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足跡は残すつもりがなくとも残っていく 8
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きっとこれがご実家での流儀なのだろう。いつものお犬様がどこにもいなくてかっこいい……なんて思う前に初めて見る飯田さんの姿に人見知りが発動しそう。
宮ちゃんヘルプ……
ぜったい来そうもないなと一瞬でこの場を逃げ出したくなるもののその間にも一度下がっていたようで
「失礼します」
植草さんと共にお料理を運んでくれていた。
お肉を一切使ってない精進料理。
久しぶりの東京のうだるような夏に食欲減退なんて言葉が無かったかのようにこの優しいお味の品々に箸が進むのは確定だ。
そして注いでもらう冷酒は植草さんから。
飯田さんからじゃないんだと少し驚きながらも頂く。
それを合図にスローペースでゆっくりとお酒を交わしながら爺さんとの思い出話を語り、気が付けば食事を終えていた。
次第に会話も途切れ、すっかりお昼の時間を回っても誰も来ないこの豪邸の静かさに少し寂しさを覚えた所でピンポーンとチャイム。
植草さんがすぐ対応してくれてここに案内してくれた。
そこに現れたのは沢村裕貴さん。
あと義理で呼んでおいた不動産屋、名前は熊野と言う。
仲介なんて必要ないかもしれないけど最後に見に来ませんかと誘えばお盆休みだと言うのに義理でも来てくれた似非義理堅い人に少しだけ意表を突かれた。
絶対お金が絡まなければ動かないと思っていたのにと前に意地悪し過ぎたかと思うも挑発してきたのは向こうなので良く冷えた冷茶をお出しする程度のおもてなししかしない。
だけど壁一面のお花にさすがに手ぶらで来たのは申し訳なく思ったようで、仏壇でもないのに慌てて写真に向かって手を合わせるあたり、ここで踏み絵を踏まされた事を理解したのだろう。
爺さん一家とのつながりはここまでだと……
その間桜井さんは浅野さんと別の部屋で待機してもらってお父さんのお料理を堪能していたらしい。
役者がそろったところで始まる話し合い、長い間お待たせした申し訳のなさはビジネスの場なので一切ない。
そう、俺はこの日を決断すると決めていたのだ。
「さて、食事も終わったところでこの邸の購入の話しを進めましょうか」
言えば桜井さんと裕貴さんはさっと準備を始め、植草さんは足音もなく下がって行ってしまった。
取り残され楓雅さんは間抜けな顔をしていた。
少しいいものが見れたと思いながらも話が進まないので
「この家を購入するつもり、今もお変わりないのでしょう?」
「あ、ええ。喉から欲しいのは変わりませんが……」
今まで何を言っても譲り渡す気配のない俺からの提案だからこそ余計急な展開に追いつけてないのだろう。
「相変わらず爺さんの息子と思えないくらいとろいな」
初回の顔合わせの時も思ったことを素直に言えばむすっとして
「親父みたいな化け物がごろごろ転がっていてたまるか。
なのに親父のような奴が友達して並んでいたら普通はこうなるものだぞ」
なぜか抗議をされてしまった。
そこは俺の有能なスルー機能がフルで発揮されて無視を決める。人の話を聞いてないともいうがそこは割愛。
「まあ、爺さんとは最後までテンポのいい話をさせてもらったが、それで買うの?買わないの?」
「買うに決まってるだろ!」
なぜか逆切れされてしまった。
まだまだだなと一年前に知り合って何度も話し合いの場を設けたけどだいぶましになった程度。最後と言うように俺が何も考える間もなく話を進めればやっと即決する楓雅さんににぱっと笑い
「お買い上げありがとうございまーす。
では、裕貴さん、桜井さん。またよろしくお願いしまーす。
熊野さんは指くわえて見ていて下さーい」
本日一番のテンション高い声がお願いすれば苦笑する熊野さんを横目に二人はまたあの日と同じくいろいろな譲渡契約の書類を必死になって作り始めるのだった。
説明義務から俺も楓雅さんも長いこと拘束され、気が付けば夜を迎えていた。
もちろん夕食もこの場に残った人の分だけふるまわれる。
昼間の精進料理とは打って変わり
「鮎の塩焼き、皮がパリパリで塩気がサイコーです!」
「よかったです。清流で育てている虹鱒ばかり食べているのでお口に合わないかと思いました」
「何をおっしゃる飯田さん。それはそれ、これはこれ。夏の味を満喫できるって幸せです!」
「吉野君は若いのにこういうのがいいのか」
「楓雅さんは判ってないな。飯田一族の手にかかればどのような素材も最大限に引き出してくれる受け継いだ精神があるのですよ」
言えば廊下であいさつに来ていたお父さんが深く頭を下げてくれた。
ただ努力だけではなく、親から学び、その親も親から学んだ掛け替えのない記憶。
そして頭を上げた所でちらりと飯田さんを見れば、そっと視線を逸らせるお犬様。
青山さんは品よく笑って見せるもやっぱりお父様的には飯田さんに受け継いでもらいたいらしい。
庵さんが受け継ぐ予定ではいるらしいが
「今回の料理は総て薫が献立を組んで材料も用意したものです。
気に入って頂けたようでうれしく思います」
なんですと?!
「い、一切、フレンチのフの字もないのに……」
「綾人さんって地味に和食がお好きなのでずいぶんと鍛えてもらいましたから」
からりと良い笑顔で笑うお犬様だけど獰猛さはどうも隠しきれてなくて思わず裕貴さんの背後に隠れながら
「そんなことないですよー。
俺を食育してくれた人がいろいろな料理を食べさせてくれるので何でも食べられるようになっただけですー」
素知らぬ顔をしてフレンチのシェフに無理難題ばっかり言っていたみたいな言いがかり止めてくださいと言えばお父さんも青山さんも笑うも
「因みに今度お邪魔するときに食べたいものは?」
「あ、頂き物の西京焼きがあります。いつも丸こげになるので上手に焼いて食べさせてください」
きりっとした顔でお願いしてしまう。
この話の流れで言うかと言う楓雅さんの顔だけど
「綾人よ、頂き物とはいかんな。
今度用意したものを届けるからそれを薫に焼かせなさい」
お父さんの謎の対抗意識がやって来たー!
一瞬顔が引きつりそうになるもののそこはうまく筋肉を誘導して
「やったね!お父さんの西京焼き楽しみです!」
満開の笑顔を作ってみせればお犬様のすねた顔。
俺だって作ってるじゃありませんかと言う心の声が駄々洩れで青山さんなんかもう隠すのをやめて、だけど一応顔を背けて笑っていた。
宮ちゃんヘルプ……
ぜったい来そうもないなと一瞬でこの場を逃げ出したくなるもののその間にも一度下がっていたようで
「失礼します」
植草さんと共にお料理を運んでくれていた。
お肉を一切使ってない精進料理。
久しぶりの東京のうだるような夏に食欲減退なんて言葉が無かったかのようにこの優しいお味の品々に箸が進むのは確定だ。
そして注いでもらう冷酒は植草さんから。
飯田さんからじゃないんだと少し驚きながらも頂く。
それを合図にスローペースでゆっくりとお酒を交わしながら爺さんとの思い出話を語り、気が付けば食事を終えていた。
次第に会話も途切れ、すっかりお昼の時間を回っても誰も来ないこの豪邸の静かさに少し寂しさを覚えた所でピンポーンとチャイム。
植草さんがすぐ対応してくれてここに案内してくれた。
そこに現れたのは沢村裕貴さん。
あと義理で呼んでおいた不動産屋、名前は熊野と言う。
仲介なんて必要ないかもしれないけど最後に見に来ませんかと誘えばお盆休みだと言うのに義理でも来てくれた似非義理堅い人に少しだけ意表を突かれた。
絶対お金が絡まなければ動かないと思っていたのにと前に意地悪し過ぎたかと思うも挑発してきたのは向こうなので良く冷えた冷茶をお出しする程度のおもてなししかしない。
だけど壁一面のお花にさすがに手ぶらで来たのは申し訳なく思ったようで、仏壇でもないのに慌てて写真に向かって手を合わせるあたり、ここで踏み絵を踏まされた事を理解したのだろう。
爺さん一家とのつながりはここまでだと……
その間桜井さんは浅野さんと別の部屋で待機してもらってお父さんのお料理を堪能していたらしい。
役者がそろったところで始まる話し合い、長い間お待たせした申し訳のなさはビジネスの場なので一切ない。
そう、俺はこの日を決断すると決めていたのだ。
「さて、食事も終わったところでこの邸の購入の話しを進めましょうか」
言えば桜井さんと裕貴さんはさっと準備を始め、植草さんは足音もなく下がって行ってしまった。
取り残され楓雅さんは間抜けな顔をしていた。
少しいいものが見れたと思いながらも話が進まないので
「この家を購入するつもり、今もお変わりないのでしょう?」
「あ、ええ。喉から欲しいのは変わりませんが……」
今まで何を言っても譲り渡す気配のない俺からの提案だからこそ余計急な展開に追いつけてないのだろう。
「相変わらず爺さんの息子と思えないくらいとろいな」
初回の顔合わせの時も思ったことを素直に言えばむすっとして
「親父みたいな化け物がごろごろ転がっていてたまるか。
なのに親父のような奴が友達して並んでいたら普通はこうなるものだぞ」
なぜか抗議をされてしまった。
そこは俺の有能なスルー機能がフルで発揮されて無視を決める。人の話を聞いてないともいうがそこは割愛。
「まあ、爺さんとは最後までテンポのいい話をさせてもらったが、それで買うの?買わないの?」
「買うに決まってるだろ!」
なぜか逆切れされてしまった。
まだまだだなと一年前に知り合って何度も話し合いの場を設けたけどだいぶましになった程度。最後と言うように俺が何も考える間もなく話を進めればやっと即決する楓雅さんににぱっと笑い
「お買い上げありがとうございまーす。
では、裕貴さん、桜井さん。またよろしくお願いしまーす。
熊野さんは指くわえて見ていて下さーい」
本日一番のテンション高い声がお願いすれば苦笑する熊野さんを横目に二人はまたあの日と同じくいろいろな譲渡契約の書類を必死になって作り始めるのだった。
説明義務から俺も楓雅さんも長いこと拘束され、気が付けば夜を迎えていた。
もちろん夕食もこの場に残った人の分だけふるまわれる。
昼間の精進料理とは打って変わり
「鮎の塩焼き、皮がパリパリで塩気がサイコーです!」
「よかったです。清流で育てている虹鱒ばかり食べているのでお口に合わないかと思いました」
「何をおっしゃる飯田さん。それはそれ、これはこれ。夏の味を満喫できるって幸せです!」
「吉野君は若いのにこういうのがいいのか」
「楓雅さんは判ってないな。飯田一族の手にかかればどのような素材も最大限に引き出してくれる受け継いだ精神があるのですよ」
言えば廊下であいさつに来ていたお父さんが深く頭を下げてくれた。
ただ努力だけではなく、親から学び、その親も親から学んだ掛け替えのない記憶。
そして頭を上げた所でちらりと飯田さんを見れば、そっと視線を逸らせるお犬様。
青山さんは品よく笑って見せるもやっぱりお父様的には飯田さんに受け継いでもらいたいらしい。
庵さんが受け継ぐ予定ではいるらしいが
「今回の料理は総て薫が献立を組んで材料も用意したものです。
気に入って頂けたようでうれしく思います」
なんですと?!
「い、一切、フレンチのフの字もないのに……」
「綾人さんって地味に和食がお好きなのでずいぶんと鍛えてもらいましたから」
からりと良い笑顔で笑うお犬様だけど獰猛さはどうも隠しきれてなくて思わず裕貴さんの背後に隠れながら
「そんなことないですよー。
俺を食育してくれた人がいろいろな料理を食べさせてくれるので何でも食べられるようになっただけですー」
素知らぬ顔をしてフレンチのシェフに無理難題ばっかり言っていたみたいな言いがかり止めてくださいと言えばお父さんも青山さんも笑うも
「因みに今度お邪魔するときに食べたいものは?」
「あ、頂き物の西京焼きがあります。いつも丸こげになるので上手に焼いて食べさせてください」
きりっとした顔でお願いしてしまう。
この話の流れで言うかと言う楓雅さんの顔だけど
「綾人よ、頂き物とはいかんな。
今度用意したものを届けるからそれを薫に焼かせなさい」
お父さんの謎の対抗意識がやって来たー!
一瞬顔が引きつりそうになるもののそこはうまく筋肉を誘導して
「やったね!お父さんの西京焼き楽しみです!」
満開の笑顔を作ってみせればお犬様のすねた顔。
俺だって作ってるじゃありませんかと言う心の声が駄々洩れで青山さんなんかもう隠すのをやめて、だけど一応顔を背けて笑っていた。
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