上 下
50 / 90

少女の強さ、恐ろしい……

しおりを挟む
 周囲もかたずをのんで見守っているので居た堪れなさが半端ない。
 何とも言えない苦痛の時間にどうしようと焦る俺はだんだん落胆して行く聖華ちゃんに下手な希望を持たせて申し訳ないと謝ろうとした時

 ピコン

 聞き覚えのある電子音が聞こえて俺と聖華ちゃんはハッとする様に画面を見る。
 電池マークは真っ赤の最低ラインを飾り、充電率を計る数値はまだ一ケタ台。
 だけどここにきてもう三週間ほど経ってすっかりバッテリー切れを起こしたスマホが再起動したのだ。
 それだけでも感動もので、いかに俺達がスマホに依存しているかよくわかる。
 とりあえず無事起動したから聖華ちゃんに渡せば、そこで充電マークが切れた。
 
「あっ!」

 すぐに充電が切れる案内が出た所で俺の手に戻し

「もう少し、もう少しだけ充電させてください!」
「あああ、ついに人間発電機になってしまった」

 必死の聖華ちゃんに思わずぼやいてしまう俺は苦笑まみれに預かりますねとスマホを向けながら手の上に置くのだった。

「まあまあ、それは一体どういう原理か聞いてもいいのかしら?」

 エルヴィーラ様はよくわからないと言う顔をしていらっしゃいますが

「魔石だと思ってください。
 魔石に魔力を溜めると魔道具が使えるようになります。
 それと同じ原理で魔道具がこのスマホになります。魔石がこのスマホに内蔵されているバッテリーで、魔力がアトリさんがチャージしてくれている謎の力です」

 確かに謎の力だ。
 まあ、これがスキルだと一言で終わらせれるのだから便利な世界だけど、思えばこちらの世界に来た時やたらとおなかがすいたり寝てたりしたのはスマホへのチャージへの体の負担だと思えば納得する。最近はそこまで眠くなることはない物の寝て起きたら100%のバッテリーのスマホの理由に納得が出来て、ならなんでスマホを持ってないのにチャージしているのか考えればやっぱりあの生体リンクなる物がミソなのだろう。数字が減るのはチャージするより早くバッテリーの消費をするだけだと思えば納得。
 俺は聖華ちゃんにスマホの中をのぞき見ないように持って見せていれば、聖華ちゃんはすぐにロックを外してサクサクとスマホを操る。
 一心不乱に何を見ているのかと思えば

『聖華、ちゃんとこっち向いてドレス姿を見せて』
『お母さん恥かしいから撮らないでよ』
『何言ってる、折角バイオリンの発表会の為に買ったドレスなんだ。記念に撮らなくてどうする』
『そうよ、ちゃーんと後で聖華のスマホに送っておくから変に隠れないの』
『もうお父さんもお母さんも!』
 
 そんな声に俺は目を伏せてしまった。
 誰よりも恋しいご両親との思い出はまだ聖華ちゃんには生生過ぎた。
 笑いあう親子三人とやがて流れ出したバイオリンの音。
 さすがお嬢様だけあって嗜みはあるようだ。
 スマホを持つ俺の手事握りしめた聖華ちゃんは

「お父さんっ!お母さんっ!聖華は無事だよっ!聖華はここに居るよっ!会いたいよ!」

 涙をぽろぽろと零しながら泣き叫ぶ様子に周囲の侍女さん達はおろおろとするし、エルヴィーラ様も聖華ちゃんがまだ十六歳の少女だと言う事を思い出したように目を伏せていた。
 何度も家族との動画を見ている中、アレックスが迎えをよこした侍従達がやって来た。エルヴィーラ様も気付いてそこで止まる様にと合図をする。
 そこは陛下の伯母様。いつもは俺達にお構いなしの侍従の人達もそこで止まってくれた。

「アトリさん、今聖女様が見ているのがスマホと言う物ですか?」

 いつまでも感傷に浸せてあげれないと言う様に問われる声に

「はい、スマホの機能の一つでその時の光景を映像と音声を記録として残す事が出来ます。
 今見てるのはきっとこちらに来る前の聖華ちゃんの日常ですね」
「そう、聖女様にも私達と変わらない日常をご両親のもとでお過ごしになられてたのですね」
「はい。ですので聖女と言うお役目よりもこちらの世界の同じ年頃の女の子と何ら変わりがない事を覚えていただければと思います」
「そこは私がノルドシュトロムの名のもとにお約束しましょう」
 
 さすが元王女様貫録ハンパねーなんて思うも先ほどと空気が変わった事を理解してか侍従さん達が迎えに来た。

「聖華ちゃん、そろそろ移動しないといけないから……」

 手を離してくれた。だけど縋るように俺を見上げ

「だったら帰るまでスマホを預けておくので充電がフルになるまでお願いします!」

 涙を拭っての潤んだ瞳での懇願。
 何だろうか。
 さっきまで昔の映像のご両親に涙を流していたはずなのに途端に現実に戻されたこの感覚。
 いや違う。
 会社の後輩の女の子達も仕事のミスで怒られてしおらしくしていたけど昼食時にはもうどこにランチに行くー?なんて笑い声を上げるあの感覚は既にこの頃から装備されているのかと少しだけ恐ろしくなる天鳥だった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

匂いがいい俺の日常

とうふ
BL
高校1年になった俺の悩みは 匂いがいいこと。 今日も兄弟、同級生、先生etcに匂いを嗅がれて引っ付かれてしまう。やめろ。嗅ぐな。離れろ。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

処理中です...