隣の古道具屋さん

雪那 由多

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鯉と猫と俺様と 8

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「え? これ一体……」
 
 ドウイウコト?

 思わず困った時の九条ではないがもうどうにでもなれと言う顔をしている九条に言葉にできない訴えという様に目で問えば

「またちょっと変わったな。
 まあ、あれだけ強い呪いを吐き出させたこいつの霊力に触れて変質したな」
 少しだけ目を細めて俺を視ながら
「俗にいう魂のレベルが上がったってやつだ」
「それはいい事なのか?」
「よりたくさんの物が見えるだけになったってだけだ」
 九条に言わせると視えているのに全く役に立たない視え損な俺にこれはどうしたらいいのかと問えば
「仕事上効率が上がって良いんじゃね?
 それにお守りはもう必要なさそうだし」
 どうでもよさそうに言いながら肘をついた酷い姿勢ではたきの人を睨んでいた。
「って言うかお前気合入れすぎだ。
 たぶん声も聞こえるようになったし、守護の力も強くなっている」
 守護の力が強くなったというのはいい事では?
 なんて今まで呪いで負を引き寄せ負を強化させる体質だったから何が悪いのかと考えてしまえばはたきの人は笑う。
「残念だったな。貴重な収入源が減って」
「やっぱり嫌がらせか」
 納得の答え。確かにふてくされるわけだなんて笑えばはたきの人は膝の上に座る三毛猫をなでながら

「改めて挨拶を。
 吉野綾人と申します。これは次郎さんです。次郎でなく次郎さんと呼んでください」
「こだわりがあるのですね」
 言えばはたきの人改め吉野様は頷き
「この掛け軸に宿った付喪神の次郎さんです。
 この掛け軸はお世話になっている家で愛された猫の掛け軸になります。こよなく愛してくださった方はすでに儚くなっていますが、今もこんな状態となっても大切に保管されています」
 なんて説明しながらも喉元を撫でられ気持ち良さそうに目を細めていたまま次郎さんはリラックスしたまま

「主に名前を頂きこのようにはっきりとした形を得てこれから掛け軸の持ち主の家でお世話になる以上本体のこの掛け軸がボロボロのままではお世話になる家を守るどころの話ではなくなる。
 世話になる以上しっかりと家を守る力を取り戻すためにもどうか修復を頼みたい」

 そんな次郎さんからのお願い。
 俺は親父に
「お家の為に力を取り戻したいという願いなら修復はするべきだ」
 なんて親父に訴える。決して次郎さんがいじらしいくらいにかわいいからだけではないという様に言えば
「お前は何を言っているのか説明しろ」
 眉間を狭めて問う親父に俺も話がかみ合ってない事を理解した。
「ま、そういう事だ。
 佐倉、お前だけが視えるようになって聞こえるようになった。おめでとう」
 と言う割にはにぞんざいな拍手をしてくれた。
 まったくおめでとうとは思ってないなと思うも俺にとってはこのあいまいな世界の視界がクリアに見えるようになった喜ばしい出来事なのにと考えるも
「いいか。お前は視えるようになって聞こえるようになっただけだ。
 つまりは今まで以上の面倒ごとに巻き込まれる。そういう事も覚えておけ」
 そんな忠告はさらに続く。
「あとこいつは簡単に払っていたがさすがに俺だってあんなにもポンポン払うのは無理だからな。今日見たこいつの異常行動までお前が出来るなんて思うな」
「頑張ったのに異常行動はひどくね?」
「張り切りすぎだ」
 文句を言われても心からうんざりした声の九条を笑いながら
「もし絵の修復を断るのならそれでもかまいません。
 ただおせっかいとはいえ鯉の絵の問題も解決しました。そして息子さんの中にある暁でさえ手を焼いた呪いも排出させました。
 そこの所は現金で精算させていただきます。まあ、一方的に俺がやったことだから九条の家の料金表に照らし合わせた金額の半分で十分です。
 なんで金をとるかと思っているかもしれませんが……
 すでにその身に起きた出来事、手っ取り早く対価と言う形で精算しないと後々遺恨が残り、せっかく手に入れたその能力が変質する可能性もあるかと?
 だったらその目もその耳も自分のものにするならお互いわだかまりがないようにわかりやすいようにお金で解決しましょう。
 俺の力で変質した以上、俺の気分一つでまた変質するかも……」
「なにお前は脅している!」
 ごつっ!なんて結構いい音が出るくらい拳骨をもらっていた。
「もうちょっと優しくしろよー」
「おまえがあほな事を言うからだ」
 なんて九条は吉野様を睨むも
「ちなみに金額はざっといつも渡しているお守り10個分ほど。
 こいつがはたきを振り回しているようなことだけどそれだけの事をやったんだ。むしろそれでも安く見積もってるつもりだ。そしてこいつがその気になれば佐倉家の能力を失う事もありえる。何が良いのかはそちらで考えてくれ」
 あまりの金額と九条の言葉に俺も親父も言葉を失うも、能力はともかく俺の命を守るための値段なら安いのかと考えてしまう親父が
「よろしくお願いします」
と頭を下げようとしたところで
「だけど今なら次郎さんの絵の修復をしてくれるのならその修復料でチャラにしましょう」
「いや、その金額差おかしくね?」
 なんて突っ込んでしまえば
「俺の中では金額はさほど問題ないね!むしろ安く思うのなら店の商品を何点か目星付けてるからそれを融通してくれればいいから」
 びっくりするほど俺様な人に驚くを通り越して呆れるも
「でしたらそのようによろしいのならこの仕事引き受けさせていただきます」
 親父は床に両手をついて深く頭を下げ、俺もあわてて倣って手をついて頭を下げた。
「よし、決まったのなら次郎さん。
 しばらくこの家で厄介になるから困ったことがあれば香月って奴にお願いするんだよ」
「主がいないのはちと心細いが仕方がない。しばらくの間この家で厄介になろう」
 主人と同じく太々しいなと思うも親父は依頼書を作る書類を持ってきて必要事項を記入してもらっていた。


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