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愛すべき時を刻む音 8
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何気なく隣の店、佐倉古道具店の様子を眺めている姿を見て俺は席を立って店のドアを半分開けたところから顔を出し
「佐倉古道具店に御用なら開店は10時からになるよ」
いえば高校生の男の子はびくっと震えて
「10時ですか?」
不安げな声とともに時計を見れば大体学校の始業時間は始まっている時間。
どうしようかとおもうも
「開店前の店の前でうろうろするぐらいなら中に入れよ」
なぜかはたきの人が開店前の朔夜の店を自分の店のごとく指示すれば
「ほら、気にしなくていいから入っておいで」
少しだけおかしそうな顔をして朔夜もおいでおいでと手招きしていた。相変わらず人がいい……
良いのかこれ、なんて思うもすぐに出されたお冷とおしぼりをもらいながらはたきの人は二杯分の飲み物の一杯をこの子にと言えば凝縮しながらもコーヒーを頼む高校生。コーラじゃないんだと少し大人びた高校生徒は初対面のはずなのにどこかで会ったかと言うような感想を抱いていた。
「で、初めてさぼった気分はどうだ?」
はたきの人が紅茶を飲みながらにやにやと笑っていた。
高校生の子供は少しだけ顔を青ざめて
「怒られますかね……」
今時さぼりで怒る親がいるのかと思えばはたきの人はスマホを操作しながら何か考えていたが
「まあ、それで怒ってくれる親なら真剣に子供の事を考えてくれている親だと思って感謝しておけばいいんじゃね?」
聞いておいてその返答、リアクションに困りながらも酷くどうでもよさそうに言われて少しだけ乾いた笑みを落とした高校生は複雑そうな顔をしていた。
「それでうちの店に何の用だったのかな?」
空気を変えるために話を切り出せば俺が佐倉古道具店の人間だと知って高校生は背筋を伸ばして
「あ、あの。俺、楠征爾といいます。
昨日父がこちらにうちの時計を持ち込んだと聞きまして」
そんな自己紹介。
もちろん俺はその名前に憶えがある。
立派なアンティークの時計の中身に舌を巻くほど美しい緻密なマシンの世界。
「亡き祖父が愛した時計を直すとか聞いて、出来たらそれをやめていただきたくて来ました」
一口飲んだコーヒーカップを置いて俺へと真っ直ぐな視線を向けて訴えてきた。
とはいえ
「依頼者は君ではない。
時計を持ち込んだのも君ではない。君の一存で、そして私たちの判断でそれは決めれる事ではないんだよ」
営業用の口調で言えば、やっぱりそこはちゃんとした高校生をしているだけあって分かっていたという顔をする。
しょぼんと肩の力が抜けた姿はひどく寂しそうな迷子の子供のように見えてかわいそうに思えば
「で、なんでそんなじーさんの形見の時計の修理をしてほしくないんだよ。
フツーなら壊れた時計を直さないとじーさんが悲しむって考えるんじゃないのか?」
はたきの人が聞けば少し困った顔をした征爾君は
「これは祖父の言葉なのですが……
あの時計はわが家の守り神だと教えられました」
「わーお」
ひどく感情の乗らないはたきの人の返事。
だけどその気持ちはわかるという様に起こることなく困った顔のままの征爾君は
「その時その時我が家を守ってくれる大切な時計なのです。
時には信じられない奇跡を起こしてくれて…… 俺もその奇跡の恩恵にあずかりました」
両手でコーヒーのカップを包み、口にするわけでも無く冷えていくコーヒーカップをのぞき込みながら
「まだつい先日の話しです。
俺はいつものように朝から学校に行く準備をします。
ですがスマホのアラームもならなく時計もまだまだ学校に行く時間でもなく、だけどふと気づいたのです。テレビが俺の知らないコーナーに代わっていた事に。
慌ててテレビを変えればとっくに家を出て行かなければならない時間でした」
「へえ、家じゅうの時計を支配に置くのか。
不便だな」
なんて笑いながら信じないとは言わずに物語を聞くようにニコニコと聞いていた。
もちろん朔夜も話の続きを期待するように目をキラキラとさせていて、俺はパンを食べ終わった次郎さん達が店のソファの上で心地よさそうに寝転んでいたり、ソファに座って店の前を通り過ぎ行く人を眺めているのを見て良いのかあれ、という様に俺は飼い主に視線で訴えるも普通に無視された。
「慌てて学校に向かうのですが、いつも使っているバスには当然乗り遅れて、次に来たバスに乗る事になりました」
「まあ、一本遅れたぐらいでよかったな」
「良くはありません。
ギリ間に合うかとかバス停で待ち合わせしている友人を待たせるのではとかいろいろ心配事が増えて……」
「学校ぐらい一人で行け」
呆れた言葉だけど俺は思う。この人絶対友達いなかったのだろうと。
聞いて素直に話してくれるとは思わないから聞かないけど。
「ありがたい事に友人は遅れた俺の為にバス停で待っていてくれました」
言うもそこは興味ないのか無反応。さりげなく酷いなと思っていれば
「友人二人と一緒に一本遅れたバスに乗ったまでは良いのですが、今度は道路が大渋滞をしてほとんど進まなくなり、見事遅刻になりました」
「あーあ」
なんて楽しそうな顔で相槌を打つはたきの人。ほんとこの人どうにかしてと九条に視線で訴えるも肝心の九条は関わりたくないという様に俺達の話しに興味を持たずに鈴さんを膝の上にのせてなでなでをしていた。
「佐倉古道具店に御用なら開店は10時からになるよ」
いえば高校生の男の子はびくっと震えて
「10時ですか?」
不安げな声とともに時計を見れば大体学校の始業時間は始まっている時間。
どうしようかとおもうも
「開店前の店の前でうろうろするぐらいなら中に入れよ」
なぜかはたきの人が開店前の朔夜の店を自分の店のごとく指示すれば
「ほら、気にしなくていいから入っておいで」
少しだけおかしそうな顔をして朔夜もおいでおいでと手招きしていた。相変わらず人がいい……
良いのかこれ、なんて思うもすぐに出されたお冷とおしぼりをもらいながらはたきの人は二杯分の飲み物の一杯をこの子にと言えば凝縮しながらもコーヒーを頼む高校生。コーラじゃないんだと少し大人びた高校生徒は初対面のはずなのにどこかで会ったかと言うような感想を抱いていた。
「で、初めてさぼった気分はどうだ?」
はたきの人が紅茶を飲みながらにやにやと笑っていた。
高校生の子供は少しだけ顔を青ざめて
「怒られますかね……」
今時さぼりで怒る親がいるのかと思えばはたきの人はスマホを操作しながら何か考えていたが
「まあ、それで怒ってくれる親なら真剣に子供の事を考えてくれている親だと思って感謝しておけばいいんじゃね?」
聞いておいてその返答、リアクションに困りながらも酷くどうでもよさそうに言われて少しだけ乾いた笑みを落とした高校生は複雑そうな顔をしていた。
「それでうちの店に何の用だったのかな?」
空気を変えるために話を切り出せば俺が佐倉古道具店の人間だと知って高校生は背筋を伸ばして
「あ、あの。俺、楠征爾といいます。
昨日父がこちらにうちの時計を持ち込んだと聞きまして」
そんな自己紹介。
もちろん俺はその名前に憶えがある。
立派なアンティークの時計の中身に舌を巻くほど美しい緻密なマシンの世界。
「亡き祖父が愛した時計を直すとか聞いて、出来たらそれをやめていただきたくて来ました」
一口飲んだコーヒーカップを置いて俺へと真っ直ぐな視線を向けて訴えてきた。
とはいえ
「依頼者は君ではない。
時計を持ち込んだのも君ではない。君の一存で、そして私たちの判断でそれは決めれる事ではないんだよ」
営業用の口調で言えば、やっぱりそこはちゃんとした高校生をしているだけあって分かっていたという顔をする。
しょぼんと肩の力が抜けた姿はひどく寂しそうな迷子の子供のように見えてかわいそうに思えば
「で、なんでそんなじーさんの形見の時計の修理をしてほしくないんだよ。
フツーなら壊れた時計を直さないとじーさんが悲しむって考えるんじゃないのか?」
はたきの人が聞けば少し困った顔をした征爾君は
「これは祖父の言葉なのですが……
あの時計はわが家の守り神だと教えられました」
「わーお」
ひどく感情の乗らないはたきの人の返事。
だけどその気持ちはわかるという様に起こることなく困った顔のままの征爾君は
「その時その時我が家を守ってくれる大切な時計なのです。
時には信じられない奇跡を起こしてくれて…… 俺もその奇跡の恩恵にあずかりました」
両手でコーヒーのカップを包み、口にするわけでも無く冷えていくコーヒーカップをのぞき込みながら
「まだつい先日の話しです。
俺はいつものように朝から学校に行く準備をします。
ですがスマホのアラームもならなく時計もまだまだ学校に行く時間でもなく、だけどふと気づいたのです。テレビが俺の知らないコーナーに代わっていた事に。
慌ててテレビを変えればとっくに家を出て行かなければならない時間でした」
「へえ、家じゅうの時計を支配に置くのか。
不便だな」
なんて笑いながら信じないとは言わずに物語を聞くようにニコニコと聞いていた。
もちろん朔夜も話の続きを期待するように目をキラキラとさせていて、俺はパンを食べ終わった次郎さん達が店のソファの上で心地よさそうに寝転んでいたり、ソファに座って店の前を通り過ぎ行く人を眺めているのを見て良いのかあれ、という様に俺は飼い主に視線で訴えるも普通に無視された。
「慌てて学校に向かうのですが、いつも使っているバスには当然乗り遅れて、次に来たバスに乗る事になりました」
「まあ、一本遅れたぐらいでよかったな」
「良くはありません。
ギリ間に合うかとかバス停で待ち合わせしている友人を待たせるのではとかいろいろ心配事が増えて……」
「学校ぐらい一人で行け」
呆れた言葉だけど俺は思う。この人絶対友達いなかったのだろうと。
聞いて素直に話してくれるとは思わないから聞かないけど。
「ありがたい事に友人は遅れた俺の為にバス停で待っていてくれました」
言うもそこは興味ないのか無反応。さりげなく酷いなと思っていれば
「友人二人と一緒に一本遅れたバスに乗ったまでは良いのですが、今度は道路が大渋滞をしてほとんど進まなくなり、見事遅刻になりました」
「あーあ」
なんて楽しそうな顔で相槌を打つはたきの人。ほんとこの人どうにかしてと九条に視線で訴えるも肝心の九条は関わりたくないという様に俺達の話しに興味を持たずに鈴さんを膝の上にのせてなでなでをしていた。
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