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この世界にもまともな人がいました

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「それでですね!
 こちらの世界の学校って言うのは制服がないのですよ!
 制服がないのでお城で用意してもらった服を着て行くしかないのは当然だと思います。
 なのに!この世界の人達はそんな私の姿を見て貧乏人とかダサいとか言うんですよ!何世紀も前のファッションスタイルしてる人達に言われたくありません!
 ちなみに私はワンピースにロングコートを着て編上げのブーツ姿なんですよ。森ガール風?ヨーロッパスタイル?椅子に座れば三席必要なボーン入りのドレス、机の下に納まらないの超受けるんですけど!」

 聖華ちゃんの盛大なストレスに俺は顔を引き攣らせていた。
 しかし、侍女さん達はしれっとした顔でお茶を淹れて俺のお土産のケーキと焼菓子を用意してくれて、残りの分は皆さんでとお渡しした物を大切そうに抱えて下がるのだった。
 行かないで、俺を置いて逃げないで、なんて思いはあった物の直ぐにとても姿勢の良い年上の女性がさらに年上だろう髪も白く顔の深い皺を刻んだ優しげな面立ちの女性を案内して来た。
 因みにカンペでは先導する姿勢の良い女性は侍女長と言う役職の人。どこかの伯爵家の四女、独身らしい。まぁ、そう言う分けだよなとハウゼンさんと言う前例を知っているだけに深くは聞かないで置こう、なんて思ったら婚約時代に婚約相手が浮気からの破談、修道院に行くところを恩師の伝手で城勤めになり、当時の侍女長にそんな浮気相手を見返すように立派になりなさいと徹底的な教育が施され、今では侍女長となり城内の侍女達の統括役となる。元婚約者は浮気相手と結婚した後に財産を喰いつくされた挙句に別の男と不倫して捨てられたからやけになって別の若い女に手を出したらお偉いさんのお嬢さんを傷物にしたと騎士団を懲戒免職となり、やけになって暴れたため爵位を取り上げられて南のの鉱山へと送られ、落盤事故で死亡…… 婚約破棄してから三年後の出来事。
 別に知らなくても良いんだけどと言う謎の生々しい情報を教えてくれる俺のスマホは絶対昼メロ好きな奴だと思う。
 因みに浮気相手の人は他にも浮気をしていたらしく、本命との子供を身ごもった所を捨てたの浮気相手に刺されて死亡と言う、この世界の男女関係の奔放さを恐ろしいと思うも、冷静になれば何もこの世界が特別だけではない。
 俺の元職場でも上司と浮気してた女性社員がいて、会社に上司の奥さんが乗り込んできて殴り合いの修羅場に上司は遠方へと移動、奥さんは警察に連れて行かれて、女性社員は何人も男を手玉に取ってきた美貌の顔面骨折で仕事を辞めて今も引きこもっていると言う。
 ほら、男女間のトラブルに俺の世界も異世界も関係ない事が証明された。
 だけど問題はその隣の女性。
 名前をエルヴィーラ・ノルドシュトロム・デゲルホルム、ノルドシュトロムが付いている時点で元王族だと言う事に顔を引き攣らせてしまう。
 前王の姉という情報の他には未亡人と言う事だけ。
 この昼メロ好きだと俺は勝手に思うスマホ判断から言えば普通に幸せな結婚生活を送ったのだろうと思う事にしておいた。
 とりあえず年齢的にも目上の人なので席を立ちあがれば聖華ちゃんも立ち上がって二人が着く頃には頭を下げて待つこの国の礼儀に乗っ取っていれば

「こんなおばあちゃんに頭は下げないで楽にしてね」
「失礼します」

 出来る女性の優しげな言葉に甘えさせてもらい顔を上げれば

「まあ!本当に異世界の方々はみなさんそのように美しい黒い髪と瞳をお持ちなのね!聖女様がお国ではほとんどの方がそうだとおっしゃてましたが、この国や近隣の国でも黒目黒髪は珍しいから、ふふふ、澄み渡った夜空の纏うのですね」

 何かとこの国の人はその人が持つ色を尊重するのでとても珍しく思われているようで、慣れない褒め言葉に照れてしまえば礼儀としては俺もこの女性を誉めないといけないのだが素直に照れてしまって可愛らしいと言ってくれるのだった。
 ホントそうだよな、三十近くにもなって素直に照れてしまって言葉が返せなくって、だから可愛いのだろう。決してほめ言葉ではない言葉に反省する二十九歳だった。

「天鳥さん、紹介させてください。
 この方は現国王のおばさまに当り、前国王のお姉様になります。
 エルヴィーラ様、こちらの方が私がこの世界に招かれた時に一緒に渡って下さったアトリ・ナナセさんです。
 週に一度こうやって前の世界を懐かしませていただいてます」

 聖華ちゃんの説明に前国王のお姉様はにこにこと、逆に感情のわからない笑顔を零しながら侍女が用意してくれたお茶を頂いていた。

「その件に関しては我が一族の勝手な真似を許してね。
 我が国の事なのに異世界の方に協力を仰ぐなんて単純な発想、あれもこの国を思っての事。どうか許してくださいね」

 立ち上がっての深々と頭を下げる様子に、この方は簡単に頭を下げる事の出来ないアレックスの代わりに頭を下げてきたのかと理解した。



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