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物語の始まりは突然に 3

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これはドラゴン?龍はどうした?
質量保存の法則どこ行った?!
あ、ファンタジーなら問題ないか。
なんてどうすればいいのか全く分からないと言うかこの状況に追いつけなくて吐きそうなほどいろいろ考えている横で

「のう緑青」

 八仙花が声をかける。

「なーに?」
 
 なんて返事をした所でふいに目についた

「尻尾ふわふわ!」

 集中力もかけらもないお子様は目の前のモノにすぐに飛びつくようだ。
 まだ上手く人間の姿にキープできない深杜のしっぽに龍はじゃれつこうとすれば深杜は当然ながら未知の生物に怖いと言う感情にその姿さえ保つことが出来なくなって初めて出会った時の子狐の姿になっていた。
 
「ぼくのしっぽ勝手に触っちゃいやー!」

 なんて尻尾を触らないでと死守する様子。さらには逃げ出せば待ってー!と追いかけるその声は誰が聞いても深杜以外は楽しそうに弾んでいた。
 
「のう、主よ。
 あの付喪神と一体どんな縁で結ばれたのじゃ?」
「一つ聞くが俺がそんなの分かると思うか?」
「まったく興味もなさそうよのう。
 とりあえずあの忌々しい九条に聞けば詳しく主が知りたい言葉を返してくれるだろうが……」

 そう言って八仙花は俺の家の方を見上げ

「主、家に上がらせてもらうぞ」
「俺の部屋と台所以外なら」
 どんな局地的なお断りだと八仙花は思うが、それはそれでそこ以外は招かれたことを少しだけ嬉しく思う心はいつの間にか現れた二本のしっぽがひょこひょこと揺れていた事でばればれだ。 
 八仙花でも深杜みたいにしっぽを出す事があるんだな程度にしか主と呼ばれる綾人は思いもしてないが、それだけ心許す相手だという事は全く伝わってないのが八仙花としては歯がゆくもあり、この距離感を心地よく思っていた。
 
 主の許可の後に初めて上がる家の中を興味ありげに歩きながらも鼻をひくひくさせながら先ほどの龍の、どこか沈丁と丁子の香りが混ざる元をたどる。
 初めての家の中だと言うのに迷いなく足を進める八仙花の歩みについて行けば誰もが一度は目を向ける囲炉裏のある部屋の中心部に目を向けずに白黒写真が妙におどろおどろしさを醸し出す仏間を抜けてその存在を出来る限り隠している階段を上り、この階段からつながる三つの部屋のうち一番訪れる事のない部屋へと迷いなくたどり着いた。
 こうなると次の展開が気になると言うように黙って前を歩く俺よりも背の高い八仙花を眺めて入ればドアを開けて目を細め

「これよの」

 一つの龍の香炉に指をさした。
 眉間にしわを寄せて眺めてしまう。
 先ほど絹の布に包んで箱に入れたはずなのにいつの間にか棚にちょこんと並べられていた香炉に手袋をはめて香炉を両手で包むように持ち上げた。

 緑青とはこの鉄か青銅かなんてわかるわけのない金属製の香炉に浮かびあがるものをさす。
 とは言え生まれたばかりのアレに年月を重ねて得た名前を与えるには頭も行動も似つかわしくない。
 それはもっとなじみのある単純な言葉で十分だ。

「あれに緑青なんてもったいないな。
 あの龍の姿なら青龍君子何て名前も似合ったかもしれないが、今はただの錆、『さび』で十分だ」

 なんてかけらも頭のよさそうではない名前を言えば音も意味も同じのただの俺のこだわり。

「主ー、呼んだー?」
 
 なんて、俺のこだわりにぴったりな手のひらサイズで香炉からポンと小さくコミカルな音を立てて姿を現した。
 っていうか

「その体、どうなってる……」

 あの空を支配するような、あの優美な羽を広げるような、まるですべてが幻だったかのようなその簡略化された名前にふさわしい姿になにが起きたのか頭を抱えたくなるもののふわふわと飛んで俺の頭に着地。

「主の頭もふわふわ~!」

 ものすごく頭の軽そうなやつだと言われたような気になって失礼だなと思うも

「えへへ~、緑青の事さびって呼んでくれるんだ~!」

 馬鹿にした名前なのにこんなにもご機嫌になってしまったので逆に申し訳なくて黙ってしまえば

「主よ、この愚かで無力になり下がった龍は主の使役になっておるぞ」

 八仙花も呆れて言うが、その声に緑青が振り向き

「おっきいふわふわ~!」

 どこか舌っ足らずの声で二本のしっぽに飛び込んで小さな手でしっぽを掴めば振り落とさないくらいにしっぽを揺らしながら遊んでやる八仙花にご機嫌の緑青は楽しそうな悲鳴を上げて、やがて力尽きて「きゃあ~!」なんて悲鳴を上げながら吹き飛ばされて姿を消したのちに本体と言うべき香炉からひょっこりと姿を現すまでがその一連の遊びだった。




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あけましておめでとうございます!
変則的な時間の更新になります。
家族サービス優先の為休みが終わるまで不定期更新で宜しくお願いします。
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