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公爵様、探さないでください

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 着の身着のまま、はだしで暗闇の中を歩いていた。
 足の裏がひりひり所か痛くてきっと皮膚だって裂けている。
 けどそんな痛み何て心の痛みに比べたら大した事じゃないと言う様に足は彷徨う様に前に出る。
 どこをどう歩いて来たのか気が付けばビクトール様の家に引き取られる前の自分で稼いで得る事の出来た家の前にいた。
 まだ空家のままの家は煌びやかな貴族のお屋敷から見たらみすぼらしく、よくこんな所に住んでいたなと感心さえしてしまう酷さだった。
 窓にはガラスがなく、ドアは傾いている。
 狭い小さな庭は雑草が伸び放題になっていた。
 壊れた扉を無理やりこじ開けて入ればカビと埃の匂いに咳込みそうになるも見慣れた室内は少し離れただけで懐かしさの込み上げる我が家だった。
 ほっとした瞬間今まで我慢した何かが決壊する。
 何もない部屋の片隅にしゃがみこんで声を上げて泣きじゃくってしまった。
 ビクトール様が俺を気にかけるのは優しさからかも知れない。
 だけど本当は俺が昔貴族だった事と王様と同じ目をしているからが理由だなんて……

 認めたくなかった

 年甲斐もなく何か裏切られた悔しさに声を上げて泣いていれば

「フラン……か?」

 恐る恐ると室内に足を運んできたのはマウロだった。
 夜の闇を背負ってきたために顔は判らなかったが、見覚えのある靴と背格好、そして忘れる事のない声に

「マウロ……」

 俺の弱弱しい声と着の身着のまま飛び出した姿に気づいてぎょっとしただろう顔で慌てて俺の側に寄り添ってくれた。

「おい、一体何があった?
 こんな恰好、何かされたのか?!
 って、何だこの血の匂い、怪我をしてるのか?」

 憤怒する声で着ていた上着を俺にはおらせてくれて足の裏の怪我を見つけた。
 とりあえずと言う様に足が床に着かないように俺を膝の上に抱きかかえてくれた。

「違う。大丈夫だよ、酷い事はされてないよ。ただ……」
「ただ?」

 暗がりで心配そうに俺の顔を覗き込むマウロに

「俺が勝手にビクトール様の優しさを勘違いしたんだ」

 判らないというように眉をひそめる顔に

「ビクトール様に望まれて養子になったと思ってたのに、ちゃんと理由があってその為に俺は保護されてたんだ。
 望まれて必要とされたと思ったのに、違ったんだ!!!」

 裏切られたと思った。
 そんなわけではないけど家族を、夢のような帰る場所を尊敬していた人に与えられたと思っていたのに、それは俺の思い込みだったのだ。
 保護しなくてはならない血統で、その血筋の意味を知るビクトール様は誰かに利用される前にと俺を保護しただけだった。

 悔しくて、何の見返りも無くこんなにも親切にされるわけないじゃないかと分かっていたのにと思えばまた涙がぽろぽろと零れ落ちた。

「ああ、もう泣くな……」

 マウロが一生懸命涙を拭ってくれる。
 頭を抱きしめるように、冷めきった体を温めるようにさすってくれる。

「何されたか判らないけど、俺がお前を守ってやるよ。
 俺なんかが大したこと出来ないけど……
 そうだ、俺フランの為に直ぐに仕事見つけてくる。
 パン屋はまあ俺には向かなかったし、二人で暮らす家に住もう。
 何ならここでもいい。
 俺がずっとそばにいてやる。だからそんな寂しそうな顔で泣くな」

 一生懸命に励ましてくれるマウロのおかげでゆっくりと顔を上げる事が出来た。
 見上げた先にはマウロの無計画な未来と能天気なあかるさがあって、それが無性にうれしくて眩しくて目を細めてしまう。

「俺じゃあ不安なのはわかってる。
 俺だってまたお前を笑わせてやれるか判らないけど、だけど俺お前の為に生きるから、ずっと一緒にいるから、だからもう泣く事はないんだ。
 もう大丈夫だ」

 なによりも欲しい言葉に込められた温もりを、何の言葉の裏も含まない言葉通りの優しさに目を瞑ればそっと唇が重ねられた。
 次第に体重を掛けられてあの日とは違うと言う様に優しく俺を包む様に。
 無計画で何の保証もないけど呆れるぐらいに裏のない優しさだけを俺に差し出してくれたマウロの乞うままに俺は望むままに初めての総てを差し出していた。







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