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幸運の赤い鳥 4

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 予想はしていたのに……
 見慣れてはいないけど見覚えのある天井を見上げて俺は溜息を零した。
 重い体を起こして声のする方へと顔を向ければ

「あやちゃんおきたよ!」

 子供の甲高い悲鳴のような声に机を囲む一同くるりと俺を見る。
 外へと視線を向ければすでにどこか薄暗くなりかけた室内。
 そして香る……

「起きたか。お前の分はテイクアウトしておいたぞ」

 おなじみのMマークの袋は遠目から見てもしっかりと冷え切っているようだ。
「出来立てが食べたい……」
「そんな贅沢は今度飯田さんに作ってもらえ」
「あのチープな味が食べたい。 
 添加物とか古い油の匂いとか体に悪そうな感じを欲していて……」
「だったらこの冷えた奴が一番だ」
「せめて美味しく食べたい……」
「矛盾し過ぎだ」
 何訳の分からない事を言っていると暁に睨まれるけどその間にもとたたたたた……と軽い足音が近づいてきて

「やっと起きたー!
 マック行ってきたよ!ちゃんとメニュー見て注文できたよ!
 お店で食べてきたんだよ!」 

 にこにこ顔の晴朝の言葉で俺が倒れている間家族そろって晴朝の夢をかなえてあげたらしい。
 いや別にマック相手に恨んではない。
 車を借りて行った事も別に問題はない。
 不便な子供時代を過ごす事を思えば車ぐらい使ってもらっても構わない。保険の問題は気になるが、そこは九条の力を信じておく。

「良かったな。社会体験は大切だぞ」
「うん! フライドチキンも買ったんだ!
 車に乗ったまま買ったんだよ!今夜食べるから楽しみにしていて!」
「良かったなー。大人になったら晴朝もできるようになれよ?」
「うん! それでね、帰り道にお饅頭屋さんにもよったんだ!
 四阿があっておしるこたべたよ!」
「あー、四阿があるってあそこか。窓無いから寒かっただろう……」
「おしるこが温かくてお餅が美味しかった!」
「おいしかった!」
 ねー!なんてう兄妹が微笑ましいもののまだまだ体が重くてすぐに横になりたくなるが

「寝るな。車に乗れば家に連れて行くから。
 それに土産に朔日菓子があるから家に帰って温かい茶を飲みながら食べたいと思わないか?」
「家に帰る。
 ってか、朔日菓子よく手に入れたな」
「志月がたまたまな。残りも少なかったから戦利品だな」
「さすが神に愛された人。こういう小さい所に幸運がやってくるんだね」
「まあ、喜んでもらえるなら我が儘ぐらいいくらでも聞くさ」
 なんて本人の目の前で言える暁を相変わらずの愛妻家だなあと思いつつ、だけど顔を真っ赤にしている志月さんに不憫さを感じるのだったが……

「ところでこの鳥いつまで俺を食い続ける気だ?」

 今もその爪を立ててガッツリと俺を掴みすやすやと寝ている状況でも俺から霊力を奪い続けている。緑青や真白のちゅぱちゅぱタイプではなく玄さんと岩さんみたいな浸透させていくタイプなのだろう。
 サイズが常識的なのであっという間に終わると思ったんだけど……

「まあ、個人差や格もあるからな。
 それにさっき浄化の能力を使ったし腹も減った事だろう」
「ううう、まさか俺が捕食される側になるとは思わなかった」
「使役するにあたり契約はその霊力を与える所から始まるからな。
 気が済むまで与える我慢比べだから、まあがんばれ」
「考えたら緑青にかなり長い期間与えたな」
「そこはさすが龍だと言う所か。いつも空を飛んでるからコスパ悪そうだしな」
 そして俺の頭を休憩場として、時々髪をちゅぱちゅぱしてるのはおやつがわりにされているからだろう。
 まだまだ当分おやつにされる事は確定な事は判った所で俺は朱華と名付けた鳥を抱えながら立ち上がり
「今日はろくに掃除が出来なかったけど帰るか」
「この穢れの掃除がメインじゃなかったのか?」
「近く入居予定があるからな。
 その前のメンテだ」
 言って綾人は溜息を吐いた。
 もちろんそれを見逃す暁ではなく
「何かあったのか?」
 聞きながらこの家を見回す。
 使いやすそうなダイニングキッチン、そして開放的な吹き抜けのリビングが続く。
 階段からログハウスによくある屋根裏部屋。
 さらに田舎なら玄関横には客間があり、もともと物置部屋だったのだろう部屋と客間の部屋の反対側にも部屋がるなんとも大きなお屋敷だ。
 それにさらにバストイレ洗面所が独立していて、どれも広い贅沢な造りになっている。
 さすが林業で財を築いた家の分家と言う所だろうか。
 床の間や欄間を見ただけで十分意匠を凝らした家だった事がうかがい知れ……

「お前か!」

 見上げた欄間には一羽の優美な鳥が彫られていた。
 ちらり、そんな視線と合わさった気もしたが、綾人の胸にしがみ付いている鳥を見ればうっすらと目を開けて俺を見ていた鳥に

「綾人、この鳥はあの欄間の鳥らしいぞ」

 あっさりとばらしてやった。
 どこで生まれたと言うのも気になったがこれなら納得と言わんばかりに見上げれば綾人も志月もやってきて、欄間の中で美しく羽を広げて飛び立たん、そんな姿と綾人を止まり木のようにしがみ付いている鳥の姿は確かに似ていて……

「なんかものすごく残念だなお前」

 綾人の評価に俺はなんとも言えなかったものの

「ばれては仕方がありませんね。
 朱華はあの美しい彫刻の姿を頂いたのです!
 長い間この家と共に暮らし、見守り、家人に愛されてきたのですからね!」

 なんて誇らしげな言葉とそれでもしがみ付いて霊力を奪うように続く食事はまだまだ終わらないようだ。

「ならどうして住む人を驚かせている?」
「当然でしょう!
 家を雑に扱い、家を傷め、共に過ごしこの家を守ってきた木々を気にいらないからという理由で引っこ抜いたり……
 そんなひどい様子を見てはいられなかったのです!」

 そう言ってめそめそと泣きだしていた。
 さすがにこの返答は予想外だった綾人は眉間を細めて
「去年この家に手を入れた時はまだ居なかったよな?」

「朱華の記憶では春の頃から意識があります。
 ここまで三つの家の方を迎え増しが、どれもこれも酷い方達ばかり。
 碌に掃除もせず、食事も手抜きばかり。一日中家でテレビを見ている怠け者。この家にはふさわしくないと何度も忠告したりしただけであります!」

「そうか、原因はお前か……」
「何がです?」

「みんなお前の気配に脅えて出て行ったんだ!」
「失礼ですね!この朱華の美しい姿にどこに脅える要素があるのです!」

 俺の霊力を食べながらもむんと胸を突き出して自分の何が悪いかを理解していない鳥に話が進まないと綾人は溜息を零し、ちらりと暁を見る。
 これは仕方がないんだ。
 そう言うように目配せをすればそこは勘のいい暁。
 ぎょっとした顔で
「綾人お前何を企んでる?いや、やめ……」

「朱華?お前は一度ひよこにまで戻ってその凝り固まった考えもう一度学び直す必要がありそうだね?」
「何をおっしゃる主殿。
 朱華のように美しく完成された偉大な存在がひよこのような無力で愚かな姿に……」
「ひよこのひよさん。可愛いじゃないか」

 ぽんっ!

 その言葉と共に胸元にしがみ付くど派手な朱い鳥は俺の胸元からポロリと床の上に転がって俺を見上げていた。
 何が起きたか理解できない、そう言わんばかりに小さな羽をパタパタさせるけど……

「ふぬー!!!なんで飛べないのですか!
 主殿酷いではないですかー!!!」

 ぱたぱたと羽を羽ばたかせるだけの姿にどこか可愛そうにも見えたが

「ひよこは飛べない、常識じゃないか。
 飛べないひよこはただのひよこだ。
 人生をもう一度学びなおして人様に迷惑をかけない事を学びなおせ」

暗転する世界の中で言いながら俺は遠ざかる意識の中でしたたかに床に倒れこむ痛みを覚えるのだった。


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