隣の古道具屋さん

雪那 由多

文字の大きさ
上 下
26 / 44

愛すべき時を刻む音 1

しおりを挟む
 はたきの人と九条が帰り、家に戻ればこんなまだ開店前だというのにお袋がお客様から電話を受けていた。
 依頼かな?
 なんて側で聞き耳を立てていれば開店より速くお客様をお迎えすることになったようだ。
 こういうのは時々ある。
 怪異を起こすものが持ち込まれる場合が特にそうだ。
 少しでも早く問題を解決してほしくて、必死になって何件も回った先でたどり着いたというのが理由の一つ。
 時々お寺でも受け取り拒否されるものを古美術商に持ち込んで買い取ってもらおうなんて不埒な奴もいるが……
 うちでは手に負えない物も一度引き受けて懇意にしている能力者様に処理をお願いすることになっている。
 それが九条の所だって言うのを聞かされた時は驚いたけどね。
 逆に処理するまでもないモノはうちに持ってきて修繕して穏やかな時間を過ごしてもらったりと言った事をしているらしいけど……
 そうするといずれ抜けていくというらしい。
 不思議な話だと思いながらも俺は先日視た俺の中からたたき出された呪いを九条が九字で消滅させるあの光景を見れば全然修繕して穏やかな時間を過ごしてもらう方を選びたいと思っている。
 呪いとはいえ消滅されるとき一瞬死への恐怖の叫び声をあげていたような気がして……
 少しだけ感情をそげ落とした九条の顔も忘れられずにいた。
 それを見て俺が選ぶ世界は甘いのだろうと思われるけど……
 そんな選択のある世界だっていいじゃないかと俺は思う。
 
 とりあえず電話の内容をお袋が親父に報告に行くから俺もついて行って一緒に話を聞く事にする。
 話を聞く分にはいくらでも聞かせてくれるから毎回聞かせてもらう様にしている。
 因みに場所は親父が新聞を読みながら茶をすする台所。
 事務所的な場所なんてないけど作業場には店番をしてくれるパートのおばちゃんや工房で働いてくれる職人さんたちの休憩所がある。
 けどこの話はうちの家の仕事なので職人さんたちには聞かせないようにしているけどね。
 もっともこういった怪異は封印の間に置いておいても何か不思議な事が起きるので長い事一緒に修繕を手伝ってくれる職人さんたちは察してくれているけど今ではなれたという様に、でも脅えずに黙々と仕事をしてくれるいい人たちばかりだった。

 今回台所でお袋が言うには

「明治時代ごろに購入したと言われる置時計が先日依頼者のおじいさまが亡くなったころから不思議な事を起こすようになったそうで……
 このままでいいのか、それとも処分するべきか相談していたらこちらを紹介されたらしいです」
「置時計か……」
 ぜんまい式だろうか何だろうかちょっと楽しみだよな。
 あの時代はすごく質の良い木を使っているから見るだけでも芸術品だろうなと思いを膨らませていれば
「それでいつこちらに来ると言っているんだ?」
「それが見てもらえるのなら今すぐにでもとなりまして……」
「そうか、香月。お前も準備しておきなさい」
 なんて珍しい事と言うか初めて親父に積極的に参加するようにいわれた。
「え、えーと…… いいのか?」
 慎重になって本当に?という様に聞けば
「体質も変わった。
 そういう意味でお前も自分と向き合うには今回の品はそこまで難易度の高いモノではないだろう。まずは隣で話を聞く事から始めようか」

 まさかの後継者教育がついに始まって、少しだけ舞い上がる俺は隠しきれない笑みがにじみ出てしまえば

「ご依頼人は必死の思いをしてくるのだから、そんな顔をするなら下がっておれ」

 丸めた新聞で頭をたたかれてしまうものの

「いや、ちゃんとするから。一緒に話聞かせてください!」
 
 そこは親子と言うより師弟と言う様に頭を下げてお願いするのだった。
 
 
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

処理中です...