんなの勿体無い!俺は!レッドスライムを!食うぞ!」
「おい、馬鹿、やめとけ!」
ジェイの止める声が聞こえたがスライムは俺のライフ!食べるのを辞めるなんてできません!
ファイに強くお願いしてもうひとつちびスラを出してもらう。ファイはふるふる震えてちびスラを出してくれたのでそれを口に放り込む。
もちもちしている。力強く弾力がある。俺の歯を撥ね返そうと反発するが無理矢理噛みちぎる。
瞬間身体が熱くなった。炎が全身を巡るような熱を感じる。赤、視界が赤く染まる。
燃え盛る焔のような情景を想像させるファイのちびスラ、それは……辛い。
「辛っ!何これめっちゃ辛いっ!辛いっていうかもはや痛い!え、ちょ、本当にやばい。口の中がめっちゃヒリヒリする!」
「だから食うなっていったろ。レッドスライムは基本辛いんだ。それでもレベル1ならば程よい辛さでいいんだが、レベル10まで育っている、そんなのヤバいに決まっているだろ?」
ジェイさんが呆れたようにやれやれと肩を竦める。レッドスライムって辛いのかよ。人の忠告って凄く大事だね。よくわかったから水下さい!水!口の中が痛い!
「エアト様、よろしければこちらをどうぞ」
「!!ありがとうリンっ!!」
リンの差し出す緑色のちびスラを口にいれる。リンのちびスラはそれだけでポーションと同じ効果がある。おかげで口の中の痛みは綺麗さっぱり消えた。代わりに苦味とえぐみが口の中に残ったけど。
「ふー、落ち着いた。レベルの高いレッドスライムはちょっと食べるの厳しいですね。じゃあもう一度外行ってレベルが低いレベルスライム探してきます」
「やめとけ、そんなもん残ってやしねぇよ。おそらくそいつが最後の1匹だ。この街の周辺からはレッドスライムは姿を消したんだ」
ファイが食べられないならレベルの低いスライムを探すというとジェイさんは無理だという。え、なんで?
「何でレッドスライムがいないんですか?」
「シルバーと来たってことはギルドに寄ってきているんだろう?じゃあ知っているな。火竜が現れたってことは」
それは知っている。ギルドマスターが戦って負傷するほどの火竜がこの近隣にはいるのだ。
だけれどそれがスライムと何の関係がある?あ、いや、待って。この展開覚えがあるわ。森の中の水辺で見た絶望、それを思い出す。
「最近モンスター同士の争いが絶えない。その筆頭が火竜だが、何故かスライムばかり狙いやがるんだよ。他の低レベルモンスターには目をくれないくせにスライムばかりを狙いやがる。おかげで俺も失業してしまったな」
「それは許せませんね」
胸の奥底から沸々と熱がせり上がってくる。ああ、本当。それはないわ。絶対に許せないわ。
よりによって俺の愛すべきスライムを殺しまくっているだと?そんな輩を生かすわけにはいきません。これで決まった。火竜は俺の敵だ。このままにはしておけない。
この街にいる間に火竜を排除する、それが俺の目的となった。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
飼っているフェレットを溺愛していたら転生してフェレットに⁉︎〜とりあえず飼っているフェレットが一緒に転生して安心です!〜
月光
ファンタジー
転生して双子になった溺愛飼い主と飼い主大好き系フェレットの転生ファンタジー物語
森でのびのびと生きようと思ったらそうも行かなくて冒険するはめに2人で幸せに暮らせたらそれでいいのに色々なことに巻き込まれる主人公たち2人はほのぼのと幸せに暮らせるのか?
不定期更新 (๑╹ω╹๑ )
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる