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職場を斡旋されました

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 父から逃げるように王都の下町に逃げ込んだ私は商人ギルドへと足を運んだ。 
 時折屋敷に足を運んでくる商人との会話でそう言うのがある事と場所は聞いていた。
 そこでは店やどこかのお屋敷に使用人として派遣をしてくれると聞いていたのでそれを頼りに足を運ぶも

「申し訳ありません。
 せっかくのお申し出なのですが……」

 と言って言葉を濁されてしまった。
 商人ギルドに登録の際に書いた名前にアーヴィンと書いた所で受付の女性か表情を曇らせ暫く裏の事務所に行ったかと思えばこれ以上とないくらい申し訳なさそうな顔でお断りされてしまった。
 更に隣にはいかにもベテランですと言う女性を並べてカウンターの一番隅の衝立に遮られた場所で詳しく説明をしてくれた。

「当ギルドのご利用ありがとうございます。
 ですがこの商人ギルド・アラベスクでは一定の技量と身分を必要としております」
「はあ……
 技量は他人に評価してもらわないと判らない物の身分に関してはこれでも名ばかりですが伯爵家の令嬢です。十分なのでは?」

と言葉の出し惜しみをせずに家がピンチな事も含めてアピールするも

「はい。アーヴィン家と言えばこのミュルジェール国でも名の知れ渡る古くから続く伯爵家と言う事は我々も理解しています。
 ですが、現当主の抱える負債によりお屋敷を手放したと言う事を我々は危惧しております。
 失礼ですがアーヴィン様は学校に通われました?」
「え……あの……」
「社交界にデビューは?」
「えーと、その……」

 矢継ぎ早の質問に思わず顔が自然に俯いてしまった。
 貴族の令嬢としての最低限の義務を私はまだ果たしてなかった。
 15歳になると16歳の社交界デビューを目指す為に淑女としてのマナーとデビューの日に国王とお会いする為の儀礼を学びに学校に行く事が一つの義務とされている。
 もちろん家の都合もあるのでそれはあくまでも目安の年齢なのだが、貴族ならそのくらいの蓄え位は普通ならある物なのだ。
 だけど私はまだ経験してない。
 理由はごく普通に学校に通うだけのお金が足りなかったのだ。
 その時にはほぼ金目のものが残っておらず、男爵家のお母様のご実家が立て替えてくれるとの申し出があったにもかかわらず父は伯爵家の俺に恥をかかせるつもりかと激高して……
 ああ、母が父を見捨てる理由は十分だと改めて思い知るのだった。

「この商人ギルドで派遣する人材についてはそう言った人の過去にまつわる話も大切にします。
 マナーを学んでおられない伯爵の令嬢にどのようなマナーを学ぶと言うのか、学校を経験してない令嬢にどうすれば我が子に学校の様子を伝え学ばせる事が出来るのか、働かせようにも破産した伯爵家の令嬢にどのような験を担げと言うのか。
 結婚の経験も出産の経験もない令嬢にどうすれば娘を預ける事が出来るのだろうか……
 もうお分かりですね?
 当ギルドが派遣する使用人はそう言った点において総てが経験者と言う即実践で働ける人材ばかりなのです。
 それこそ皿洗いでもよろしいのなら直接お店の店主と相談すればいいのですから」

 それはもう斬り付けられるような言葉の数々に最後の方はあふれる涙でまともに聞く事も出来なかった。
 今までお家の為に一生懸命やってきたつもりだったが、他人から見ればすべて自己満足の世界の中に居たのだ。
 小さなハンカチを目元に押さえつけて何をとっても中途半端以下の私に受付の女性は私が落ち着いたのを見計らって何やらさらさらと一枚の紙に手紙を書き始めた。

「貴女が無知で世間知らずなご令嬢だと言う事は理解できました。
 ですが我々もこの商人ギルド・アラベスクと言う名前を守る責務があります。このギルドには何百という店主が商人としてお客様から信頼を勝ち取る為に登録を頂いています。
 他の商人ギルドもそうですが店主達を守る為に登録の際はふるい落とす事もやむを得ないと我々は判断します」

 言いながらその手紙を私に向けて差し出してくれた。

「代わりではないですが私達商人ギルドと違い来るもの拒まずの冒険者ギルドを紹介します。
 こちらはアラベスクからの道のりの地図で、もう一枚が紹介状です。
 簡単に私達が知り得るアーヴィン家の情報とアーヴィン家令嬢のお仕事の斡旋をお願いしておきました。
 お一人でこのような鞄をお持ちと言う事はもう帰る場所もないのでしょうと想像が付きます。
 住み込み可能な使用人のお仕事を冒険者ギルドでも取り扱っているのでどうぞ冒険者ギルド・ルノワールで一度ご相談する事を私は提案します」

 厳しい言葉を言う人だったけど最後まで親切にしてくれた。
 落ちぶれた貴族令嬢にも懇切丁寧に説明をして救いの手を与えてくれた。
 手の甲で涙を拭う薄い化粧も施せない私に最後まで営業スマイルを崩さないままギルドの外まで案内してくれた。

「アーヴィン様の職場が素晴らしいお屋敷であることを願っております」

 そう言って送り出された私は書いてもらった地図を頼りに冒険者ギルド・ルノワールへと向かうのだった。





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