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人生負け組のスローライフは楽しい事で詰め込まれている事は誰にもわかるわけがない 6

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「竈炊きのごはんっておいしいねー!」

 香奈の歓喜の悲鳴に俺は頷きながらご飯をお替りする。
 冷蔵庫にある野菜と猪の肉の鍋と言う我が家の定番中の定番料理に囲炉裏でじっくりと焼いた虹鱒と言うこれもまた定番メニュー。
 俺は二階の温まってない部屋での作業に凍え切ってしまった為にじっくりとお風呂で温まってただいまアツアツのお鍋とぬる燗と言うほかほか気分でお鍋を食べていた。
「動画で見ていたけどほんと綾人さんの家で囲炉裏囲んでご飯食べてたのね」
「動画用に撮影したわけじゃないしな。大体囲炉裏がないとほんと寒すぎる家だし」
「そう思うと障子って偉大ね。さっきまであれだけ寒かったのにもうこんなにも暖かいもの」
「部屋の外に一歩出るとさっきよりもっと寒いぞ」
「綾人香奈ちゃんを脅かさないの。
 ストーブ代わりに竈の火も落としてないし、土間のストーブもついてるからそこまで寒くないよ」
「翔ちゃんありがとう!」
 にこにこと鍋は一口も口にせずご飯ばかり食べる様子がどうやら香奈の悪阻のパターンらしい。
「こういうのもありなのか?」
 こそりと圭斗に聞けば
「昔からご飯をおなか一杯食べるのが香奈の夢だったから……」
 ご飯をおなか一杯って白米の事かと引かずにはいられないのが篠田家の食事事情。
「冷蔵庫に上島の家のお米があるから精米して持って帰れ。
 玄米のまま保存してあるから精米したら27キロになるけど圭斗と分ければ何とかなるか?」
「それでも多い。燈火の所にも持っていく」
「じゃあ、先生の所にもよろしく」
 先生がご飯炊くわけではないので面倒見てくれと遠回しに言えば美味しいうちに消費できるので良しとしようと言うように口角が上がる圭斗も白米大好き人間。バアちゃんのおかげで好物がおにぎりなのは知らないふりをしておく。
 不思議な事にあれだけふんわりと結んだおにぎりなのに食べていてばらける事のないおにぎりにコツはと聞けば
『そんなもの数むすめば上手に結べるようになるよ』
 なんてさらりと言われてしまうおにぎりは塩がきつめのバアちゃんがつけた梅干しのおにぎりが一番好きだった。
 飯田さんが結んでくれるおにぎりも良いしいのだがやっぱりどこか塩が甘目なのでものたりない。味蕾の多い飯田さんの限界なのだろうけど、それでも食べる人を思って味を調えてくれるそんな所もほんとプロの意地を見せてもらう気分だよ。
 美味しくご飯ばかりを香奈が食べる事もあり、残ったご飯をおにぎりにして夜食を用意した所で
「じゃあ、残りの障子張ってくるから」
「まだやるのか」
 圭斗が明日にすればと言うものの
「明日はまた違う仕事が入ってるし、飯田さんも来るからそれまでに仕上げておきたいし」
 風邪ひいたら大変だしねと言えばご実家に戻って一から学びなおしていると言う様子はそれなりに新しい人間関係に気を使って疲れている様子は見てわかるほど。
「せっかく来てもらって風邪をひかせて帰る事になったら飯田さんのお父さんに申し訳立たないからね」
 宮下が俺の言いたい事を言ってくれた。
 歪ながらも今までは俺一人でやって来たことだけどお金を払って宮下に手伝ってもらえることで引け目を感じなくって堂々とお願いもできる事になった。
 一人では二日、三日とかかっていた仕事が二人掛なら一日で終わるとなれば頑張るのは当然と言うもの。
 残りももう少し出し頑張ろうかとほとんど貼り終わって後はかすかな段差を目安に合わせて切り取るだけ。囲炉裏で室内に媚びつくす巣のせいで黒くなる障子が真白になる景色は美しく
「だったら私も手伝うよ」
「姿勢がきついだろうから香奈は洗い物を頼むわ。給湯器の使い方聞いただろ?」
「うん。レトロすぎてさすがに使い方わからなかったよ」
 子供には一切お金をかけなかった篠田家だが新しいもの好きで生活には湯水のごとく使いまくっていた為に給湯器なんて使ったことがないと目新しさに笑う始末。
「陸斗だって使いこなしたから香奈も負けるなよ」
「お姉ちゃんだから負けてられないな」
 そう言って袖をまくってみんなで土間上がりまで食器を写せばそこからは香奈が運んで洗ってくれた。
 食器の重なる音を聞きながら俺達はうっかり囲炉裏の火を貰わないように注意しながら障子紙の余分な部分を切り取り、まだ少し張り終えてなかった障子も張っていく。
 三人がかりの作業はあっという間に終わり、最後の一枚を完成した時の達成感はひどく満足感を覚えて誰ともなく笑みを浮かべるのだった。 





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