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一人、二人、そして 1

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「ステキ!」
「ウツクシイ!」
「キレイ!」
「カワイイ!!!」

 覚えて初めて活用したと言わんばかりの片言の日本語の微笑ましさに長年この庭を眺めてきた爺さんは孫を見る目で眺めていた。

「そんなにも良いか?」
 なんて簡単な質問にアイヴィーは勿論!と言うように瞳を輝かせていた。
「カオルの家にも負けないステキなガーデンよ!」
 アイヴィーを紹介しながら挨拶をさせれば
「何もない家だがゆっくりしていきなさい」
「そんなコトありません!ステキなお庭です!」
 なんて始まる常套句に
「だったら案内して進ぜよう」
 爺さんも若いお嬢さんに鼻を延ばしてエスコートを買って出ればそのまま腕を組んで庭散策に旅立ってのこのテンション。
 植草さんも午後出勤なのでその前に顔だけでも出してくれたのでついでにアイヴィーを紹介。
 俺と一緒に庭を眺めながら
「彼女がアメリカ学会の奮闘賞を頂いた方ですね」
「ご存じでしたか。あの時はいろいろありまして急遽作って頂いた賞を受賞しました」
 懐かしくて苦笑。
 俺も賞をもらったが、あのピンチを乗り切ったアイヴィーの筋をぴんと通した背中と全部の信頼を俺に預けてくれた度胸は普段からはとても想像のできない彼女の強さ。
 そんなところをかっこいいよなと思いながらもボキャブラリーの少ない言葉できゃっきゃと騒ぐ様子はどこまでもおバカな感じがぬぐえない。
「このおバカ加減がかわいいってやつなのだろうな」
「まあ、覚えられた言葉の数の少なさがそう思わせるのでしょう」
 飯田さんは俺が迎えに行っている間一度帰って寝てきたのですっきりとした顔をしている。
 お昼前に集合としていたのでおひるごはんも購入してやって来たので今からお昼が楽しみでしょうがないというようにうきうきしてしまう。
 完全に胃袋をつかまれて支配されるとこんな感じになります。
 さりげなく俺のせいじゃないと飯田さんは植草さんにアピールしていた。
「ところで彼女がいらした理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ん?アイヴィーはセキュリティの事なら俺以上にすごいからな。
 今のところ爺さんの家って知名度で安全は保障されているけど、爺さんっていうお守りがなくなった時この無防備な家は出入り自由な危険地帯になる。
 爺さんが存命の間は大丈夫だと思いたいが、その後がいろいろ危険をおぼえてしまう。
 何せかつては敬遠した奥方の残したお飾りなどはまず爺さんの目が黒いうちは手が出さなかったものだろうから女同士の戦いが始まるのがまず一戦。何気に毛皮のコレクションもすごかったのでそこで二戦。毛皮なんぞ裏山でいくらでも取れるのにと思うもそれじゃないのだろうなと日本の固有種ではない動物達が絶滅していく理由に納得しながら絵画のコレクションや茶室を構えるように古美術なんかの有名所もあってこれで三戦が組まれていると俺は思っている。まあ、ワインなんかもあるだろうが、そこはおまけみたいなものだろう。
 一番はこの家の権利所。
 すでに銀行の貸金庫に入れて片づけてある。
 そして譲られた手間賃代わりのこまごまとした権利書も纏めて入れてある。
 あまりのぞんざいな扱いに爺さんの会社の顧問弁護士の桜井さんはものすごく残念そうに俺を見ていたが、正直に言うと譲られて困るものなのだ。爺さん的には争いの火種をすべて現金化して金的な解決を試みたと言う処だろうが、人のものに対する欲はそんなものではない。
 金も欲しけりゃ物も欲しい。
 後日当然というように迎えるだろうトラブルはもう弁護士対応してもらうしかないと割り切っている。
 一度桜井さんに
「会社に居づらくなったら俺が雇いますよ?」
 なんてかなり本音で提案してみたものの申し訳なさそうな顔をして
「企業弁護士の経験しかないので万が一の時は一度修行に出てから引退するころお世話になりたいと思います」
 なんて体のいい言葉で振られてしまった。
 沢村さんだって歳だし、裕貴さんはまだ現役で家族を養わないといけないからね。
 俺個人で雇うとなると今のようにお勤めするという姿勢をお子さんに見せられなくなるので教育上あまりよくないと俺は判断して言い出せない状態になっている。
 沢村さんと裕貴さんのつなぎに誰かいい人いないかなと思っていた所で桜井さんとの出会い。
 スカウト失敗は残念だけど、いざとなったら沢村さんに腹を割って話し合いするつもりはある。
 
 縁側でゴロゴロしながら遠くから聞こえたアイヴィーの笑い声にどこの幼稚園児だよと口元が緩んでしまうもすぐに二人はお庭一周の旅から帰ってきてしまった。

『アヤトーただいま。
 お爺ちゃんのお家ステキね!
 綾人の好きなアナベルが咲いていたわ。オールドローズも見応えがあったし、茶室も素敵だったわ』

 やっぱりそこに目が行ったかと着物を着てから日本マニアになり、ついには一人で着物の着付ができるようになったどころか着物も仕立てることが出来るようになった謎のやる気は残念ながら俺には理解できなかった。
『着付は紗凪に教えてもらったの。タブレットで何度も指示をしてもらったわ。
 無事一人で切れるようになったらお土産でもらった反物で着物を縫う事も教えてもらったの。
 着物って直線に縫うだけだから簡単よって言ったのに模様合わせるのとか難しくって全然簡単じゃなかったわ』
 そんなやり取りをしていたことに驚いたけど
『俺も最低限の裁縫はするけど反物を縫うとかはないなあ』
 むしろ縫っても着る気がないので興味もわかない。
 アイビーが着る分には見て楽しむものの、着物なんて二度と着ない。 
 絶対に着ない。
 心の中で強く決意を固めていれば
「これが去年の秋に実家で着せてもらったやつです」
 なぜか飯田さんが俺の着物姿の写真を見せていた。
 三人で並んだものではなく俺単体の・・・・・・
「ずいぶん豪勢な着物だな。
 昔見た覚えがあるもののようだが・・・・・・」

 憐れむようかの爺さんの言葉とあえて言葉にしない浅野さんと植草さんの優しさに少しだけ涙が浮いた。

  








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