175 / 319
深山 6
しおりを挟む
山道を歩くのはいつぐらいぶりか。
若い頃は修行だと言われて何度も山道を歩かされた事を思い出した。
ただ歩いた道は何人もの修行僧が踏み固めた歩きやすい道だった為、このようなぬかるんだ獣道の様な山道に苦労した。
「叔父貴、遅いよ」
「うるさい!こっちは年寄りなんだぞ!」
言うもあの凄い付喪神が手に入ると思っているご機嫌な甥っ子達は足取り軽くどんどん進んでしまう。
こっちは汗も噴出して座りたいというのに……
「あ、沢の音が聞こえる」
「マジ?喉が渇いたから水を飲みたい」
「そうだな。叔父貴もばててるし、ちょっと休憩しようか」
「やったね。じゃあ先行ってるから」
すぐそばで聞こえる沢の音に甥っ子達はさっさと向かってしまい、それを追いかけるように足を運べばすぐに涼やかな水音を立てる穏やかな流れの沢へと出た。
大きな石が転がり沢に降りるのも苦にならず、それどころか甥達は川に転がる石に飛び移って遊びだしてまで居た。
若いとは元気だという事か。
呆れながらも沢に降りて汗ばむ体を冷ますような水を両手ですくって一口すする。
「うまい」
「だよな。生臭さもないし、これだけ山奥だとほんと水が綺麗で安心だよ」
甥の一人は靴を脱いで川に足を浸して完全に休息の状態になってしまっていた。
そして他は川に転がる石に飛び移って向こう岸に行って少し探検をしたようで、喜色を浮かべて戻ってきた。
「向こうにあの男が言っていた祠があったぞ!」
「結構立派でなんかお高そうなものが飾ってあったよ」
「ほんと?!叔父さん、早く見に行こうよ!」
一人別方向に探索に出た甥っ子が早くとせがめば水遊びをしていた甥っ子が
「靴下履くから、みんな待ってよ!」
目的地が分かった事で途端に元気になる甥っ子達を自分の子供があんなことになってしまっただけに可愛く思ってしまった。
兄の優秀な息子とは違い、後継者から外れた他の甥っ子達は少しやんちゃに育ってしまったが、京都から追い出された儂を今も変わらなく慕ってくれて、あの事件以来眠りについている息子を思いやってくれる。
寝たきりになってしまった息子の事も今も心配してくれてかわいさがあふれ出せばあの龍さえ手に入れば他の付喪神なぞくれてやってもいいと思った。
あの男に奪われた儂の付喪神も取り返して最後は呪い殺してやろう。龍を連れて戻った時は楽に死なせてたまるかと舌なめずりしながら殺害方法を考えながら甥っ子達を追って川を渡った。
それからすぐにかなり古い祠があり、だけどその周囲にはあふれんばかりの紫陽花が咲き乱れていた。
「紫陽花の季節なんてとっくに終わってるのに」
「これだけ涼しいから遅咲きなだけじゃないのか?」
「ふーん」
「花なんて興味ないねー」
なんて言いながら祠の扉を開ければたくさんのお酒やお供え物のお菓子が並んでいた。
「うわー、こんな山奥まで来る奴いるのか」
「タマゴボーロなんて、今も売ってるんだな!」
笑いながらお供え物を眺め、山登りの疲れと程よい空腹から
「頂きまーす」
袋を開けて食べようとすれば
「あら、珍しい。こんな山奥で人に会うとは思わなかったわ」
袋を開けようとした手が驚きも合わさり思い切り袋を開けてしまった拍子に中身をこぼしてしまった。
仕方がない。
こんな所で人に会えば驚くしかないのだから。
しかもすらりとした肢体の腰までまっすぐと伸ばした黒髪の女性がそこに立っていたのだから。
さらに言えばこんな山奥で出会ったというのに思わず見惚れてしまうくらいの美女だったのだから仕方がない。
「あ、こんにちは!」
愛想のよい甥っ子の一人が声を上げれば
「こんにちは。
登山にいらしたのですか?」
「はい!ちょっと探し物も兼ねて山歩きを楽しんでます」
「お姉さんはこちらにはどのような御用で?」
「ふふふ、この祠の掃除と、今晩のご飯に山菜を?
他にも何かあれば良いのにと思ったの」
なんて少し顔を赤らめながらくすくすと笑うその仕草に甥っ子達のテンションはさらに上がる。
見た目もスタイルも良ければその女性らしさを兼ね備えた体のラインを隠そうともしないピタっとしたシャツとスポーティなズボンは禁欲的な生活を求められている甥っ子達には刺激的すぎて、この人目のない山奥と程よい祠と言う広さの室内に四人の甥っ子は視線で話を付ければタイミング悪く
「あら、やだわ。雨が降って来たわ」
「まあ、山の天気は変わりやすいと申しますか、少し中で休ませてもらいましょう」
その様子を見てこのような山奥まで付き合ってもらったのだから手を貸してやろうと風邪をひかないようにと言う言葉で女を祠の中に案内するのだった。
にやにやと何かを期待する甥っ子達にさすがにがっつき過ぎだと苦笑を禁じえなかったけどそこでふいに違和感を覚えた。
この祠は大きくはなかったはずなのにこんなにも広かっただろうか。
甥っ子達を見れば誰もそこには気づいてないようで気のせいかと思っていた。
だがすぐに激しく降り出した雨は分厚い雨雲を引き連れてきて雷さえ呼び寄せた。
すぐそばを通り過ぎる雷の輝きの中、見てしまった。
あの美しい女には獣のような耳があり、そして八本の尾と裂けた口から覗く鋭い牙を。
「!!!」
声もなく慌てて全員で祠から逃げだすものの、すぐに飛び掛かって来た女に甥の一人がぬかるんだ地面に足を取られた瞬間捕まって……
その後は後ろなんて見ていられないというように先を走る甥っ子達の背中を懸命に追った。
若い頃は修行だと言われて何度も山道を歩かされた事を思い出した。
ただ歩いた道は何人もの修行僧が踏み固めた歩きやすい道だった為、このようなぬかるんだ獣道の様な山道に苦労した。
「叔父貴、遅いよ」
「うるさい!こっちは年寄りなんだぞ!」
言うもあの凄い付喪神が手に入ると思っているご機嫌な甥っ子達は足取り軽くどんどん進んでしまう。
こっちは汗も噴出して座りたいというのに……
「あ、沢の音が聞こえる」
「マジ?喉が渇いたから水を飲みたい」
「そうだな。叔父貴もばててるし、ちょっと休憩しようか」
「やったね。じゃあ先行ってるから」
すぐそばで聞こえる沢の音に甥っ子達はさっさと向かってしまい、それを追いかけるように足を運べばすぐに涼やかな水音を立てる穏やかな流れの沢へと出た。
大きな石が転がり沢に降りるのも苦にならず、それどころか甥達は川に転がる石に飛び移って遊びだしてまで居た。
若いとは元気だという事か。
呆れながらも沢に降りて汗ばむ体を冷ますような水を両手ですくって一口すする。
「うまい」
「だよな。生臭さもないし、これだけ山奥だとほんと水が綺麗で安心だよ」
甥の一人は靴を脱いで川に足を浸して完全に休息の状態になってしまっていた。
そして他は川に転がる石に飛び移って向こう岸に行って少し探検をしたようで、喜色を浮かべて戻ってきた。
「向こうにあの男が言っていた祠があったぞ!」
「結構立派でなんかお高そうなものが飾ってあったよ」
「ほんと?!叔父さん、早く見に行こうよ!」
一人別方向に探索に出た甥っ子が早くとせがめば水遊びをしていた甥っ子が
「靴下履くから、みんな待ってよ!」
目的地が分かった事で途端に元気になる甥っ子達を自分の子供があんなことになってしまっただけに可愛く思ってしまった。
兄の優秀な息子とは違い、後継者から外れた他の甥っ子達は少しやんちゃに育ってしまったが、京都から追い出された儂を今も変わらなく慕ってくれて、あの事件以来眠りについている息子を思いやってくれる。
寝たきりになってしまった息子の事も今も心配してくれてかわいさがあふれ出せばあの龍さえ手に入れば他の付喪神なぞくれてやってもいいと思った。
あの男に奪われた儂の付喪神も取り返して最後は呪い殺してやろう。龍を連れて戻った時は楽に死なせてたまるかと舌なめずりしながら殺害方法を考えながら甥っ子達を追って川を渡った。
それからすぐにかなり古い祠があり、だけどその周囲にはあふれんばかりの紫陽花が咲き乱れていた。
「紫陽花の季節なんてとっくに終わってるのに」
「これだけ涼しいから遅咲きなだけじゃないのか?」
「ふーん」
「花なんて興味ないねー」
なんて言いながら祠の扉を開ければたくさんのお酒やお供え物のお菓子が並んでいた。
「うわー、こんな山奥まで来る奴いるのか」
「タマゴボーロなんて、今も売ってるんだな!」
笑いながらお供え物を眺め、山登りの疲れと程よい空腹から
「頂きまーす」
袋を開けて食べようとすれば
「あら、珍しい。こんな山奥で人に会うとは思わなかったわ」
袋を開けようとした手が驚きも合わさり思い切り袋を開けてしまった拍子に中身をこぼしてしまった。
仕方がない。
こんな所で人に会えば驚くしかないのだから。
しかもすらりとした肢体の腰までまっすぐと伸ばした黒髪の女性がそこに立っていたのだから。
さらに言えばこんな山奥で出会ったというのに思わず見惚れてしまうくらいの美女だったのだから仕方がない。
「あ、こんにちは!」
愛想のよい甥っ子の一人が声を上げれば
「こんにちは。
登山にいらしたのですか?」
「はい!ちょっと探し物も兼ねて山歩きを楽しんでます」
「お姉さんはこちらにはどのような御用で?」
「ふふふ、この祠の掃除と、今晩のご飯に山菜を?
他にも何かあれば良いのにと思ったの」
なんて少し顔を赤らめながらくすくすと笑うその仕草に甥っ子達のテンションはさらに上がる。
見た目もスタイルも良ければその女性らしさを兼ね備えた体のラインを隠そうともしないピタっとしたシャツとスポーティなズボンは禁欲的な生活を求められている甥っ子達には刺激的すぎて、この人目のない山奥と程よい祠と言う広さの室内に四人の甥っ子は視線で話を付ければタイミング悪く
「あら、やだわ。雨が降って来たわ」
「まあ、山の天気は変わりやすいと申しますか、少し中で休ませてもらいましょう」
その様子を見てこのような山奥まで付き合ってもらったのだから手を貸してやろうと風邪をひかないようにと言う言葉で女を祠の中に案内するのだった。
にやにやと何かを期待する甥っ子達にさすがにがっつき過ぎだと苦笑を禁じえなかったけどそこでふいに違和感を覚えた。
この祠は大きくはなかったはずなのにこんなにも広かっただろうか。
甥っ子達を見れば誰もそこには気づいてないようで気のせいかと思っていた。
だがすぐに激しく降り出した雨は分厚い雨雲を引き連れてきて雷さえ呼び寄せた。
すぐそばを通り過ぎる雷の輝きの中、見てしまった。
あの美しい女には獣のような耳があり、そして八本の尾と裂けた口から覗く鋭い牙を。
「!!!」
声もなく慌てて全員で祠から逃げだすものの、すぐに飛び掛かって来た女に甥の一人がぬかるんだ地面に足を取られた瞬間捕まって……
その後は後ろなんて見ていられないというように先を走る甥っ子達の背中を懸命に追った。
106
お気に入りに追加
1,027
あなたにおすすめの小説
もふもふで始めるVRMMO生活 ~寄り道しながらマイペースに楽しみます~
ゆるり
ファンタジー
☆第17回ファンタジー小説大賞で【癒し系ほっこり賞】を受賞しました!☆
ようやくこの日がやってきた。自由度が最高と噂されてたフルダイブ型VRMMOのサービス開始日だよ。
最初の種族選択でガチャをしたらびっくり。希少種のもふもふが当たったみたい。
この幸運に全力で乗っかって、マイペースにゲームを楽しもう!
……もぐもぐ。この世界、ご飯美味しすぎでは?
***
ゲーム生活をのんびり楽しむ話。
バトルもありますが、基本はスローライフ。
主人公は羽のあるうさぎになって、愛嬌を振りまきながら、あっちへこっちへフラフラと、異世界のようなゲーム世界を満喫します。
カクヨム様にて先行公開しております。
3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜
西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。
転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。
- 週間最高ランキング:総合297位
- ゲス要素があります。
- この話はフィクションです。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
オタクな母娘が異世界転生しちゃいました
yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。
二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか!
ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~
夏柿シン
ファンタジー
新作≪最弱な彼らに祝福を〜不遇職で導く精霊のリヴァイバル〜≫がwebにて連載開始
【小説第1〜5巻/コミックス第3巻発売中】
海外よりも遠いと言われる日本の小さな離島。
そんな島で愛犬と静かに暮らしていた青年は事故で命を落としてしまう。
死後に彼の前に現れた神様はこう告げた。
「ごめん! 手違いで地球に生まれちゃってた!」
彼は元々異世界で輪廻する魂だった。
異世界でもスローライフ満喫予定の彼の元に現れたのは聖獣になった愛犬。
彼の規格外の力を世界はほっといてくれなかった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる